第27話

チアside


チビちゃんと会ったときから不思議と親近感がすぐに湧き、可愛くて愛しくていつの間にか私にとって大切な存在となっていた。


本来なら何処ぞの誰かも分からない人とジュンセとの間にできた子供のはずなのに、そんな愛おしい気持ちになるのはおかしい。


ただそれはジュンセに未練があるのと同時に、私が抱くことの出来なかった我が子を失った人間だからだと思っていた。


でも、それは違った。


チビちゃんは私が会いたくて、この手で抱きたくて、心待ちにしていた愛おしくてたまらない「あの子」だったからなんだ。


私は声を上げ泣きじゃくるジュンセを抱きしめながら涙を流す。


寂しい…


悲しい…


苦しい…


もう一度…会いたい…


どの感情が正しいのか分からないけれどあの日、チビちゃんを失って流した涙と違ったのは私のそばにジュンセがいるということ。


真実を知ったジュンセは声を上げ泣きじゃくりながら涙を流し、私はそんなジュンセを抱きしめ優しく背中を撫でながら一緒に涙を流す。


このジュンセの涙は6年前のあの日に流すはずだった涙なのかもしれない。


ジュンセはその悲しみを今、時を超えて自分の感情と向きっている。


私はゆっくりとジュンセの身体から離れると、ジュンセの頬に流れる涙を指で拭った。


C「私たちの愛の結晶のチビちゃんが…私たちをまた巡り合わせてくれた…」


ジュンセの身体は震えいつも大きく感じる背中が小さく見える。


J「チア……」


C「チビちゃんは…私たちの愛の結晶であり愛のキューピットだね……?」


私が涙まじりに微笑みながらそう言うと、ジュンセは泣き腫らした顔で何度も頷きながら私の胸の中で泣いた。


C「ジュンセありがとう…チビちゃんを想って泣いてくれてありがとう……チビちゃんの為にも私たち…死んでも一緒にいなきゃだね…天国でも一緒じゃなきゃ…チビちゃんの為にも…」


私はジョングクにそう告げると、ジュンセの頬を両手で包み込みそっとキスをした。


それから私たちは朝日が昇るまでチビちゃんとの思い出話を繰り返した。


チビちゃんの泣き顔は私にそっくりだとジュンセは言うが、私からしてみればチビちゃんの泣き方はジュンセにそっくりで……


チビちゃんの食い意地が張ってるのはジュンセ譲りだと私が言えば…


チビちゃんの偏食は私譲りだとジュンセはいう…


人懐っこくて甘え上手なのは私譲りで…


落ち着きがなく汗がびっしょりとなるまで公園で夢中に遊ぶのはジュンセ譲り…


絶え間なく続いた私たちとチビちゃんの数少ない思い出話…


そこにはいつも私とジュンセがいてチビちゃんがいた。


天国から私たちを見守っていたはずのチビちゃんはどんな気持ちで私たちの元にやって来たのだろう?


間違った選択をしようとしていた私を見兼ねて、手の掛かる親だと思いながら天国から舞い降りてきたのだろうか?


それとも私たちは運命で繋がっているんだと気づかせるために、私たちの元に来てくれた?


今となっては聞く事のできない想いを募らせながら、私がチビちゃんの持っていたとぬいぐるみと写真を抱きしめていると、サーっと手の中で溶けるように消えていった。


J「天国に着いた…ってことかな…チアがチビのために燃やしたぬいぐるみと写真が消えたってことは……」


C「そうかも…しれないね…」


そして、私はジュンセの胸に寄り添いながらチビちゃんとの思い出を抱きしめてゆっくりと瞳を閉じた。


次の日


私は実家に戻りあの部屋へと入る。


この部屋に入るとずっと悲しくて寂しくて、後悔に襲われていた。


なのに…今、この部屋にいるとまるで心の整理をしていくかのように、穏やかな気持ちでいれるのはチビちゃんのおかげかもしれない。


ふとチビちゃんと私、そしてジュンセが映っているはずのスマホのロック画面に目をやるとそこにはもう…チビちゃんの姿はなく私とジュンセはだけが楽しそうに笑っている。


C「チビちゃん…ありがとう…ちゃあちゃんの所に来てくれてありがとう…愛してるよ。ちゃあちゃんと…とうちゃんがそっちの世界に行くまで…待っててね?」


私はそう言ってベビーベッドの上にあるベビー服やオモチャを段ボール箱に入れて片付けていく。


すると、扉を開けて入ってきた母がそんな私の姿を見て驚いた声出した。


「チア…急にどうしたの!?」


C「うん…もうそろそろ…楽にしてあげたくて…私がこうやっていつまでも立ち止まっていると…成仏したくても出来ないでしょ…?」


私がそう言うと母が自分のことのように泣きながら私を抱きしめる。


C「お母さん…私はもう大丈夫。強くなるよ…ジュンセともちゃんと話して…沢山泣いて…私たちやり直す事にしたの…」


「そう…良かった…でもソウヤさんは…?大丈夫だったの?あんなに結婚を急いでたのに……」


C「………お母さん……実は……」


私がソウヤさんとの間に起きていた現実を母に言おうかどうか悩んでいるると、母は私の頬を撫でながら優しく微笑んだ。


「チア…話したくない事があるなら話さなくていいのよ…あなたが自分で選んで幸せならそれでいいの。今はもうジュンセがそばにいるんだからお母さんは安心よ。あなたが大好きで大好きで仕方ない人でしょ…ジュンセは……」


C「うん…最後にチビちゃんが父ちゃんとちゃあちゃんはずっと一緒にいてねって…言ってくれたんだ…」


涙ぐむ私がハニカムようにして笑うと、母は私のほっぺをつまみ、涙を目尻から流しながら微笑む。


「あの子も心配してあなた達の元に来たのね……あの子は本当の天使ね…あの子の遺言…ちゃんと聞いてあげなきゃね。」


C「うん…そうだね…」


私が頷くと母は私の頭を撫でて部屋を出ていった。


チビちゃんに関するものを全てクローゼットに仕舞い込み部屋の掃除をし、ゆっくりと窓を開けて深呼吸をする。


C「大丈夫…大丈夫だよ…ちゃあちゃんは…ちゃんとチビちゃんを覚えてるからね…」


薄紫と茜色が綺麗に混ざる空を見上げるとチビちゃんの笑った顔が浮かんだような気がした。


つづく




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