第4話 奴隷から配下に



 鑑定では先程の人間と違って、魔物だと出ていた。

 目の前の女の子は魔物なのに、人間が奴隷にしていたことにゼロは疑問を持ったのだ。




「おい、黙っていては何もわからないぞ」

「え……、あ、はい。私は確かに、魔物ですが……」

「そうだよな。さらに疑問があるんだが……」


 ゼロは一本しかない尻尾に目を向ける。

 鑑定で見た種族から疑問が出ていた。だから、すぐに殺さずに会話をしているのだ。




「お前の種族は……『九尾族』だよな? なら何故、尻尾は一本しかないんだ?」

「な、わかるんですか……? 私が『妖狐族』ではなく、『九尾族』だと……」




 ……ん? 『妖狐族』って何だ?




「『妖狐族』って何だ? 『九尾族』とは違うのか?」

「え、知らないのですか? 『九尾族』は魔物ですが、『妖狐族』は亜人です」


(なるほど。この世界には亜人がいるみたいだな)

『……ファンタジーだ』

(しかし、見た目は獣人にしか見えないぞ。鑑定が無かったら分からなかったかもな)




「なるほどな。で、何故尻尾は一本しかないんだ?」

「…………わ、私は……、九尾族の中では落ちこぼれなのです……」

「落ちこぼれ?」

「はい……」


 説明を聞くには、初めて産まれた時、七、八本の尻尾を持つのが普通らしい。

 成長に基づいて、九本まで増えていくが、目の前の九尾族は、産まれて一本しか持たなかった。産まれてから10年経ったが未だにも、一本だけ。

 九尾族の村では落ちこぼれと呼ばれ、虐められていた。親からも冷たい眼差しで見られたり、虐められているのを無視していた。


 そんな村が嫌になり、逃げ出したが……、運悪く、人間に捕まり奴隷にされていたのだった。




「そうか」

「はい……、この首輪がある限り、ずっと奴隷です……」


 首には紋章みたいな首輪があった。魔力が流れているのがわかる。


(レイ、あの魔力の流れ……、首輪を外せるよな?)

『……原理的には可能。お兄ぃ、やるの?』

(ああ。俺達はこの世界ことを知らないだろ? だから、コイツに教えてもらえばいい)

『……なるほど』

(決まりだな)


 やることは決まった。ゼロは九尾族の女の子に近付く。

 ビクッと震えていたが、逃げられないことはわかっているのか、大人しくしている。




(ふむ、こうすればいいんだな)


 ゼロは『魔力操作』を使って、奴隷の首輪を弄っていた。

 魔力の流れから見て、魔力によって首輪の取り外しが出来るとわかった。

 つまり、この首輪には、逃げられないようにするための設定がされていたが、飼い主が死んでいるためなのか、奴隷の首輪は役に立たないただの首輪になっていたのだ。

 ゼロはしばらく、弄っていたら、簡単に外れた。




「……え?」

「よしよし、外れたか」

「え、ええっ!?」


 首輪が外れたことに女の子は驚いていた。

 外れたことに驚いたが、それよりも……




「……何故、外してくれるの……?」


 何故、奴隷の首輪を外してくれるのかはわからなかった。

 私を助ける理由がないからだが、外してくれた魔物、ゼロはこう言ったのだった。




「お前は俺の配下になる気はないか?」

「え、配下にですか……?」

「ああ。見た通り、お前はそこらの魔物と違って自我があり、知識もある。名前が無いことに不思議を覚えるがな」

「え、名前ですか?」

「ああ。そういえば、名乗ってなかったな! 俺はゼロと言う。よろしくな」


 名乗ったら、女の子はまた目を開いて驚いていた。


 あれ? 何故、そんなに驚くんだ?




「ちょっ!? あ、貴方様は……ネームドモンスターなんですか!?」

「そうだが? 珍しいのか?」

「珍しいですよ!!」

「そうなのか……」

「……あ、すいません。 ネームドモンスターは少ないのです。力のある上位の魔物や魔人に付けられない限り、ネームドモンスターにならないんです」


(そうだったんだ……)

『……へぇ、誰でも付けられるわけでもないんだ』


 あっさりとネームドモンスターになったゼロとレイだが、普通は下位の魔物が付けてもネームドモンスターにならないのだ。


 しかしなぁ、ネームドモンスターになっても名前を得ただけじゃないのか? 何故、力のある上位魔物や魔人にしか付けられないって、どういうことだ?


 それが気になったが、今は先程の質問が先だった。




「そ、そうか? で、配下になるのか聞いているんだが……」

「あ……、わ、私なんかでいいんですか……?」


 女の子は、ぺたんと耳が垂れる。落ちこぼれである私なんかが、配下になってもいいのか、他にいるのではないか? と女の子は思う。

 だが、ゼロは諭すように声を掛けてくる。




「俺はお前を配下にしたいと言っているんだ。お前は強くなりたくないのか? 虐めた奴らを見返したくないのか?」

「…っ!! わ、私が……、配下になっても……?」

「そうだ。俺はいずれ、強くなって世界を手に入れる。それをお前にも手伝って欲しいんだ」




 女の子は、耳を立ててひざまずき、ゼロに向き合った。




「こんな私で良ければ、貴方様の傍にいさせてください……」

「よし、ゼロでいい。名前がないんだったな? 呼ぶには、無いと不便だ。名前を付けるが、構わないな?」

「え! いいのですか!?」


 名前を付けてもらえるだけでそんなに驚くことか……? ただネームドモンスターになるだけなのに?


 驚くだけでなく、嬉しそうな雰囲気を纏まっていた。

 名前を付けてもらえるのが嬉しいなら、何故親とかに付けて貰わなかったんだ? まぁ、いいか……。









「お前の名は『フォネス』だ!」









(なっ!?)

『……っ!?お、お兄ぃ!!』


 名前を付けた辺りから、身体の中にあった魔素がごっそりと抜き取られたのを感じたのだ。


『……今まで、吸い取って貯めていた魔素が、半分ぐらいに減った』

(な、なんだと……、まさか!?)


 レイとの会話を終わらせ、フォネスと名付けた女の子を見ると……




「え、あ! 尻尾が一本増えている!」


 一本しかなかった尻尾が二本に増えていた。

 それだけではなく、『魔力察知』でフォネスの持つ魔素が増えていることがわかったのだ。




(まさか、魔素を抜き取られた!?)

『……お兄ぃ、名前を付けることは、力を授けることだったみたい』

(あ、ああ……。そうみたいだな、今まで貯めていた魔素が半分も減るとはな……)

『……元の魔素が減らなかっただけ、マシ』

(そうだな。『魂吸者』が無かったら間違いなく、俺の魔素を取られて弱くなっていたな)

『……うん、次からは気をつけよぉ……』


 次からは手持ちの魔素が少ない時に名付けは止めようと心に刻むのだった。




(なら、俺達はどうなっているんだ?)

『……さぁ?私達は元から一つの身体だけで、名付け合ったから変わらなかった、とか……?』


 つまり、身体は一つしかなかったので、魔素は変わらなかったようだ。

 なんか、ゼロは損したような気分だったが、名前はレイに付けてもらっただけでも、損得で考える必要はない程の価値があるのだから、気にしないことにした。

 レイと会話していた時、慌てていたが、その姿はフォネスには見せずに、当然と言うような顔で話しはじめた。




「ふむ、前よりは強くなっただろう? お前にも頼らせてもらうぞ」

「はい! 素晴らしい名前を頂き、ありがとうございます! ゼロ様の為に命を賭けてやらせていただきます!!」


 フォネスは、尻尾が二本に増えた他に、成長もしていた。

 自分と同じ身長だったが、今は160センチに伸びて、髪色も黄色から燃えるような朱色に変わっていた。まさに、着物に似合うような美人だった。


 身長が伸びた代わり、服が小さくてヘソが見えて、素肌の露出が増えていた。

 このままでは痴女にしか見えないので、まず盗賊の服を着せることにするゼロであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ゼロはフォネスの着替えを待った後、洞窟を抜けた。

 太陽の下を歩けるか心配だったが、暗い所に慣れていたため、ただ眩しいだけで身体には何も問題はなかった。




「ゼロ様、これからどうしますか?」


 盗賊から剥ぎ取った服を着たフォネス。臭いが気になるフォネスだったが、他になかったので、仕方がなく着ている。

 そんなフォネスが方針を聞いてきた。




「そうだな、今は力を付けて行きたい。だから、魔物を捜しに森の中へ行く」


 指を森の方を指して話すゼロ。




「はい。あそこは弱い魔物が住む森ですね」

「弱い魔物ねぇ、どんなのがいる?」

「ええと、ゴブリンに、オーク等がいます」


(ゴブリンにオークって、知っている魔物だよな……)

『……前の世界の名前と同じだね』


 そう、今まで会った魔物は知っている魔物の名前が前の世界のゲームや小説、漫画とは変わらないようだった。




『……ここはどんな世界なんだろうね。言葉は前の世界とは違うし』


 レイの言う通り、この世界のことはよくわからない。

 言葉は前の世界では無いとレイが断言するので、前の世界にはないとわかる。




「そうか、まずソイツらと戦ってみっか」

「はい!」




 洞窟から出たゼロ達は歩いて森の中に進んでいく…………




ーーあとがき


読みに来て頂けた方、ありがとうございます。


この小説も他の小説と同様に朝7時に投稿しようと考えています。

宜しくお願いします!


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