16.事件簿

S side



 ……遅い

 


 中等部、高等部では、校舎が離れている為、昼休憩、放課後 以外で会うことは難しい。


 それ故、昼休憩はカフェで、講義後は校門前で待合わせているが、待てど暮らせど、レティシアが来ない。胸騒ぎがした。


「…何かあったんでしょうか」


 心配そうに呟くルカスを横目に、仮説が脳裏を掠めた。


 事あるごとに、俺を追いかけ回していた彼女が、最近は不審な行動を取っていた。執拗以上に周囲を気にかけて…


「…何かを、探していた」

「え、?」


 前世で、姉と妹が繰り広げていた会話を思い出す。


 右耳に付けたイヤーカフにそっと触れ、呪文を唱えた。



” シ ェ ル シ ェ “



「ルカス。レティシアを迎えに行こう」




◇◇◇◇◇




 目前に展開された図は、学園裏に建てられた小屋を示していた。青光を放っている。


 そこは、盗賊イベントが発生した際に、ヒロインが監禁されていた場所。



 ……金で雇ったか、




「下がれ」


 風魔法と炎魔法を組み合わせ、威力を上げる。鍵が掛かっているかさえ確認せずに、部下を下がらせて、扉を破壊した。



 ” リ ュ イ ー ル “



 バンッ、パラパラパラッ


 扉は無惨に壊れ、木屑がパラパラと空を舞う。拘束されたレティシアと、彼を囲う男達が、視界に入った。殺意が湧いた。



 何してくれてんだよ、



「迎えに来たよ」


 醜い感情を、ぐっと抑え込んで、優しく声をかける。愛しい彼を、安心させる為に。


「…た、頼まれたんだ!!」

「う”、!!」


 命乞いをする男に慈悲など与えず、水魔法に魔力を加え、放つ。


 水魔法に優れた俺にとって、高難度な催涙成分を組み込むことなど、容易だ。


視界を奪われて、もがき苦しむ男達を、護衛騎士が拘束していく。


「遅くなってごめん」

「…シ、オン…」

「無事で、良かった…」


 拘束を解き、強く抱き締める。

 華奢な身体は、僅かに震えていた。



 …また、傷付けた…

 …守れなかった、



「……ごめん、レティ」




◇◇◇◇◇




 緊張が途切れ、気を失ったレティシアを抱えて、早急に王宮へ向かう。



 到着後、婚約者に宛てられた部屋に搬ばれ、時折、瞼にぎゅっと力を入れる姿に、胸が痛んだ。


「……レティ」


 頬をそっと撫でれば、ふにゃりと表情が和らいで、甘えるように擦り寄った。その姿に、愛しさを再確認する。



 …大切だからこそ、距離を置くべき、か




◇◇◇◇◇




R side


「……ん」


 気が付くと、僕は薄暗い部屋で倒れていた。



◇◇◇



 放課後、待ち合わせに向かう為、シオンが付けてくれた護衛騎士と、廊下を歩いていた時、背後から口を覆われ、意識を失った。



◇◇◇



 意識を取り戻した時、薄暗い小屋(?)にいて、隙間から差し込む光を頼りに、周囲を見渡す。


 傍には、いくつか木箱が積まれていて、埃を

被っている。学園内に、倉庫なんて…あっただろうか。


 魔法を発現させようしたけれど、口を塞がれ、抵抗虚しく、この有様だ。護衛騎士は、無事だろうか。


「……ぅ”、」


 肩と横腹に、鈍い痛みが走った。


「気がついたか」


 近づく人影に、目を凝らす。


「悪いな。やとい主に、アンタを懲らしめるように頼まれてんだ」

「案外 可愛い顔してんじゃねぇか。俺が相手してやるよ」



 イヤだ…、

 ……イヤだ、嫌だ嫌だ!!



 にやにやと下品な笑みを浮かべて、男達が近づく。距離を取る為、咄嗟に抵抗するが、手足が拘束されていて、思うように動けない。



 ダメだ…、

 僕は、シオンじゃなきゃ…、



 目を瞑ることでしか、現状を否定する方法は見つからなかった。



 バンッ、パラパラパラッ



「何だ、!!」


 何かが破壊される音と共に、部屋に光が差し込む。薄暗い部屋に馴染む視界は、突然照らされた光に、ぼんやりとでしか状況を捉えられない。


 けれど、発せられた声色に、涙がじわっと滲み出す。やっぱり、彼は…



 僕の、…僕だけの王子様



「迎えに来たよ」




◇◇◇◇◇




「……シオン、」


 気怠い身体を起こす。無意識に彼を探せば、顔を伏せるように眠っていた。


「レティシア様」

「スレンダ…」

「傍にいると言って、聞かなかったんですよ」


 ふふ、と我が子を想うように、優しく告げられ、スヤスヤと眠る姿に、愛しさが溢れた。


 第一王子という地位を忘れて、そっと頭を撫でた。



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