商法

「やい! いい加減にしろ!」


商人は特に驚かなかった。そう言われる自覚があるのか、それとも慣れているからなのか、腹の内は分からない。


猛々しく叫ぶ男は、別の通りの商人だった。彼の言い分を聞く限り、この商人が模造品を高値で売っているというのだ。


「じゃあこうしよう。君の言い分を信じる者と、そうでない者。投票してもらうのだ。多い方の勝ち、言い分を正しいとする。私の主張は”私は模造品など売っていない”だ」


「いいだろう」


別通りの商人は、息巻いて陳述を行った。自分が考えた商品がいつから存在して、いかにこの商人がそれを模造し、高値で売り、自分の家族が苦しめられているかを。それらの確たる証拠まで、揃えていた。


そして、投票が行われた。野次馬に紙と鉛筆を渡し、どちらが正しいか書かせた。その紙を折って、透明な投票箱に入れさせる。これでは不正はできない。


そして開封の結果、別通りの商人は負けてしまった。商人の言い分が正しいと証明されたのだ。


別通りの商人は店を畳み、その町を後にした。


その件もあって、商人の店は繁盛した。一度は言い掛かりをつけられたが、それを乗り越えた腕利き商人として、彼の店は有名になった。


「これは……」


会計士と思しき男が、商人の伝票を順に確認していく。


「必要経費ですよ」


帳簿には、得票数と同じだけの金貨と、大量の金貨が一人の商人に渡されていた。

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しごろくショート 肆伍六 漆八 @shi_go_roku

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