第11話 夜営

 森の近くで夜営をする上で重要なのは火を焚いて良い場所を探す事である。

 それがシズフェがケイナから教わった事だ。

 夜の闇は人間に味方しない。

 魔物を多くは夜目が効くが、人間は暗闇では見えない。

 そのため、夜営をする時は火を焚いて明りを確保するのである。

 だが、もし森の近くか森の中で火を焚く場所は考えなければならない。

 なぜなら、森の中で火を焚くと緑人グリーンマンの怒りを買うかもしれないからだ。

 緑人グリーンマンは体毛の代わりに枝や葉っぱを生やした人間のような姿をした種族だ。

 普段は森の中で木と同様動かないが自身が住む森が危険にさらされると動きだし、敵対者に攻撃するのである。

 彼ら全員が優秀な精神魔法の使い手であり、知性を持たない獣や魔獣を操る事ができる優秀な獣使いビーストマスターだ。

 彼らの怒りを買えば森全体を敵に回すと言って良いだろう。

 近くに緑人グリーンマンが住んでいそうなら、火を使う時も森に火が移らないように細心の注意をしなけばならないのである。

 エルフのノーラはシズフェよりも森に詳しく。

 どのような場所なら緑人グリーンマンの怒りを買わずに火を焚けるか知っている。

 ノーラが指定したのは開けた場所で近くに川がある場所であった。

 雨が降らず河が増水しないのなら、ここで野営するのが良さそうであった。

 シズフェ達は馬車を近くに止め、夜営の準備を始める。

 まだ、夜になるには早いが、夜営できる場所がこの先にあるとは限らないので今のうちに準備をしておいた方が良いだろう。

 薪になりそうな木切れを集め、火をおこすとシズフェは料理の準備を始める。

 シズフェとレイリアが料理の準備をしている間にケイナとマディアとノーラとノヴィスが魔物が近づいた時にわかるように警報装置を作る。

 いつも通りの役割分担であった。

 やがて、周囲が暗くなりシズフェ達は焚火を囲んで食事をとる事にする。


「おっ! これうめえな! 急に腕を上げたなシズフェ!」


 ノヴィスがシズフェが用意したものをバクバクと食べながら言う。

 

(相変わらず大喰らいね。その元気を食欲がないマディに少し分けて欲しいわ)


 シズフェは隣のマディアと見比べながら呆れる。

 マディアは馬車に酔い、食欲がないようであった。

 しかし、少しでも良いから食べておかないとこの先が続かないだろうと心配する。


「急に腕が上がるわけがないでしょ……。ソノフェン王国の方々が用意してくれた保存食を使ったのよ」


 シズフェは説明する。

 実は最初の方は別に買い込んだ物を食べ、用意してくれた保存食は温存していたのだ。

 そして、今日貰った保存食を使ったのである。

 用意してもらったのは乾燥穀物に乾燥パンに干し肉、塩漬け、チーズ、乾燥マメ、干果、木の実、酢等である。

 あらゆる保存食を用意してもらったと言って良いだろう。

 しかも、品質が良くそれぞれがかなり美味しいのである。

 例えば乾燥パンは固くて、水かスープに浸さないと食べられないが、もらった物はそのままでも齧る事ができる。

 干し肉も塩辛すぎず、味が良かった。

 シズフェはそれらの具材を使いスープを作ったのである。

 やわらかく煮込んだので食欲がないマディアも食べる事ができるようにと思ったのである。

 乾燥穀物と干し肉と木の実を入れたスープからは良い匂いが漂っている。

 ケイナもレイリアも美味しそうに食べている。

 ただ、ノーラだけは肉が食べられないので、その部分だけは避けて食べているようであった。

 

「まあ、謙遜するなよ、シズフェ。実際にうめえんだからよ。レイリアはともかく他の奴が作ったらきっとまずいのしかできねえぞ」


 そう言ってケイナが笑う。

 

「ケイナ姉は雑すぎるのよ……。きちんと作れば誰だって美味しいのが出来るわよ」


 シズフェはスープを匙で口に運びながら言う。


「そんな事はないと思うけどな。シズちゃんの料理。いつも美味しいもの」


 マディアはそう言ってハーブ茶をすする。

 シズフェ達が普段飲んでいるのは水かそれに酢を入れたものである。

 マディアはハーブ茶が好きなので焚火をした時はお湯を沸かして必ず淹れたりする。

 シズフェの分も淹れてくれたのでハーブの良い香りが近くでする。


「私もそう思いますわ。シズフェさんの料理はとてもお上手ですよ」


 レイリアもまた褒める。

 シズフェとしてはレイリアの方が料理が上手だと思う。

 良い御嫁さんになりそうだが、運命は彼女にそれを許さなかった。

 そんな彼女にシズフェは自身を重ねる事があったりする。


「もう~。みんな……。うん、どうしたの? ノーラさん?」


 食事をしている時だった。

 ノーラの様子がおかしい事に気付く。


「……、みんな。静かに食事をしながら聞いてくれ。今何者かに見られている感じがした。はっきりとはわからない。だけど警戒はしてくれ」


 ノーラがそう言うと全員が息を飲む。

 どうやら、危険が近づいてきそうな気配だった。 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る