シナリオに抗い、悪役令息を溺愛します。
空海
王宮編
1.婚約者は悪役令息
「シオン。レティシア・ローレンと婚約しなさい」
刹那、前世の記憶が蘇った。
非現実的な景観と、見慣れない髪色に、瞳。神様が、それはそれは丁寧に創ったであろう容姿端麗な男達に囲まれ、少女がふわりと微笑む。
周囲を煌びやかなエフェクトが彩っていた。咄嗟に浮かんだ言葉は、
” あ、転生してんな。これ ” だ。
【一瞬の永遠を、キミと 〜 聖なる魔法と
光属性魔法を発現させたヒロインが、王立学園を舞台に、攻略対象者と恋を繰り広げ……とまぁ、典型的な乙女ゲームだ。
脳内花畑な姉と妹が、嵌まりに嵌まって、日々語り合っていた。姉に至っては、重課金者だ。
それ故、会話は九割以上がゲーム関連。誰がかっこいいかと質問され、無視すればキレられ、答えれば文句を言われていた。
女二人に、男一人となれば、後者が圧倒的不利な訳であって、日々、同調圧力に従う他なかった。
……可哀想な俺、
だが、今となっては、姉と妹に感謝すべきか。俺は、今世で攻略対象:アルフォンス公国第一王子 シオン・アルフォンスとして生を受けている。
前世では、特にこれと言って特徴がない平凡な学生。死因がどうだったかは曖昧だが、窓ガラスに反射する姿を見れば、轢かれそうになった子供、猫を助けた、或いは警官、消防といった職に就いていた、といったところか。
光加減でキラキラと靡く銀髪に、深く澄んだ碧眼。
どういう経緯であれ、命を救っていないと説明がつかないレベルに、顔が抜群に良かった。
「翌月、王家主催で茶会を催す。婚約者候補となる子息令嬢を招待する予定だが、内密に彼を婚約者とすることが決まった」
レティシア・ローレン。
筆頭公爵家次男にして、闇属性魔法に優れた少年だとか。
今世には、情報化が進む前世に存在しない “魔法” が存在し、主に、炎・水・風・土・光・闇を軸に分類される。
大抵は、扱える属性が1つに限定される為、多少は差があるとはいえ、全属性を扱う俺は、既に他国から危険因子として認識されている。確証はないが、俺に取り入ろうと政略結婚を目論む国が現れたんだろう。それによって、父は、国王として、早々に婚約相手を選定することを余儀なくされた。
「分かりました」
◇◇◇
「異世界転生…か、」
有無を言わさない圧に頷き、早々に退室した。無駄に広く、長い廊下を歩きつつ、情報を整理する。
闇魔法を扱うレティシア・ローレンに対して、他属性に比べ、特別視されている光魔法を使うヒロイン。その対比が、悪役らしさを演出する。
ゲームでは、ヒロインと攻略対象者が、互いに惹かれ合う過程で、婚約者が嫉妬や憎悪に駆られ、ヒロインに悪質な嫌がらせを繰り返していた。
そして、王立学園卒業パーティーにて、事実を知った攻略対象者が、婚約者が指示し、実行させた悪事を明らかにし、国外追放・修道院送致・処刑など、処罰を言い渡す。ご存知、断罪イベントだ。
姉と妹が、愛がどうだと狂喜乱舞してた為、言えなかったが、断罪するには、些か時期尚早に思えた。
確かに、嫉妬や憎悪で、ヒロインを虐めた行為は許されない。だが、婚約者がいるにもかかわらず、他の女に熱を上げた攻略対象は、咎められていなかった。
…歴とした“ 浮気 ”だろうが、
ヒロインに至っては、婚約者がいる男を誘惑した上、その地位を奪っている訳で、” 泥棒猫!!“と罵られたとて、自業自得だ。
プレイヤーが操作していたとはいえ、意図的に男ウケを狙った仕草は好きになれなかった。“世界一可愛い” とか思ってんだろうな。俺は受け入れられそうにない。攻略なんてされて堪るか。
とはいえ、レティシア・ローレンが、愛故に人を陥れて、悪役として断罪される予兆が見られれば、話は変わってくる。
立場上、相手には困らない。王家と懇意にする為、我先に縁談を持ちかける者が、後を絶たないからだ。
「レティシア・ローレンを調べてくれ。彼の言動を魔法石に記録し、提出を」
第一王子専属諜報員[影]に指示を出す。
この世界では、同性婚が認められている。魔法によって、相手が男であろうと、子を宿すことができるからだ。
王家に嫁ぐ 婚約者として選ばれたローレン公爵家は、闇属性魔法に優れ、地位・財力など、すべてにおいて、他を圧倒する存在。だが、それ以上に権力を求めようとしない控えめな家柄が、王家では高く評価されている。
長男ルーク・ローレンは黒髪金眼、子息令嬢が羨む整った容姿に、理性的かつ論理的な考えが、次期公爵家当主として理想的な逸材だと聞く所以だ。
弟レティシア・ローレンは黒髪紫眼、キリッとした目元をし、” 息子は天使だ ”とローレン公爵が話していた。次期王妃として申し分ない相手といえる。だが、依然として異性婚が主流な為、レティシア・ローレンが婚約者となれば、反対する貴族は、必ず現れる。
そういった劣悪な環境下で、レティシア・ローレンは、一途に想い続けた。恋心を捨てなかった。それ故、悪質かつ卑劣な陰謀に対抗する為、隙を与えない為に、毅然とした態度で徹した。例え、悪役令息と揶揄されようと。
……想像に過ぎないが、そう外れてはないだろう。
◇◇◇◇◇
「魔法石になります」
三日後、魔法石が提出された。
「ご、ごきげんよう。ローレンこおしゃくけ、次男レティシア・ローレン、です」
「レティシア様。“ です ” ではなく “ 申します ” と仰って下さい」
「分かった」
「えっと、ごきげんよう。ローレン公爵家、次男レティシア・ローレンと、もおします。スレンダ!僕、上手だった…?」
「はい、とてもお上手でしたよ」
猫のぬいぐるみに向かって、挨拶をする少年が映し出された。
漆黒に艶めく黒髪に、アメジストに負けず劣らず美しい紫色の瞳。二週間後に控えた御茶会に向けて、二つ年下で六歳になった彼が、懸命に言葉を紡ぐ姿に、目が離せなかった。
「…天使だ」
可愛い、可愛過ぎないか…!
女神でさえ妬むレベルだ、
愛がなくたって、情があれば、支障はない。そう、考えていた。
前世が蘇ったとはいえ、一目惚れは想定外だ。
次期国王として、厳格な環境で育てられた八年。俺が得たすべてを使い、彼を幸せにすると誓った。
何があろうと、この恋は…
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