@karin-to

第1話雨

冷たい雨が私の体を包み込む


私に降り注ぐ水の1粒1粒が私の体温を徐々に、徐々に奪っていく

でも、これでいい、今は、今だけは、冷たいくらいがちょうどいい、この行き場のなくなってしまった熱を、冷ましてくれるような気がするから

分かっていた、あの人の目には私のことなんて映ってないって

分かっていた、あの人の隣には私なんて相応しくないんだって

それでも、あの時の温もりが暖かくて、忘れられなくて

縋ってしまった、祈ってしまった

それが意味の無い行動だなんて、分かっていた……はずなのに

あなたの1番になれなくてもいい、あなたの特別になれなくてもいい

ただ傍にいたかった、それだけだったのに

もう、ここの場所がどこなのか分からない、さっきから、どれだけの時間が経ったのかすら分からない、数十分歩いていたような気もするし、数時間歩き続けていたような気もする


気がつくと、崖の上にいた


ここから、飛び降りたら、楽に、なれるのかな


そうして、1歩踏み出そうと……


その、瞬間、あなたの顔が、脳裏によぎって、しまった

それだけで、足が止まってしまう、固まったはずの覚悟が、まるで炎天下の氷のようにすんなりと融けてしまった

もう一度、話をしてみよう

もしかしたら、なにかすれ違ってしまった可能性だってあるのだから

そして、踵を返そうとして……


「……ぁぇ……?」


次の瞬間、私は、宙を、舞っていた

足を滑らしてしまったのだろうと、どこか冷静に分析する自分がいた、 そして、もう、助かることはないのだと、理解して、しまった


あぁ……



あなたは、私のことを覚えていてくれますか?



口から漏れてしまった、叶うはずのない想いが、雨音に、かき消された

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