やんちゃな天使のおしえ

紫雨

第1話

 悲しくなるほど綺麗な夜だった

 花は咲き乱れ、

 車のエンジン音が心地よく音を響かせる

 今日もまた僕は命を狩る


 僕は優しい人間になりたかった

 それが叶わないと知ったのは五歳の頃

 僕に与えられた使命は

 死神として人の命を狩ることだった

 左手に黒い思いをこめ、放つ

 同時に瞳を閉じるのは心を守るため

 再び瞳を開ければ、もうそこには何もない

 静かな世界が広がる


 猫の鳴き声が耳に届く

 今日のターゲットは車の運転手

 轢かれる運命にあった猫は

 僕が命を狩ったことで生き延びた

 初めて僕は命を助けた

 どうしてなのか、わからないが

 僕の頬は濡れていた


 猫を抱きかかえて歩く

 運命を変えてしまった責任がある

 僕は命宿る桜の木の下で猫を下ろした

 愛を込めて撫でると猫は嬉しそうに喉を鳴らした

 つられて僕は微笑む

 今日は心が忙しい


 僕が天の指示を待っていると

 制服姿の少年が現れ

 天使だと名乗った

 羨ましいと伝えると

 そんなにいいものではないと

 薄い笑みを浮かべる

 僕が死神だと名乗ると

 羨ましいと言った


 正直、死神はつらい

 天の指示なら大切な人も狩る

 誰とも仲良くできない

 人を嫌いになり

 悪者を演じれば

 心が軽くなると思った

 けれど、

 孤独な世界は苦しくて

 誰かそばにいてほしい夜が

 何度も訪れては

 僕をおいて去っていく

 寂しい仕事だ


 天使は黙って聞いてくれた

 そして彼もまた語りだす


 正直、天使はもうしんどい

 どんな命にも平等に

 優しく親切に接しなければいけない

 ミスは許されないし

 命に救いを与える立場だから

 期待にこたえようと努力しても

 あたりまえで済まされる

 身なりにも気をつけるし

 本音はまばゆい光にかき消される

 笑顔で涙を覆う日々だ


 今日はお互い満足するまで語り合いたい

 そう言って天使はピザをたのむ

 どうしてピザかと問えば

 学校にデリバリーピザを頼んだところ

 先生に取り上げられて食べそこねたらしい

 なかなかに、やんちゃなことをしている

 天使なのにそれでいいのかと冗談で問えば

 彼はまた語りだす


 僕も君も人間でありながら使命を与えられた

 一つの命である

 けれど、一つの命であるからこそ

 自由に生きてもいいと思う

 君は君がなりたい優しい人間になればいい

 使命や役職、仕事に肩書

 どれも表向きな話だ

 心まで従う必要はない

 

 天からの指示で猫の命を奪えとのことだった

 悲しむ僕に天使は微笑む

 彼は僕の横であくびをする猫を撫でた

 猫に綺麗な羽がはえこの世のものではなくなる

 君にあげるよ、君の仲間だ

 そう言って彼は猫を差し出す

 彼の手を離れると羽は消え猫の姿に戻った

 僕は猫を受け取り、彼に礼を言った

 また会いたいと伝えると

 人間としての名と学校を教えてくれた

 

 大切な仲間を抱え帰り道を歩く

 孤独な世界に猫の声が響いた

 

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やんちゃな天使のおしえ 紫雨 @drizzle_drizzle

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