第2話 朱田と「先生」

「終わった〜」

 塾の帰り、家までの道を一人で自転車に跨り駆けていく。いつもは。

「お、朱田じゃん。家こっちなの? 」

「外川か。俺はI町だけど、そっちは? 」

「K地区あたりかな。」

 遠いとかのレベルでは無い。自分なら、電車で行っていると思う。

「そういえば、クリスマス、海にいたよな? 」

「なんで知ってるんよ。」

「俺も友達といたから」

 親しい友達の一人は彼女と過ごしているのが、羨ましい。自分もいたのだが、女性との関係を持ったことがなく、疎遠になってしまった。

「適切な距離感って難しくて、どう付き合えばいいか分かんないんだよね……」

「これとかはやったの? 」

 と言って、手で輪っかを作り、人差し指を出し入れする。

「あるはずないでしょ! というか一応犯罪だからね!? 」

「これは? 」

 両手で二匹の狐を作り、尖った部分をくっつける。

「……出来てない……」

「じゃあこれは? 」

 祈るように手を組む。

「したことあるけど……」

「けど? 」

「なんか怖いっていうか、自分が相手の空間を犯しているような気がして……」

「それが合法になるのが、付き合うってことじゃないかな! 」

その瞬間、心がパッと晴れた。

今まで、俺は恐れすぎていたのだと思う。でも、傷つくのは当然のことだし、傷ついてしまうのは当然の事だ。なんか、進路相談していたら、悩みを消し飛ばす提案や一言をくれたみたいで、夜の街灯で星が見えない空に月だけがぼやっと見えた。

「じゃ、俺はこっちだから! バイバイ! 」

「バイバイ! ありがとな! 」


恐れすぎ、か。そうかもしれないな。

「しかし、どう話しかければいいものやら……聞けばよかった……」


既読のみついた彼女のLINEに文字を打ち込む。

「学校でも話しかけてもいいかな? なんて打ち込んだが、キモいな、と思い一度消す。しかし、これじゃあ何も始まらない。終わったままになってしまう。


結局『キモいと思った文章』は、そのまま採用され、送信ボタンを押した。


吉に転じるか凶に転じるかは分からないけど、動かないことには始まらない、か。その通りなんだけどな。

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しゃっふる・おぶ・さんかく 碧井詩杏 @4an_seisankari

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