鋼鉄騎士と抜忍クノイチ
@housouzero
第1話 出会い
深夜、雨の降る現代日本で俺、鳳龍臥はビルの屋上で双眼鏡を片手に見張りをしていた。
理由は単純明快、現代社会でも悪さをしでかす妖魔という化け物を殺すためだ。
人間よりも強く、速く、そして硬い奴らは人を食って力をつけていく。奴らがいつ頃から存在するかはしらないが、少なく見積もっても百年以上は前からいるというのが俺の推測だ。
とはいえ、毎晩出るわけでもないし……空振りになる日もしばしばだ。
「ま、明日は学校休みだからいいんだけどな。徹夜でもなんでも……と」
繁華街のある方向で明かりのある路地裏の一部が黒いモヤが見えた。この位置からなら数分とかからない。
「母さん、今日も力を借りるよ」
身につけている母の肩身であるネックレスの宝石部分を上に弾き、キーワードを唱える。
「変身!」
弾かれたネックレスの宝石が砕け、俺の身に白を基調とした鎧と赤いマフラーとして纏い付いてくる。
――鋼鉄兵器スティルアーマー、零式。
この現代社会に蔓延る妖魔を退ける力を持つ近代科学の随が込められていると言う逸品であり、普通は俺みたいな男子高校生が持っているような物ではない。
これは俺の母親から託された形見であり、母はこれを使って市民を陰ながら守っていた。
誰に頼まれるわけでもなく、自分の身を危険に晒してまで誰かを助けた母さんは間違いなく『英雄』だっただろう。
「さぁて、今回の妖魔は手がかりを持っているか……」
屋上から飛び降り、目的地へと走り出す。
鋼鉄兵器は見た目だけでなく性能も大した物で、高所からの着地した時の衝撃すらもほとんどない。
予定通りものの数分で俺は到着し、惨劇を目にする。
「あーあ……やってくれてるな」
生臭く鉄臭い匂いが現場ではこもっていた。
見つけた妖魔はムカデの姿をしており、辺りにはサラリーマンの男女数人の死骸が転がっていたからそこから溢れる血がこの嫌な匂いを発していたのだ。
このサラリーマンたちも運がない。
俺がこういうのもおこがましいのだろうが、申しわけ程度には冥福を祈らせてもらう。
きっとこのまま放置すれば死骸は跡形もなく食われ、彼ら彼女らは行方不明扱いになるだろう。
「ったく、笑えないんだよクソが」
『フシュル……?』
食べている死骸から視線が俺に向く。獲物が増えたと思ったのか笑っているようにも見えた。
「お前らのせいで、涙を流す人がきっといる。だからお前はここで葬ってやるよ」
ぼきり、と拳の骨を鳴らす。
こいつら妖魔に俺は借りがある。厳密にゆえばこの妖魔ではないが、同類であることには違いない。
『フシャア!』
まだ食いかけの死骸を放り出し、ギチギチと音を鳴らしながら俺を噛み砕こうとしている。
それに対しての俺の返事は、その口に思い切り拳を叩き込んでやることだった。
『ギギャア!?』
「見てくれの通り、こっちも未経験じゃないんでな。悪く思うなよ」
そのまま拳を妖魔の頭ごと全力で地面に叩きつけ、妖魔の悲鳴が響く。
妖魔とて人外のものといえど痛覚はあるし、生命力もある。つまり生きている以上殺せない道理はないのだ。
拳を引き抜き、次はその長い胴体にかかと落としを決め、またもや妖魔は苦痛の声を上げる。
この妖魔は大したことないな。少なくとも人語を話せる様子はないし、また『ハズレ』だったか。
じゃれるつもりもないし、拳を何発でもぶち当て、蹴り、身体の一部をもぎ取る。
食べた人間の血なのか、妖魔からも血は吹き出る。
「終い、かな」
これだけのダメージを与えれば妖魔は消滅を免れない。よほど大量の人間でも食えばわからないが、そんなことにはならないしさせない。
「……ん?」
と、そう思っていた時だった。
鋼鉄機械により強化された聴覚が女の子の声を拾った。
――捕まってたまるものか!
そう言っている。とても力強い本気の言葉。
「……しゃあねぇ」
『ビギィ!?』
妖魔の背中を稼働しない範囲の方へ曲げてさらに致命傷を与える。
素性もなんも知らんけど、この声の主は悪い人間ではないのだろうとなんとなく確信している。
「……明日には見つかるよ、気の毒だけどゆっくり眠ってくれ。ごめん」
死んでしまったサラリーマンたちに向かって、偽善とわかっていても謝罪の言葉をかける。
そのままほとんど動けなくなった妖魔を掴み『片手』で持ち上げて声の方へ向けて走り出した。
※
「見つけた……って、なんだあの服」
声の近くにたどり着いた俺が見たのは、なんともこの現代ではキテレツな服装の少女が追いかけられていることだった。
具体的にいえば忍者。しかもオーソドックスな忍者服じゃないわりときわどい感じの。
そしてさらに驚くべきは彼女を追ってきているような奴らの姿はオーソドックスな忍者だった。ええ……現代でこんな服装の人間いるの? ていうか彼女の服はなんでそんなきわどいん?
「変態から逃げてるようにしか見えんが……あの動きはどっちも只者ではないよな」
この暗闇の中、俺のように鋼鉄兵器を纏っているわけでもないのに動きが速いし、性格に彼女を追っている。
ありゃ戦闘も生身なら俺より強いんじゃないだろうか。
「ま、理由はどうであれ手助けするか」
妖魔の頭を鷲掴みにし、悲鳴を聞き流しながらまた走り出す。
そして奴さんの真上についた時、鷲掴みにしていた妖魔を叩きつけた。
『な、なんだ!?』
『妖魔だと! しかしかなり弱って……』
ちょうどよく動揺してくれている。
後は駆動音を最低限に、俺は彼女の前に降り立った。
「口をしっかり閉じてろ」
驚く彼女をよそに、俺は彼女を担ぎ上げそのまま全速力で走り抜けた。
ま、あの忍者たちには悪いが後処理は任せた。
※
「これで撒けたかな?」
「あ、あなたは……」
「と、すまん。女性を抱えたままにするのは失礼だったな」
よいしょ、と彼女を下ろし俺は鋼鉄兵器を解除する。
「……男性、ですよね?」
「男だよ。よく間違われるんだよね」
実際自分でも鏡を見てると中性的だなぁとは思うし、この女性から見てもそうなんだろう。ウチの母さんは男勝りで学生時代は男に間違われるのもあったらしいし。
「あの、なぜ見ず知らずの私を助けてくださったのですか?」
「ん。ぶっちゃけ別に理由なんてないよ」
「んあ!?」
彼女は返答に驚いたのか口をぽかんと開けている。ほんとにこれに関しては直感的に動いた結果なんだよな。
「強いて言うなら君が困っているように見えた、ってところだ」
それ以上でも、以下でもない。
「はは……あなたはお優しい方、なのですね」
「そうではないと思うけど? そういえば家はどこ? 送っていくけど」
「帰る家は今ありませんので……それにさっきの追手がまたいつ来るかわかりませんので野宿でも」
どうも深く悩んでいる様子で、彼女はとても困っていた。
「ならウチにしばらく泊まる?」
そんな彼女を見て、俺の口から自然とそんな言葉が出ていた。
「はぁっ!? そ、それはどういう……」
ん? なんか顔を赤くしてるけどなんでだ。
「いや、泊める代わりに家事とかしてくれたり、手伝ってくれると助かるなって。一人暮らしだとその辺がどうしてもズボラでね」
「あ、それくらいでいいなら……」
「じゃあ交渉成立だね。俺は鳳龍臥。呼び方は好きにどうぞ」
「では、龍臥さん。私は高垣千代たかがき ちよと申します。何卒これからよろしくお願いします」
「よろしくね、千代さん」
こうして俺たちは握手を交わし、千代さんを泊めることが決まった。
「あ、でもとりあえずまずはコンビニに行こうか」
「コンビニ、ですか?」
「その、今の千代さんの服ってどうしても目立つから……」
「あ……で、でも私お金が」
「俺が出しておくから。……俺の部屋の掃除って絶対大変だし」
……正直引かれないことを祈るばかりである。
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