くっ殺せの姫騎士となり百合娼館で働くことになりました。
ひな姫(ひなき)
序幕 異世界で娼婦になりました<❤>
石造りの寒々しい部屋の壁に立てかけられた大きな姿見鏡。
それを一人の美少女が熱心に覗き込んでいる。
彼女は全裸だった。
年のころは17か18。
長い金髪に赤い瞳、
肌は真っ白で形のいい大きな胸にくびれた腰ときゅっと締まったお尻、
スラリと伸びた足はしなやかでつま先までのラインは見たものをうっとりさせる。
軽く頭を振ると、ふわりと髪が優雅に揺れた。
「ふむ……我ながら実に麗しい♪」
声もまた鈴を鳴らしたように可愛らしい。
だが、少女には似つかわしくない堅苦しい言い回しだった。
……これが私だ。
名前はリリーオン。
とある異世界の
男の姿は一切ない。
ただ一人、私を除いては……。
自分がもともと男だと言っても誰も信じないだろう。
それくらい完璧な美少女だ。
何故こうなったのか一言で説明すると、
私は現実世界で一度死んで、この世界の少女の身体を借りて新たな生を得たのだった。
──コンコン……ガチャッ!
不意に扉がノックされ、返事を待たずに開けられた。
「おつかれっリリー!」
先輩娼婦、アルセアだった。
彼女を一言で表わすとギャルだ。
ショートカットで褐色の肌、深緑色の瞳、唇にはいつも挑戦的な笑みを佇ませていた。
「やだっ、もう準備万端じゃーん❤」
裸の私を見て、アルセアは嬌声をあげた。
「あたしが来るのを、そんなに楽しみにしてたのねっ」
「……いや、これは肌のお手入れをしようと……」
「うんうん、それも娼婦には大事なことだよ♪」
言いながら、アルセアは私の手を引っ張ってベッドに連れて行き座らせた。
「じゃあ今日も練習しようね❤」
そうして私は、優しくベッドに押し倒された。
別にいちゃついているのではない。
これはれっきとした教育なのだ。
娼婦の仕事は、当たり前だが身体を使ったえっちなおもてなしだ。
だが、素人にそんな事がいきなり出来るわけがないので、
新人の私には教育係がつけられ、毎日手ほどきを受けていた。
その教育係がアルセアだった。
アルセアは、汚れたシーツの上で私を全裸にしながら、体のあちこちを撫でまわす。
「……ここがきもちいいんでしょ?」
耳元で囁きながら、私の胸を弄ぶ。
2つの膨らみが面白いくらい形を変えるのを眺めながら私はアルセアに聞いた。
「……強く揉むから赤くなってる」
「それをお客さんは喜ぶの♪
リリーは肌が真っ白だから、赤みを帯びるとすごく映えるし♪」
アルセアは、私の胸を楽しそうに揉んでいる。
もにゅっ、むにゅ
「……おっぱい揉むの好きだよな」
「触り方でリリーの表情が変わるのが好きなのよ。
あたしが気持ちよくしてるんだなーって実感するの♪」
言いながら、私の頬を暖かい両手で挟み込む。
そして、キスされた。
恋人でもなんでもない他人同士なんだから、もうちょっと遠慮は無いのか?と思うほど舌を入れてくる。
だが、しばらくもごもごされていると、徐々に身体の力が抜けてゆったりと心地よくなってくる。
唇を撫でられ、舌同士を絡ませられ、口内の細部を丁寧に確かめていく動きに私はうっとりしてしまう。
緊張して握りしめていた両手は、いつの間にかアルセアの背中に周ってしっかりと抱きしめていた。
夢心地……というか、夢の世界の真っただ中──アルセアはキスが上手いのだ。
心が彼女を受け入れてしまうと、アルセアはうっすら微笑んだ。
指先が、私の股間をそっと撫でる。
ピクンと身体が震える。
「ふふ……もう期待してる?しちゃうよね??
リリーをいつも気持ちよくしてる指だもんね」
自分の顔がみるみる真っ赤になるのがわかる。
「リリーってほんとかわいい。
じゃあ──いい感じに温まったところで今夜の練習はここまでね❤」
(えっ、これだけですか!?)
内心が顔に出たのだろう、アルセアは思いっきり笑った。
「続きはお客さんとするの。そのための練習なんだから♪」
そうして、指をきれいに揃えて差し出しながらこう言った。
「はいっ、授業料ちょうだい」
一瞬で夢の世界から現実に引き戻された。
私はシーツの下に手を潜らせごそごそ探り、何枚かの小さな硬貨を掴みだした。
それをアルセアに差し出す。
「1枚足りないじゃん」
「……もうこれしかない」
「ったく仕方ないなぁ、ツケにしとく」
アルセアは硬貨を受け取ると起き上がり、ベッドの傍のテーブルに置かれた手燭を取り上げた。
この世界に電気は無い。夜は蝋燭の火と月の明かりだけが頼りだ。
「さっ、ひと稼ぎするっしょ!おいで!」
アルセアに急かされ、私は粗末な服を着ると部屋を出た。
裸足で歩く床は冷たかった。
薄暗い階段を降りて廊下を歩く。
徐々に、女声のざわめきが聞こえてきた。
「さぁ、いらっしゃい!今夜もいい娘がそろってるよ!」
呼び込みの声、それに呼応する楽しそうな笑い声、嬌声などなど。
廊下を抜けると、明るい大広間に出た。
そこは食堂で、すでにたくさんのお客で賑わっていた。
「リリー、わかってるよね?」
アルセアは私の手を引っ張りながら念を押した。
「今夜こそ馴染み客を作るのよ。
毎晩リリーを買いにきてくれて、たくさんお金を払ってくれるお客を捕まえられたら、こっちのものよ♪」
「任せてくれ、プレゼン資料はばっちりまとめてある!
私にお金を払う価値があるということをしっかりお客様にお伝えすれば、わかって頂けると思う」
「そうじゃなくて、お客をうっとりさせなきゃ。さっき私がしたことを思い出して!」
「……雰囲気作りは苦手なのだが……善処する」
「”ぜんしょ”ってなに?」
「適切に処理するということだ」
「そういう難しい言葉をまず止めないとね。
もう行くよ、稼がないと」
言い残すと先に行ってしまった。
振り返りざま、
「リリーは超美人なんだから、絶対うまくいくよ。がんばって♪」
アルセアはこういうフォローを忘れない。
細やかな気遣いのできるギャルだ。
そして、第三者から見てもやっぱり私は美しいらしい。
……私は顔の前に自分の手を差し出してみる。
美しい……わかるのはそれだけだ。
他にはまだ何も知らない。
この世界のことも、この身体の元の持ち主の事も。
何故こんなことになってしまったのか……?
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