第10話 かくも不幸は舞い降りる

 一方、葉山は今までになく清々しい気持ちで自宅に足を向けていた。

 今までの人生の中で一番と言えるほどの感情の昂り。


(鳳くんって学校ではあんまり話さないってイメージだったけど、ヒーローみたいだったな)


 あっという間に佐竹らを倒し、救ってくれた。

 お礼などいい、と言っていたがあらためてしっかりとお礼をしなければ、と胸を踊らせながら考える。

 少なくともご飯くらいはご馳走したい。


「……友達になってくれるかな」


 うじうじとした弱虫である自分と友達に、と弱気に呟く。


「いや、でも話さなきゃ始まらないもんね!」


 前向きに進もう、気持ちをしっかりと切り替えることができる。少なくともこれができるようになったきっかけは龍臥にあるのだ。

 と、考えているうちに家に着いた。玄関を開ければ両親の靴があった。

 普段はもっと遅くに帰るのに珍しい、と思いつつ葉山も靴を脱いで家に上がる。


「ただいまー。いい匂いするけど今日の晩ご飯は何?」


 シーン、と返ってくるのは静寂だった。

 そこそこ大きな声をだしたつもりなのに聞こえなかったのだろうか、と思いつつリビングへと足を運ぶ。

 リビングでは両親が互いに肩を支えながらソファに座っている後ろ姿が目に映った。

 ただいま、ともう一度言うもまた反応はない。しかし奇妙な違和感を感じた。

 その違和感の正体は、ソファに座っている両親を真正面から見たらはっきりとわかった。


「と、父さん……母さん……!」


 葉山の目には胸に風穴が空き、血を流し事切れている両親の姿が映った。

 腰を抜かし、尻餅をつく。


「な、なん……いや、け、警察……」


 パニックになりつつもポケットからスマフォを取り出し、通報しようとする。

 その瞬間、トスッと身体に軽い衝撃が走った。

 それから指が動かず、それどころか持ち手からこぼれ落ちる。

 おかしい、と思い顔を下に向けると……胸から針が突き出していた。


「え……?」


 なにが起こったのかもわからず、そのまま葉山の意識はプッツリと途絶えた。



「……嘘だろ、オイ」


 翌日の朝、龍臥はテレビのニュースを見て絶句し、千代も驚きを隠せずにいた。


『――被害者は葉山陽二さん四十七歳、葉山稲さん四十五歳、葉山浩二さん十七歳。いずれも死体の胸に刃物を突き刺された跡があり……』


 あまりにも呆気なく、そして前触れもない同級生の死は龍臥に衝撃を与えるのには十分だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る