第10話 武官の訳
*・*・*
『……良いのか、
点心局から少し離れた廊下を歩いていると、紅狼は己の
彼女の姿を見ても、紅狼は軽くため息を吐くだけだった。
「見ていたかったが、あの様子では邪魔だろう」
『そうではない。
「確証は出来ん。だが、望みが薄いわけではない」
紅狼の身体には呪いが蝕まれている。
だから、次の手を打つのに、二人を後宮でも厨房に在籍させるために連れてきたのだ。あのままでは、『無し』だった存在が『有り』に変わったことで、扱いがどのように変わってしまうのか心配だった。
大人しいが、完全に気弱ではない少女。
紅狼の恋花への思いは、最初はそのような印象ではあったが。人前で怖気もせずに、礼を披露するあたり芯が強い部分は残っているのだろう。そこは、玉蘭に
『……我は思う。動くなら早めが良い』
「焦るな。望みがなくなったわけではない」
『……そうではあるが』
「玉蘭殿があのような状態なのだ。孫にその理由を教えずにいた訳もあるだろう」
その訳が、彼女の九十九に問い掛ければ済む問題ではなかった。梁には記憶が欠如していて、いつから玉蘭に成り変わっていたかを覚えていないらしい。それと、一度封印を解くのを試みたが、結界のような固さのせいで、弾かれたのだ。並大抵の術式でない封印に紅狼も驚いたが、恋花は沈んでいた。唯一の肉親に起きた事態を今まで知らなかったせいもあり、悲しみ以上の感情を得たのだろう。
だから、紅狼は恋花の異能の保護名目も兼ねて、後宮の点心局へと宮仕えを提案したのだ。玉蘭の弟子だった
なら、居場所を与え、玉蘭の封印が解ける糸口が見つかれば、紅狼を長年蝕んできた呪いへの解呪の方も兆しが見つかるはず。自分で提案したが、皇帝の方へはこれから報告予定だ。
どのように、反応を見せるかわからない。
幾つか角を曲がり、楽しそうな声が廊下にも聞こえてくる場所を目掛けて歩いていくと。自分以外の男の声に、紅狼は足を早く動かした。
「ん? 紅狼か?」
軽装の男と、美しく着飾った女性らが一人ずつ。あとは控えている侍女や下女らが居た。基本的に男子禁制の後宮ではあるが、紅狼を入れて、堂々と来られるのはただ一人。
この国の皇帝のみだ。
「……話がある。来てもらえないか?」
「その口ぶりだと、ここでは駄目か?」
「……ああ」
「仕方ない、行くか。
「はい。陛下」
国の長への砕けた物言いは、本来なら打ち首以上の刑に処されるだろうが。紅狼は許されていた。幼い頃からの、遊び相手だったこともあり。
それはさておき、紅狼は皇帝へ恋花らの事をどう伝えれば、彼の九十九の力を借りれるか……いささか不安ではあった。
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