第11話 圧倒的




 ギルド長から依頼を受けたラスガパーティの方では……




「こりゃ、自然に起きた爆発じゃねぇな」


 コーラスと言う男は爆発現場を見て、そう発言した。

 そう、三人はもう初心者の森で起こった爆発事件の現場にいた。




「この感じ……、魔力の残り香を感じるわ」

「つまり、魔物か人間のどちらかが起こしたことか?」

「ええ、その可能性が高いわ」


 リーダーのラスガとメイが出した結果は、人為的な爆発だということ。




「これが魔物だったら、ヤバいな……」

「もしくは、魔人かもしれないわ」

「魔人か……」


 魔人という者のは、上位魔物が進化し、人間と変わらない知能があり、凄まじい力を持つ。

 自分達はベテランの冒険者だが、そんな相手では歯が立たないことはわかる。

 倒すには、王国にいる聖騎士クラスの実力が必要だと言われている。

 その魔人が初心者の森にいるなんて、信じたくないことだ。ここら辺は、初心者の冒険者が多い。

 沢山の死が生まれるのは好ましくない。




「やはり、用心の為にギルド長に魔人の可能性もあると伝えた方がいいな」

「おいおい、これだけで魔人がやりましたと伝えるのかよ?」

「コーラス、念のためよ」


 人為的に起こしたことがわかったのだから、可能性として伝えるべきだろう。

 大きな爆発を起こしたのに、周りの森には被害が少なかった。

 つまり、この爆発をこの広場だけに留めたということ。そんなコントロールが出来るとなると、上位魔物の中では少ないだろう。

 さらに、魔人であれば、これくらいならやるだろうと推測したから、魔人の可能性を考えたのだ。




「ふむ、少し周りを調べてから報告だな」

「そうね、他に何か見つかるかもしれないし」


 少し爆発現場の周りを調べることにした。




「二手に別れて調べようぜ、その方が早く終わるだろ?」

「それはいいけど、二手?」

「ああ、俺は一人でいい。お前達は二人で調べていな」

「……もし、目的の魔物を見つけても、手を出すなよ?」

「わかってるぞ」

「…………」


 コーラスは一人で行動すると言い、ラスガが注意を促すが、軽い返事をするコーラス。

 メイはホントか? と疑っていたが、このままでは時間の無駄なので、二手に分かれることに。




「何かあったら知らせろよ!」

「はっ、ここら辺の魔物には簡単にやられねぇよ!」


 コーラスは自信満々に、答える。

 ラスガとメイは二人で組み、コーラスの反対側を調べることに。




「……大丈夫か?」


 ラスガはコーラスが何かやりそうで、心配だったのだが、コーラスの姿が見えなくなって、ため息を吐くことしか出来なかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 一人で行動するコーラスの方では……




「ケッ、もし出会っても戦うなだと? 冗談だろ、楽しそうな獲物を他にやるわけねぇだろ」


 もし、出会ったら注意を無視して、一人で戦うつもりだ。

 この前の討伐依頼、楽しめそうだと思って請けたが、期待外れで燃焼不足なのだ。




「しかしなぁ、アレが前は強かったなんて信じられないな」


 アレと言うのは、上位魔物で、村をいくつも潰されたという情報があったのだが、戦ってみると、そんなに強力な魔物だと思えなかったのだ。




「まぁ、いい……。今回はどうだろ…………あ?」


 呟きながら歩いていたら、何かの反応を見付けたのだ。

 コーラスは『魔力察知』を持っていて、半径30メートル以内なら見つけることが出来る。

 今回は、こっちに向かっている魔物がいるとわかり、コーラスは背中から大きな槍を取り出し、構える。

 姿が見え始めたら、コーラスはニヤッと笑ってしまった。




「まさか、生き残りがいたとはな」




 目の前にいる魔物の正体は………………フォネスだった。


「あら、一人だけ? 人間は群れて冒険すると聞いたのですが……?」


 魔物から話し掛けられたことに、コーラスは驚いたが、新鮮だと思い、会話をしてみた。




「ふん、仲間はいるが、別行動だ。それより、お前は復讐のために来たのか?」

「復讐……? 何のことを言っているんですか?」


 フォネスは意味がわからなかった。

 その様子にコーラスも何かおかしいと気付いた。




「あん? お前ははぐれ魔物か? この間、お前ら、『九尾族』の村を潰したぞ」

「村を……、もしかして、あの岩山の隣にある村ですか?」

「おう、そこだ。知っているということは、やはりあの村の九尾族だな」


 そう、この前の討伐依頼は、九尾族の村を潰すことだったのだ。

 コーラスはあの村にいた九尾族は全滅させたと思っていたのだが、生き残りがいたようだ。




「まぁいい。お前は九尾族で間違いないな。しかし、尻尾が三本だけ? 何だよ! あいつらよりは弱いと言うことじゃねぇかよ!!」

「……もしかして、あの村を潰したというの?」

「はん、そうだ! 全員殺したぜ、戦いを楽しめると思ったら弱すぎてイラッとしたぐらいだぜ!!」


 ハハッ! と笑いながらコーラスはフォネスが生まれた村を潰したと教えた。

 その話で、フォネスの様子は…………






「ありがとうございます」






 笑顔でお礼を言っていた。

 コーラスは「……は?」と笑いを止めて呆けていた。




「あの村はいつか私が潰そうと思っていたので、その手間を主にさせなくて済んで良かったです」


 笑顔でお礼を言った理由を説明したフォネス。




「主だと……?」


 村のことを気にしないと言うフォネスのことがわからなかった。

 自分が生まれた場所を壊されてお礼を言うなんて、狂っているのか? と感じたが……、それよりも「主」と言う言葉に引っ掛かったのだ。




「ええ、主から時間をもらって村を潰しに行くなんて、主を待たせる行為となります。それは許せないことなのですよ」

「いや、そうじゃなくて……主って、誰かに従っているということか?」

「そこまで教える必要はないのですが……、これだけは教えてあげましょう。

 私はフォネスと言います。これだけ言えばわかるでしょう」




 コーラスはフォネスの言う通りにその意味がわかった。

 つまり、上位魔物に名を与えるほど、上の存在がいると言うことだ。




(まさか、そんな奴が本当にここら辺にいるのかよ!?)


 意味がわかったコーラスはマジでヤバいと思った。

 コーラス達が潰した村にはネームドモンスターは一匹もいなかった。

 だから、九本持ちの九尾族にも楽に勝てたのだ。


 名前を持つモンスターは上の存在から力を与えられたと同義であり、名無きの九本持ちに勝ったコーラスでも勝てない。

 それほどに、名前を持つ上位魔物は名無きとの差が大きいのだ。




「では、戦いましょう。村を潰す手間を無くしてくれた貴方には、主の一部になることを許しましょう」




 フォネスは押さえていた魔素を包むように発された。

 その姿にコーラスは背中に冷や汗をかいている。




(尻尾は三本しかないのに、これほどだと!?)




 潰した九尾族との差が違いすぎて、信じられない思いだった。

 だが、コーラスはベテランの冒険者だ。いつでも強い相手と戦ってきたのだ。




(……いや、相手はまだ三本。なら、今のうちに消さなければならない!)


 コーラスは冷静に頭を動かしていた。もし、このまま成長されてしまっては、魔人と同等になり、コーラス程度では手に負えなくなる。

 そうなる前に、今ここで消すと覚悟を決めたのだった。




「俺は、コーラス。お前を倒す冒険者だ!」


 コーラスはそう言って槍を突き出したが…………






 右手が無かった。






「……は?」


 コーラスには何が起こったのか、わかっていなかった。

 フォネスの手には、いつの間にか、大剣が握られていた。


「うん、この”魔素大剣(コストブレード)”は使いやすいですね」


 フォネスは新しいスキルを手に入れていた。

 主であるゼロ様が持っているスキルと同じ、『魔力操作』を。

 フォネスは強いスキル、『焔狐(ホムラギツネ)』があるが、使う魔素量が多いのだ。

 フォネスの魔素量はゼロが進化してから、また増えているが、無駄を無くしたいとフォネスは思っていた。

 その時、手に入れたのが、『魔力操作』であり、少しの魔素で”魔素大剣(コストブレード)”を作り出したのだ。

 ゼロの”魔素剣(コストソード)”の大剣版である。




「これなら余り、身体に傷を増やさなくて済みそうね」




 その大剣で斬られたコーラスは右手の肘先がないのがわかった。


「がぁぁぁー……!! ば、化け物か……」


 コーラスはまだ三本であるフォネスなら、コーラスでも勝てる可能性があると考えていたが、それは間違いだとわかった。

 剣筋は全く見えなかった。なら、コーラス程度では相手にならない。

 それがわかったコーラスは右手を斬られても痛みに耐え、冷静に残った左手で魔力と視覚を妨害する煙玉を地面にたたき付けた。




「な! 逃げるのですか!」




 そう、コーラスは逃走を選んだ。

 この煙玉は魔力が混ざっており、『魔力察知』があっても簡単に見抜けられないように作られている。




 そして、コーラスはフォネスから逃走成功したのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「はぁはぁ……、逃げ切れたか……?」


 コーラスは全力で逃げに徹していたおかげか、近くにはフォネスの気配はしなかった。




「た、助かったか……」


 フォネスから逃げることが出来たコーラスは安堵して、木に寄り掛かって座り込んでいた。




(まさか、あの魔物がいるとは……)


 あんな魔物がここにいるなんて、信じられなかったのだ。

 そして、早くギルドに報告しないとヤバいと思い、痛む右手を押さえて仲間と合流しようと無理矢理立つ。




「畜生……、あれだけじゃなくて、主と言ったか? あれも報告しなくては……」


 震える足を無理矢理立たせ、仲間との待ち合わせである爆発現場に向かおうとしたら……




「やぁ、俺がその主だよ♪」




 そんな声が後ろから聞こえたのだった。さらに、左胸に痛みを残して。




「……は?」




 左胸を見ると、剣のような物が刺さっていた。




「いやいや〜、あのフォネスから逃げ切るとは、あの煙玉は凄いね!」


 身体が透けていて、120センチしかない男が後ろでケラケラと笑って煙玉を称賛していた。

 コーラスのことではなく、煙玉だけを称賛して。

 その人は、フォネスと二手に分かれて材料(人間)を探していたゼロだった。




「な、なななぁぁぁ!!」

「煩いよ? お前は黙って俺の材料となれ」


 そう言って、首を落とした。

 コーラスのことは気にせずにゼロとレイは会話を始めていた。




(ふふっ、これで、材料が手に入ったな!)

『……グッド、すぐに作るっ!!』

(頼むぞ!!)


 ゼロはようやく生身の身体を手にいれられると歓喜し、レイはこれから図工を始める感覚で、ゼロの身体を作りはじめる。






 フォネスがゼロを見つけて合流する頃には、ゼロは新たな身体を手に入れたのだった…………






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