最強の能力

男は科学者だった。エンタメに現れるような、所謂マッドサイエンティストというものだ。


あらゆる非人道的な実験を繰り返し、”最強の能力”を探し続けた。


それを見かねた神と呼ばれる”何か”が彼の前に現れた。


「これまでの行いを悔いるのであれば、あなたに”最強の能力”を授ける」


男は懺悔した。なら初めからやるなとツッコミを入れたいが、男は事実辟易していたのだ。

非人道的な実験も、心が痛まなかったわけではない。夜な夜な夢にも見る。

その中で、成果が得られない日々。


男は懺悔した。


神は彼の心からの懺悔に耳を傾け、それを受け入れた。


男は、最強の能力を手に入れたのだった。


それから数年、男はその能力について、一切の実感が無かった。力はそのままだし、何かが見えるでも、出せるでもない。


「昨日も一日、何も起きなかった」


男は、それでもいいやとコーヒーを淹れた。

テーブルの上にある新聞には、こう書かれていた。


「犯罪急増中。不要不急の外出は控えるように」


一服を終えた彼は「今日は、図書館にでもいこうかな」と支度を始める。


こうして彼は今日も、何も起きない一日を過ごしたのだった。

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