第2話 討伐の終わり

 森の木々が夕日で赤く染まり始めている。 

 ゴブリン討伐は昼に始まり、夕刻には終わろうとしていた。

 シズフェは夜になる前に終わって良かったと思う。

 夜の闇は人間に味方せず、闇の種族であるゴブリンに味方する。

 夜行性のゴブリンには暗視の能力があるが、通常の人間にはないからである。

 夜にゴブリンと戦えば数が多くても負けている可能性もある。

 そのためソノフェン王国は昼間に討伐を行ったのだ。


「レイリアさん。ノーラさん。お疲れ様」


 シズフェは戻って来た仲間であるレイリアとノーラに声をかける。


「かなり、あっさり片付きましたね。怪我をされた方もあまりいないようですし、良かったですわ」


 レイリアは穏やかな笑みを浮かべて言う。

 一見するととても優しそうな女性である。 

 だが、その手に持つメイスにはゴブリンの血がこびりついているのが見える。

 顔にも返り血がついており、かなり激しく戦ったようだ。

 彼女はケイナよりも年上の25歳。

 そして、シズフェと同じように知恵と勝利の女神アルレーナに仕える聖職者である。

 天使から加護を受けているので神聖魔法を使え、先ほどまで癒しの魔法で怪我をした戦士達を見て回っていた。

 前線で戦いながら、傷ついた仲間を癒す事のできる彼女はまさに戦女神の司祭と言えるだろう。


「ああ、かなり簡単に片付いたな……。だが、奇妙だな、この森はゴブリンが住むには適していない。それがこれ程の数が住み着いている。もしかすると北の森で何かあったのかもしれない」


 そう言ってノーラは考え込む。

 耳が人間よりも長く、緑色の髪をしたノーラはエルフだ。

 エルフは女性しかいない種族であり、ノーラも当然女性である。

 またノーラは山エルフと呼ばれるオレイアド種であり、オレイアド種はエルフの中でもっとも弓が得意である。

 その彼女の弓でシズフェは何度も助けられた。

 ケイナ、マディア、レイリアにノーラ。

 この4人がシズフェが率いる戦士団の仲間であり、普段から行動を共にしている。

 もう1人仲間がいるが、その者は戻って来ていない。


「そうなの? ノーラさん?」


 シズフェはノーラに聞く。


「ああ、おかしい。ゴブリン達の争いで負けた者達が森を追い出されたにしてはかなり数が多い」

「そうなんだ。何が起きたのだろう?」

「それはさすがにわからないな。悪いことがおきなければ良いが」


 ノーラがそう言うと仲間達は考え込む。


「はあ、考えてもわからねえことは考えない。それよりも行こうぜ腹が減っちまった」


 ケイナは頭を掻きむしって言う。

 その通りであった。

 考えてもわからない事は仕方がない。


「そうだよ。それよりもシズちゃん。戻ろうよ」


 マディアがそう言って森から出る事を提案する。

 隠れているゴブリンがいるかもしれないが、夜になれば探索どころではない。

 他の戦士達も森から撤退し始めている。


「そうね、ノヴィスはまだなの?」


 シズフェは残っている仲間の名を口にする。

 シズフェの仲間で唯一の男性である彼はまだ戻って来ていない。


「わかりませんわ。一番最初に突撃して奥まで行きましたから。まだゴブリンを探しているかもしれません」


 レイリアは首を傾げて言う。


「まったく、あいつは……。でもあいつなら夜でも問題ないわね。先に戻ろっかみんな」

「そうだな。まあ、ノヴィスなら問題ねえか。戻ろうぜ」

「そうそう、ノヴィ君なら大丈夫だよ」


 シズフェがそう言うとケイナとマディアが頷く。

 こうして、ゴブリン退治は終わったのであった。


 

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