第5話
それから特に何もされることはなく、数日。普通の生活を過ごしていた。少し変わったことがあるとするなら、美咲が対吸血鬼用のお守りを私にくれたことと、何をするにも美咲がついてきてくれるようになったことか。
そして最悪なのが、隣の席に吸血鬼がいることだろうか。
『やっほ〜、楓ちゃんと隣の席になれて嬉しい』
『そう……それはよかった』
不幸中の幸いなのが一番うしろの席であることだろうか。こればっかりは運だからどうしようもない。
「じゃあペアを作って練習してくれ〜」
大きな声で先生がそう言った。
今は体育の授業で、体育館でバレーをすることになった。
「しのちゃ……」
「楓ちゃん、一緒にペアにならない?」
「ごめん、私には美咲がいるから」
「……せんせぇ〜三人でも大丈夫ですか? 私仲の良い人この二人しかいなくて……」
「ん、おお〜いいぞ!」
「ね?」
この吸血鬼……!
美咲に目を配ると困ったような笑みで首を縦に振った。流石に私も大勢の前で転入生の頼みを断れるような人柄ではなかった。
「まあ、いいけど」
なんだかんだ、勝手に血を飲む無礼さが嫌なだけで、今は特に何もされてない。彼女も彼女で反省したのだろうか。そう思うと、ただ礼儀を知らない異国の人なのだと思えて申し訳なかった。まあ許さないけど。
「ねえ、日本に来て浅いの?」
「ううん、もう何百年はいるかな。一番トラブルがないから」
「……そう、あのね、言いたいことがあるの」
「なに?」
「いきなり人の血を飲んだりしちゃだめ、ちゃんと許可とか取らないと」
「そうなの?」
「うん。こっちもびっくりしちゃうから」
「……今までの人は喜んで差し出してくれたからなあ」
それはそれで、どういうことなんだ?
「分かった。気を付けるね」
「うん、そうして」
言えばわかるじゃないか。美咲の方を振り返ってウインクすると、呆れてため息をついていた。
「よし、ペアはできたようだな、じゃあ一人ボールを取りに来てくれ」
「しのちゃん、行ってきて」
「人使い荒いなあ」
なんともこの二人を残すのは嫌なんだが、こんな短時間で何か起きるわけもないので、素直にボールを取りに向かった。戻ってきた時の二人の険悪な空気には耐えられそうになかったが、すぐにオーバーハンドパスから練習が始まった。
「一条さんって、バレーはしたことあるの?」
「大抵はあるわよ。結構どのスポーツもこなせるのよ」
言葉の通り、変な音もしず、軽い音でパスが回る。しかもリカバリーをしてくれる。どんなところに落ちても抜群の運動神経でボールを拾うのだ。
だが、それは彼女だけではなかった。
「美咲も上手だよね」
「まあ、これくらいのことは余裕だよ」
「人間にしては上手いわね」
「祓ってるので」
「…………」
私が変なところに飛ばしたボールを、二人がきれいに返して戻してくれる。美咲は多分基礎的なことを知らないが、持ち前の運動神経で素人目に上手いとわかる。
「私いる?」
無言の圧を感じる。流石にいるみたいだ。
その後、アンダーハンドパス、それらを交互に。アタック、基礎的な練習を終えると五分間の休憩を貰った。次は女子のチームを三つに分けて試合をするらしい。
「私だけ違うチームみたい。二人は同じなんだ……」
パワーバランスがどうとか言いたくなるが、吸血鬼は経験者枠、美咲未経験枠で用意されてるみたいだ。ちゃんとしっかりしていた。
「あ、Cグループは休憩なんだ、なら私の活躍見ててね」
「勿論! しのちゃん頑張ってね」
「頑張って〜、楓ちゃんの有志ちゃんと見てるね」
この二人、大丈夫だろうか。
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