第20話

チアside


次の日


私が目を覚ました時にはもう、横にはソウヤさんの姿はなく、私は慣れた手付きでベッドサイドの棚を開けると、ソウヤさんと付き合うようになってから欠かさず飲むようになったアフターピルを口に含む。


結婚するくせに…


ソウヤさんとの子供は望まないなんて…


私最低だね…


そんな事を思いながら乱暴に愛されたせいで痛む体をゆっくりとベッドから身体を起こし、鏡に写る自分の姿を見て涙がこぼれ落ちた。


C「ただ普通に…幸せになりたかっただけのに…」


小さな頃から何も大きなことなど望まなかった。


ただ好きな人と平凡な幸せと共に暮らしていきたい。


望んでいたのはそれだけだった。


私の人生はどこで躓きどこで間違えてしまったのだろ?


そうか…そうだ…


きっとこれは罰…


大好きな人の子を身篭りながら守れなかった罰なんだ…


私1人だけが幸せになるなんてしちゃいけないんだ…


鏡に写る自分自身に話しながら私は熱めのシャワーを頭から浴びた。


気持ちが落ち着き、夕飯の材料を近くのスーパーで買い込んでマンションに帰ると、そこには忘れたくても忘れることの出来ない愛おしい大きな背中があり思わず私の足が止まった。


ジュンセ…なんで…なんでここにいるの…


取り乱しながらも冷静を装い顔に表情を出さないのは私の昔からのクセ。


どんなに嬉しい時でも悲しい時でも私は不思議とその感情が大きければ大きいほど無表情になる。


「ジュンセ…」


絞り出すように出した声は微かに震えていた。


なのにジュンセが振り返ると姿を現した小さな坊やを見て私の身体はさらに震える。


その小さくて可愛い唇はジュンセのことを「父ちゃん」と呼び、その声を聞いて私の記憶の中にいるこの世に生まれてくる事が出来なかった「あの子」が脳裏に現れ意識がふらふらと遠のいた。


次に目を覚ました時にはジュンセの部屋にいて、その子はなぜかキラキラした目で私を見つめる。


その純粋な眼差しが私には痛くて後ろめたくて…思わず目をそらしてしまった。


しかし小さな手を見てもし、あの子が生まれてたらこれくらいになってたのかな…なんて思ってしまうと涙が溢れてきた。


なのにジュンセは自分のことを父ちゃんと呼ぶ小さなチビちゃんを警察に引き渡すと言い私は少し躊躇った。


もし…万が一…


ジュンセの過去を調べる人が出てきたら…


私とジュンセの事が世に知れ、あの出来事が明るみに出てしまうのではないかと。


そうジュンセと言い争っているウチにチビちゃんは1人部屋を飛び出しいなくなった。


それに気づいた私たちは慌てて部屋を出てチビちゃんを探した。


正直…


数分前に出会った子供。


私が愛していた…いや…正しくはまだ、忘れられずにいるジュンセのことを「父ちゃん」と呼び私の知らない誰かとの間に出来た子供。


それでも私が大きな声で叫び、必死になってチビちゃんを探したのはあの日、私の宝物だった小さな命を守る事が出来なかった後悔が未だに残っているからだろう。


息を切らし走りながら探していると小さな体をさらに小さくして泣きながらしゃがみ込んでいるチビちゃんを見つけた。


C「チビちゃん…1人で部屋から出たら危ないじゃん…」


「とうちゃんとちゃあちゃんといっしょにいたかっただけなのに……」


C「ちゃあちゃんって…私のこと?」


「うん…ちゃあちゃんでしょ?ぼくのちゃあちゃん…。」


こんなに小さな子供でも私がうさぎのキャラクター「ちゃあ」を作った人間だと知ってるんだと思ったら嬉しくて私はチビちゃんの頭を撫でる。


C「父ちゃんが心配してるから帰ろ?」


「とうちゃん…ぼくのことキライみたい…」


小さな子どもの口からそんな言葉がでて、思わず私の胸がえぐれ言葉に詰まるが、ニコッと作り笑いをしてその小さな手を握った。


C「そんな事ないよ。行こう。」


そう言って手を繋いでマンションの方に歩いて行くと、必死な顔をしたジュンセが私たちを見つけて駆け寄ってきた。


J「お前なにやってんだよ!!勝手に部屋出て行ったら危ないだろ!?」


「とうちゃん…ぼくのこと…キライなんでしょ…?」


ジュンセはこの純粋無垢な瞳でそう問いかけられ言葉に詰まっていた。


そんな様子を見て私はまた、少し嫉妬をする。


この子はジュンセと誰との間に出来た子供なんだろう…って。


J「キライって言うか…その…」


「ぼくがいたら…とうちゃんとちゃあちゃん…ケンカするから…」


J「………。チビ…あのさ…」


「ほんとは…とうちゃんとちゃあちゃんといっしょにいたい……いいこにするから…とうちゃん…おねがい…」


チビちゃんはそう言って小さな手を何度もすり合わせて身体を震わせながら涙を流した。


そんなチビちゃんをギュッと抱きしめてトントンっと背中をなでるジュンセを見て私の胸がズキズキと痛む。


この子の母親は何故、ジュンセとの間に出来たこの子を手放したんだろう…


こんなにも素直で可愛い子をジュンセの元に置いて消えた理由は?


そんな事するくらい…いらない子なら…


私がこの子をもらってもいいですか?


私は抱き合う2人を見つめながら心の中でそんな事を思った。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る