第39話:後輩の君に伝えたい

 そのまま二人で思い出話をしながら、二時間ほど館内を見て回ったところで、吉喜から『俺らはそろそろ帰るけどお前どうすんの』とメッセージが届いた。


「葉月ちゃんどうする? まだ見る?」


「先輩が帰るなら帰ります」


「ん。じゃあ、吉喜に車で送ってもらうから一緒に「いえ、結構です。あなたに家を知られるのは困るので」


 ストーカーみたいな扱いを受けたことにショックを受けつつ、彼女と別れようとすると彼女は何故かついてきた。


「……え? なに? 電車で帰るのでは?」


「……駐車場まで送ります」


「そのまま乗っていけば」


「いえ。結構です。……そもそも私の住居はここから徒歩圏内なので」


「なら送ってあげ「結構です。お帰りください」


 突き放したいのか放したくないのかどっちなんだと苦笑しながら、彼女を連れて駐車場まで歩くことに。


「葉月ちゃんって、吉喜とは話したことあったっけ?」


「いえ。でも、覚えてます。……先輩が当時付き合ってた方ですよね」


「そう。元カレ。ああでも、付き合ってたって言っても恋愛感情はないよ。全くない。手繋いだりハグしたりくらいの接触しかしてないから」


「……手繋いだりハグしたりはしたんですね」


「なによー。それくらいなら葉月ちゃんもいっぱいしてるじゃないのよ」


「そうですけど……」


「あ、ちなみにあいつ、ゲイだから。私は惚れてなかったけど向こうは惚れてたとか、そういうのもないから」


「そうなんですか。って、それ、勝手に言って良いやつですか?」


「誰にでも勝手に話してるわけじゃないよ。ちゃんと話す相手は選んでる。あいつ、オランダ人と結婚してんのよ。良いよなぁ。法律で家族だって認められて。私たちも早く家族になりたいね」


「家族以前に恋人ですらないですが」


「ほぼ恋人みたいなもんじゃん」


 と、いつも通り彼女を揶揄いながら歩くこと数分。駐車場に着いた。車の中から二人が私達に手を振る。


「じゃあ葉月ちゃん。またね」


「はい。また……学校で」


「……うん」


 車まで送ってくれた彼女が去っていくのを、見えなくなるまで見送る。また学校で。その一言は単に、偶然会っただけという体裁を守るためだろうか。それとも、本当に会ってくれないのだろうか。学校では話せないことがたくさんある。生徒ではない先輩の私から、先生ではない後輩の君に言いたいことがたくさんある。もし彼女が自分の意思で会いに来てくれたら、その時はちゃんと、茶化さず真面目に伝えよう。私の想いがどれだけ本気であるかを。

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