第14話 勇者の仲間、マギル



 前から「ちょっと待て!」と声が聞こえたような……?




「おい! こっちを見ろよ!!」


 あ、幻聴じゃなかったんだ。と思いながら、前にいる男三人を見る。

 筋肉を膨らませただけの男に、手下? のような男が二人がいた。




「何の用だ? 俺は忙しいのだが?」

「嘘つけ! さっき散歩と言っていたのが聞こえたんだからな!!」

「…………ハァ、遠回しに話をしたくないと言っていたんだが……、熊には通じなかったようだな」

「な、何だと!?」


 ゼロにとっては、定番である絡まれる新人冒険者というイベントに出会ったのはいいが……、ただウザいだけだとわかり、悪態を吐きたくなる。




「はん! お前程度が冒険者なんて笑せるな! あんな細身で武器さえも持ってないクセにどうやって魔物を殺すんだよ!! ザコはザコらしく家に篭ってろ!!」

「ほう?」


 熊みたいな男にザコと言われ、フォネスは鋭く目で睨み、前に出ようとしたがゼロに手を上げて止められた。

 つまり、ゼロが相手するから黙ってろという合図だった。

 フォネスは悔しそうに黙って下がった。




「で、俺をザコと言うなら、お前はそれほどに強いと言うんだな?」

「そうだ! 俺はCランクの冒険者、ギハス様だ!! 新人冒険者でしかないお前と比べるなんておこがましいわ!!」

「Cランクねぇ……」


 冒険者には、ランクという階級がある。

 一番上は数が少ないけど、SSSランクという階級があり、新人冒険者はFランクから始める。

 今のゼロは新人冒険者だから、Fランクのスタートになり、先程、ギハスと名乗った男は、三つ上の階級であるのだ。

 だが、ゼロは……




「はぁ……、これがCランク? ギルドは大丈夫なのかよ……」

「何だと!?」


 ゼロは変わらずに、バカにしていた。

 ギハスは怒りで、ゼロの肩を掴んだ。




「そうだろう……」




 掴んできた手に右手を添えるゼロ。

 そして……




「この程度が、この俺をザコと言うとはね!!」

「がぁぁぁぁぁ!?」


 急にギハスが悲鳴をあげ、膝に地を着けていた。よく見ると、ゼロに掴んでいた手がゼロの右手によって潰されそうとしていた。

 かじろうとして、骨には異常はないが……




 ミシミシ……




 明らかに骨が鳴ってはいけない音を出していた。

 傍観に徹していた周りの冒険者は細身であるゼロがCランクであるギハスを膝に着かせている姿を見て驚いていた。


「これで、ザコだとまだ言えるのかな?」

「か、がぁぁぁ、は、離せ……」

「ほう、まだそんな口をきけるなんて、まだお仕置きが足りないようだな」


 ゼロの手に込める力が強くなった。ミシミシと言う音が強くなった。


「離せと言っているだろぉぉぉぉぉ!!」


 ギハスは残った手で殴り掛かろうとするが、ゼロにとっては見え見えで、右足で殴りかかられる前に残った手を踏んだ。




「いぎゃぁぁぁぁぁ!!」




 踏んだ手は、確実に骨が折れた。ゼロならトマトのように潰せるが、ここが汚れてしまうと後がうるさそうだから、骨を折るだけに留めたのだ。




「ここまでやったが、まだお仕置きを貰いたいか?」

「ひぃっ! や、止めてくれぇぇぇ!!」


 ようやく、ギハスは力の差がわかったのか、さっきの態度と変わっていた。

 後ろにいる手下みたいな男は、ゼロを怖がっていて震えていた。




「さて〜、あと一本貰ったら許してやるよ」


 そう言って、さらに手に力を込めた。ギハスはその意味がわかったのか、青ざめていた。


「や、やめてくれ……、あ、謝るからぁぁぁ!!」


 その言葉を無視して、手を潰そうとしたら…………






「待て!」






 と扉の方から筋肉質の男が待ったを掛けていた。

 ゼロはその大きな声で手に力を込めるところでピタリと止めていた。

 タイミングを外されたような感じだった。


「ここで新人冒険者が絡まれていると聞いて来たんだが……、なんだ? この状況は?」


 筋肉質の男、そう、勇者の仲間であるマギルと言う男だ。

 たまたま一人で行動している時に、新人冒険者が絡まれていると、他の冒険者が助けを求めていたので、来てみたら……




 細身で何も武器を持ってない男が、腰に武器があり、強靭な身体を持った男を組み締めていたのだ。


 わからない。まさか、強靭の身体を持つ男が新人冒険者と言うのか? と思ったマギルだった。




「状況がわからんが……、何があったんだ?」

「ひ、た、助けてくれぇぇぇ!!」


 ギハスが助けを求めていた。

 とりあえず、その場を片付けようと、マギルはゼロに話し掛けていた。




「すまないが、放してやれないか?」

「あん? そっちが絡んできたんだから当然の権利だろ?」


 やっぱり、そっちが新人冒険者だったのか……と思いつつ、確かに絡まれたなら正当防衛として返り討ちされても文句は言えない。

 だが……


「ここはギルド内だ。私闘は禁止されているから、ここで止めた方がいいぞ」

「……ふむ、この状況では私闘と見られるのか。ただのお仕置きのつもりだったんだがな……」

「これがお仕置きかよ……」


 確かに、ギルドの注意には、『ギルド内での私闘を禁じる』と書かれていた。

 外でやるなら勝手にしろ、と言う意味にも取れるが、ここはギルド内でこの行為がお仕置きではなく、私闘と見られるなら、止めたほうがいいだろう。




「まぁいい。今回はこれで許してやろう」

「あ、は、はい! すいませんでしたぁぁぁ!!」


 解放してやるとギハスは謝って手の痛みに耐え、ギルドから出ていった。




(ふむ、Cランクじゃ、この程度か)

『……みたいだね……、それより、……その男、話……があるみたい……』


 レイの言う通りに、マギルが話し掛けてきた。




「お前はとんでもない奴だな……。新人冒険者か?」

「そうだが? 何か用があるのか?」

「いや、お前と話して見たかっただけだ。俺はSランクのマギルと言う」

「Sランク……」


 目の前の男はSランクのようだ。先程、逃げ出した男と違って実力が高いのがわかる。




「そうだ、お前の名を聞かせてもらっていいか?」

「……ゼロだ」

「ゼロか、で、隣にいる女性はお前の仲間か?」

「そうですが、何か?」


 フォネスはマギルには興味ないのか、返事は素っ気ない。




「仲間なら、止めろよ」

「……はい? 何でですか?」


 フォネスは意味がわからないように首を傾けていた。

 それをマギルは信じられないような表情だった。


「おいおい……、ゼロは相手を再起不能にさせるつもりだったぞ。それを仲間が止めないのか?」

「止める必要はありませんでしたからね」

「なっ!?」

「主であるゼロ様を馬鹿にしていたのです。そんなクズは消えてもいいですし」


 何を当たり前なことを言わせているのですか? と言うような喋り方だった。




「主……、ゼロ様? お前達は主従関係か? まさか、何処かの貴族と言わないよな?」

「そこまで答える義務はないな」


 そろそろ10分経ったので、ギルドカードを受け取るために話を打ち切った。




「おい!?」


 後ろから声が聞こえたが、無視して先程の窓口に向かった。




「そろそろ、10分だが?」

「はい。こちらになります」


 そう言って、ギルドカードを渡された。

 そこには、紙に書いたことが出ていた。

 名前、種族、武器は何を使うのか、など簡単なことしか書かれていない。




(これが身分証明になるなんて、簡単すぎるな……)

『……そうだね、……前の世界は……細かいよね……』

(そうだな)


 これで終わりかと思ったが、受付嬢から話の続きがあった。




「これで冒険者になりました。ゼロ様のような強き者は歓迎いたします。ただ、ギルド内での私闘をしないようにお願いしますね」

「はいはい、了解したよ」


 なんというか、度胸のある受付嬢だなと感心していた。




「依頼はあの掲示板から持ってこちらにどうぞ。あ、私はリディアと言います。

 今後ともよろしくお願い致しますね」

「わかった。覚えとくよ」


 これで、やることは終わったのでまず、街を見回ろうと思ったら……




「待ってくれよぉ……、無視しないでくれ……」

「…………」


 マギルは泣きそうな顔になってゼロを引き止めていた。

 筋肉質の男が泣きそうになって引き止める姿は、さすがに、気持ち悪いなと思ったが……




「……はぁ、少しだけだぞ」

「お、ありがたい!!」


 マギルはパァッと明るくなった。




「で、他に何かあるのか?」

「おう! ゼロは新人冒険者だが、強いとわかる。だから、聖騎士にならないか!?」


 また周りからざわっと音を立てていた。

 聖騎士になるためには、王宮にいる者からの推薦が必要だ。

 それが、王宮に勤めるマギルが、ゼロを聖騎士にならないかと誘いをかけたのだ。

 だが…………




「断る」


 これで話は終わりか? としばらくマギルを見ていたが、続きがなかったからマギルの横を通り抜けてギルドから出たのだった。




 当のマギルは、断られてしまうとは思わなくて、驚愕した顔のまま、固まっていた。






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