第15話
チアside
あの時
6年前のあの時…
私とジュンセは別れの危機を迎えていた。
歌手としてデビューしたジュンセは朝から次の日の朝まで働く事なんてザラで、寝る暇なく毎日を過ごしていた。
そんな毎日の中、少しの時間があればジュンセは家に練習生の私を呼び出し、時間を惜しむように体を重ねた。
時間が足りないが故のそんな関係が、まだ幼かった私にとってはまるで体だけの関係のように感じてしまい、いつの間にかジュンセの心が離れてしまったんじゃないかと寂しくて耐えられずにいた。
そんな時、デビューして間もないジュンセにスキャンダルが持ち上がった。
私とはゆっくりと会うことも話をすることもなくただ、身体を重ねるだけなのに。
その相手とは外で楽しそうに食事に行く時間があるんだ…と私はそんな風に思ってしまい、ジュンセを信じることが出来ずにいた。
そして、そんな風に思ってしまう自分に苛立ち耐えられない日々を送っているとき…私は妊娠に気づいた。
正直、最初は戸惑った。
小さな命を身篭った事をデビューしたばかりのジュンセに伝えるべきなのだろうか?
私以外の誰かと夜を過ごしてるかもしれないジュンセは私の妊娠をどう思うのだろうか?
と…
私はツワリが酷かったのにも関わらず周りに妊娠を隠して毎日、練習生としてダンスのレッスンをしていた。
そして、私はある決心をしジュンセに話があると伝え寝不足でクマを作るジュンセの家に行った。
C「ごめんね…忙しいのに…」
J「ううん…少しでもチアの顔が見れて嬉しいです…メールでも電話でも言ったけどあのスキャンダルは嘘ですからね!?」
C「うん…分かってるよ…」
J「なら良かった…」
ジュンセは優しく微笑み疲れ切った顔で私の手を握るが私はその手をそっと避けた。
C「別れよ…私たち。」
J「え?」
C「もう、うんざりなの…都合の良い時だけ抱かれるようなこんな関係…だから別れてほしい。」
J「ちょ…チアいきなり何?あの人との事やっぱり怒ってますよね?本当に違うあれはただ食事に誘われて二人っきりじゃないしあれはっ」
C「もう疲れた。いつ会えるか…いつ声が聞けるか…そうやって待つのに疲れたの。ごめんね…もう決めた事だから別れて。」
ジュンセの顔を見たら心が折れてしまいそうで、私はそのまま立ち上がりジュンセに背を向けるとジュンセは泣きながら私に縋り付いた。
J「やだよチア…別れたくないよ…お願い…俺の嫌なとこあるなら言ってよ直すから…俺はチアがいなきゃ生きていけないんだよ…」
泣きじゃくりそう言うジュンセに私の胸は張り裂けそうだった。
だけど…ここで私が折れるわけにはいかなかったんだ。
ジュンセの夢とこのお腹に宿る小さな命。
二つを守るためには…
私はお腹の子を1人で育てる覚悟をし、ジュンセに残酷な言葉を浴びせた。
C「そうやって私なしじゃ生きていけないなんて言うとこが…死ぬほど嫌い。もう…うんざりなの。」
私はそう吐き捨てるように言うと、私の腕をギュッと握りしめるジュンセの手を思いっきり振り払い、私は泣きじゃくるジュンセを一人残しその場を後にした。
C「ジュンセ…ごめん…ごめんね…好きだよ…大好き…」
私は逃げるようにジュンセが当時住んでいたアパートから出ると、1人しゃがみ込んで嗚咽混じりに泣いた。
そして、1人でお腹の子を生む覚悟を決めた私はお腹の子のためにヨダレ掛けや小さな手袋、可愛いベビー服に小さなオモチャなど色んな物を買い揃え両親に妊娠の事実を報告した。
初めは両親も驚き、今までにないくらい怒っていたが、私の決心が変わらないと分かったのかサポートすると言って私とお腹の子のことを受け入れてくれた。
そして数日後
私はお腹の子を育てる為にも事務所を辞め、就職活動をしないといけないと思い必死になって歩き回り就職先を探した。
しかし、妊婦を雇ってくれるような会社なんてなくて、無理した私はとある会社の面接中に酷い貧血を起こしてしまった。
なんとか面接をしてるいる社員さんにはバレないように平気なフリをして、面接が終わると壁を伝うようにして慌てて外に出ようとした私は酷い目まいに襲われ、足を踏みはずし階段から落ちた。
そして私は…
その衝撃でお腹に宿っていた小さな命を失った。
全部、愚かな自分のせい。
そう自分自身を責めて責めて責めても足りなくて毎日のように涙を流した。
私が妊娠していたことを知っているのは私の家族とお世話になっていた事務所のセイジさんだけだった。
あの時、私のお腹に宿っていたあの子が生まれていればきっとチビちゃんと同じくらいの年齢だろう…
しかし、ジュンセと別れたあの時期…
ジュンセは私なしでは生きていけないと言いながら、私ではない誰かと関係を持ちチビちゃんを授かっていた…
もしかしたらチビちゃんの母親はあの当時、噂になったあの女なのかもしれない。
私には手に入れる事が出来なかった宝物をその人は意図も簡単に手に入れていると思っただけで昔の傷が抉れ痛みだす。
私は目の前にあるベビーベッドに置いてある小さな黄色い手袋を手に取る。
C「ごめんね…産んであげられなくて…ごめん……」
またあの子を思い出しポロポロと涙を流し、小さな手に着けてあげることの出来なかった手袋を握りしめる。
すると、後ろからふわっと大好きな匂いに包まれた。
「俺がごめん…ほんとに…ごめん……」
震えた声でそう言ったのは私があの日、震えながら捨てたはずのジュンセ。
なぜだろう…?
私の肩にはジュンセの涙がポタポタと落ちて微かに服を濡らしていた。
つづく
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