第12話 ゴブリンの襲撃1
日が落ちて、周囲が暗くなる。
シズフェ達は開けた場所にいて、また星明りもあるので焚火がなくても、ある程度は見える。
だが、それは星明かりが届く場所だけだ。
木々が生い茂る森の中は完全な闇であり、暗視の魔法が使えない人間は何も見えない。
森の中で何かがこちらを見ているのをシズフェは感じる。
「いるね……。私にも感じるよ。こちらを狙っている」
シズフェは顔を森の方を見ずに言う。
シズフェは加護として敵を感知する能力を与えられている。
危害を加えようと狙っている相手がいた場合、それを感じ取る事ができる。
この敵感知はノーラの感覚よりも優れているが、相手がこちらを狙っている場合のみ発動する。
奇襲には向かないが、奇襲されない能力といえるだろう。
狙っている者達の数はかなり多い。
「ああ、近づいているとはっきりわかるのは5体。ゴブリンだろうな。ただ、何匹か隠れているみたいだ。結構強いかもしれないな」
ノーラは何も変わらない様子で言う。
「まずいな……。ノーラの感知出来ない相手がいるって事か。やっかいだな。どうする歌でも歌うか? シズフェの歌ならいけるだろ」
ケイナは険しい顔をして言う。
ゴブリンは歌が苦手だ。
綺麗な歌声を聞くと彼らは頭がたまらなく痛くなるらしく、もし争いを避けたいと思うのなら歌うと良いだろう。
もっとも、吟遊詩人ぐらいの歌唱力がないと逃げてはくれなかったりする。
「そりゃないぜ、ケイナ姉。奴らを野放しにしていたら他の奴らを襲うぜ。ここで叩くべきだ」
ノヴィスはケイナに抗議をする。
力と戦いの神トールズの信徒は自身の命と引き換えにしてでも滅ぼすべきと教えられる。
その信徒であるノヴィスとしては戦ってゴブリンを滅ぼすべきだと考えるのは普通だった。
「待って、ノヴィス。突っ走らないで勝てそうにないのなら戦いを避けるのも仕方がないわ……。それはわかって」
シズフェはノヴィスを止める。
この幼馴染の男はいつも危険な所に突っ走る。
今まで生きているのが不思議なぐらいだ。
身近な人間に死んでほしくない。
それに、トールズと同じエリオスの神でも知恵と勝利の女神アルレーナは無謀な戦いは避けるべきと教えられる。
アルレーナの使徒であるシズフェとしては勝てそうにないのなら避けるべきだと考える。
「シズちゃん。歌うのは無理みたいだよ。音乱しの風が吹いている。相手に呪術師もいるよ」
魔力を感知したマディアは空を見上げて言う。
音乱しの風は歌が苦手なゴブリンが使う魔術である。
この風が吹いて場所では歌声が乱れてしまう。
そういえば先ほどから仲間達の声が少し変に聞こえる。
「ゴブリンの呪術師がいるのですか……。それに隠密に長けた者も。強敵ですね。ですが私達なら勝てます。そうでしょうシズフェさん」
レイリアが笑って言う。
「そうね、勝つしかないわ。勝利の女神アルレーナ様。貴方の忠実なる使徒に御加護を」
シズフェは自身の進行する女神に祈る。
敵意を周囲に感じる。
シズフェ達は覚悟を決めるのだった。
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