最強で最凶な兄妹転生
神代零
プロローグ
ここは暗く、周りも明かりが少ない場所。
人が疎らに歩く中、そこには使われなくなったビルがある。
その屋上に二人の男女が立っている。
男はクセのある黒髪に黒目で何処から見ても日本人だとわかる。だが、女の方は長く伸ばした銀髪に、紅い瞳で日本人に見えないが、日本人の間で生まれている。
歳の差もあり、男は18歳で女は10歳で何処も共通点はないように見える。
そんな二人が何故、夜中に目立たないビルの屋上にいるのか。それは…………
「なぁ、奈々までもしなければならないってわけでもないぞ?」
男は年下の女……いや、女の子に慣れたように話しかける。
「……お兄ぃが、いない、世界なんて……興味ない……」
奈々と呼ばれた女の子は、男をお兄ぃと呼ぶ。
少しの話からわかることは、今からやることが『世界からいなくなる』と言えば…………
「ああ……、そうだな。奈々はいつもそうだったな」
「……いつでも……お兄ぃと、一緒……にいる……」
「そうか、俺もこんな世界に愛する妹を残すなんて、心苦しいと思ったから……」
「……私は……、死んでも、ずっと、一緒だから……」
そう、二人はこれから飛び降り自殺をする予定なのだ。
何故、兄妹である二人が自殺を決行しようと考えているのかは…………
「ようやく、このクソッタレな世界からおさばら出来るか……」
「……うん、……認めて、くれない……世界なんて、……生きても意味がないの……」
兄妹は世界を嫌っている。何故、そんなことになっているのか?
「ははっ、こんな時に学校の時を思い出すとはな……」
「……私も。お兄ぃ、に出会う……前を……」
兄である九重(ここのえ)は、小学までは学校に通っていたが……、クラス中から疎まされ、それだけではなく、九重の瞳は不愉快な気分になると言うだけでイジメに合っていた。何かの力が働いているようにいつも嫌われている九重。
イジメにもめげず、虐めてくる人にはいつでも喧嘩で勝ってきた。
だが、勝っても負けても、何故かいつも大人からも自分のせいだと言われる。
勉強でも頑張った。テストではいつも上位に入っていた。しかし、それさえも周りからはカンニングと疑われ、親にも悲しまれる始末。
いつでもクラスの人、先生、親にも疑われて疎まわれて嫌われて自分が嫌になるほどだった。
そして……、中学になる時から引きこもってしまった。
妹である奈々は、生まれ持っての天才だった。言葉を喋り始めたのは、生後六ヶ月だった。それでも、両親は奈々のことを可愛がっていた。両親は自分の子供が急に喋れるようになったことに不審と思っていたが、それでも、自分の子供だ。
すくすくと成長していく奈々、自分で歩けるようになると父の書斎へ通うようになった。そこにある様々な本が並んでいる。最初に手へ取ったのは、絵本とか赤ちゃんが読む様な本ではなかった。奈々の父親は大学の教師で、その本棚に並んでいるのは全てが難題と言える教科書、資料だった。
様々な教科書、資料は日本語だけではなく、英語、フランス語など様々な言語で書かれていたが----奈々は途中で飽きることもなく、静かに読んでいた。まるで、何が書かれているのがわかっていると言うように。
その様子を見つけた父親は奈々のことがようやくおかしいと気付いた。試しに、大学で出すようなテストを奈々に見せてみた。そうすると、まだ二歳の奈々は----なんと、答えを書き始めたのだ。まぐれで答えられるような問題ではなく、解答を確認してみると……全て、正解していた。
そんなことがあり、父親は奈々のことを化物を見るような眼になった。
そんな異常さを父親から聞いた母親も恐怖を浮かべていたが、それでも自分の子供を愛すると----でも、それは長く続かなかった。母親と父親が喧嘩することが増え、その中心にはいつも奈々がいた。最終的には、離婚まですることになり、母親は心の病気を患ってしまった。何故、そんなことになったのかと、少しずつ心が病んでいき、奈々に当たるようになってしまった。暴力を受けることはなかったが、暴言を吐き、放っておかれることになった。母親としての義務だけは残っていたのか、食事だけは準備されていたが……
放っておかれ、いつも一人で本を読んでいた。本を読みつくすと、一人でチェスや将棋などのゲームをして、時間を潰すようになった。
そして……、部屋では一人ぼっちになっていた。
そんな二人が13歳と5歳になる頃、お互いの親が再婚した。
そこで引きこもった兄と一人ぼっちになった妹が会うことになる。
その瞬間、九重と奈々の人生が変わり、今に至るのである…………
「初めて会った時のこと覚えているか?」
「……それは、愚問……」
「ははっ、確かにそうだな。あの時、お互いはつまらなそうな顔をしていたな」
「……うん、……でも、……あの時、話し掛けて……嬉しかった……」
「ああ……、俺も何故か、あの時は奈々と話したかったんだよな」
再婚したお互いの親は子供がいないような振る舞いで話していたし、すぐに子供を残して出掛けてしまったのだ。
九重はまだ小さい九重に対しての振る舞いに驚いていた。奈々はそのことを何も表情を出さずに玄関で突っ立てていた。
九重はそんな親を憤っていたが、いつの間にかに、残された妹になる奈々に声をこう掛けていた。
「な、なぁ……、俺は九重と言うんだ……」
九重はあの時、怖がっていた。今までみたいに疎まわれ、嫌われてしまうんじゃ?と。
奈々の方も話し掛けられるとは思わなくて、驚いていた。
研究所では化け物と言われた奈々に話し掛けてくる人は久しぶりだったから。
この前、父親に久しぶりに会ったが、話は何もしなかった。ただここまで何も聞かずに連れられたのだ。
「……私は……奈々……」
奈々も恐る恐ると話していたので、名前だけになってしまったが、目の前の九重は普通に話してくれたことを喜んでいた。
「……奈々ね! 良かったら一緒に遊ばない?」
「……ゲームとか……?」
「うん! でも一人用のRPGしかないけどね……」
友達がいない九重は一人用のゲームしか持ってないから、RPGを一緒にやろうと言った。
そのことに、奈々は一人用なのに、一緒にやろうと疑問を持ったが、化け物と言われた私と一緒にいてくれることに嬉しいと感じていた。
「……うん、……いいよ」
「さぁ! 部屋に行こう!」
九重と奈々は一緒に一人用のゲームをやり、楽しんだ…………
「……ああ、一人用を一緒にやろうと言ったわな」
「……一緒に、……やろうと、言ってくれて……嬉しかった……」
「あぁ、その後、奈々の凄さを知ったが、奈々は奈々だしな」
「うん……、そう言って……くれる、のはお兄ぃだけ……」
「こっちも疎まわれずに一緒にいてくれたのは奈々だけだったよ……」
そう、その後もお互いは親にも無視され、生活はお金を置くだけで放任だった。
さらに、友達も知り合いも出来ず、ずっと二人だけで生きてきた。
二人は大きくなっていくつれに、この世界に疑問を感じていたのだ。
何故、努力しているのに嫌われるのか?
天才で色々なことが出来るからって化け物呼ばわりされるのか?
ルールを無視している人が何故、正しいのか?
出来過ぎたら、疎まわれるのか?
正しいことをしても悪いことをしても、どちらも罰されるのか?
二人が同時に思ったのは……
『この世界で生きる目的は何なのか?』
これだけは絶対に見付けられないと、二人は思った。
そう、この世界では。だから、この世界から消えるのだ…………
「奈々……、行こうか」
「……うん、……いつでもお兄ぃ、……と一緒に……」
二人は屋上の端に足を掛ける。
「俺達はこの世界から消える」
「私達は……、この世界に生まれた……ことを、恨む」
「俺達はこの世界が嫌いだ」
「私達は……、生きる目的が、無い」
「「だが……」」
「「奈々(お兄ぃ)に出会えたのは感謝する」」
ついに、二人は屋上から身体を落とした。兄妹は恋人繋ぎで固く握りしめる。
………
……
…
痛い……、焼けるように痛い……、身体が寒い……
九重は落ちてもすぐに死ねなかった。
奈々は……?
隣にいる妹はどうなったのか、目を向けると、ピクリと動いてなかった。
良かった……、打ち所が良くて、痛みも苦しみも無く、逝けたようだな……?
九重は安心していた。自分ももうすぐで向こうに行くだろうと考えていた。だが、まだ九重はわずかだが、生きていた。
しかし、いつになったら、死ぬんだ……? 誰か教えてくれよ……?
そう考えていたら、頭の中に何か声が流れていた。
《希少スキル『知識者(チシキモノ)』獲得致しました》
は? なんだ……? うっ、痛いし……、熱い、寒い……
《通常スキル『無痛感』を獲得致しました》
《通常スキル『熱寒耐性』を獲得致しました》
……あ、楽になった? そうか、俺ももう死ぬんだな……
痛みも熱さも寒さも感じなくなったから、もう死ぬとわかったのだ。最後に思ったのは……
来世も奈々と一緒だったらいいな…………
《確認しました。奈々の魂は『知識者(チシキモノ)』に組み込みました》
最後に何か聞こえたような気がしたが、九重の意識はなくなっていった…………
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