第95話 暗殺者、戦いの終局を見守る。
「姉上? もう起きて大丈夫ですか?」
「うん! 何だか、生きてきた中で一番元気なくらいだよ!」
姉が問題ないならいいか。
「ア、アダム……そ、その……」
「?」
「えっと…………あの……」
顔を赤らめてもじもじする姉がまた可愛らしい。
「さっきは……その……キスして……ごめんね?」
ああ。そういうことか。
「姉上? どうして謝るんでしょう?」
「へ?」
「姉弟ですし、それくらい普通なのでは……?」
「…………」
「?」
「そ、そうだった……アダムって……」
「?」
「な、何でもないの! ……ふふっ」
何故か笑う姉。
「ねえ。アダム~」
「はい」
姉は地面に横たわっていた自身の剣を取り、高く掲げた。
「これから後衛部隊の護衛に行くわよ~! ちゃんと付いてきなさい!」
「はい。姉上」
走り出した姉を追いかけて走る。
どこか清々しい表情の姉に、苦笑いがこぼれた。
それにしてもギンが暴れた周辺はずいぶんと被害が大きい。
それと外から聞こえる戦う音は今も続いているが、ビラシオ街のような大きな被害が起きないのは、王都の防衛がそれ程しっかりしたものだからだろう。
西正門に着くと、多くの兵達が交互に魔物達と戦っていた。
何種類もの魔物達は、目が真っ赤に染まっており、普段よりもより凶暴性を増した動きをしている。
「アダム! 私は出るから負傷者の回復をお願いね!」
「はい」
剣を抜いた姉の体から青いオーラが立ち上り、凄まじい速度で魔物の群れに飛び込んで行った。
王都を守る騎士団や兵隊はよく統率されていて、王都内に魔物一匹入れることなく耐え続けた。
だが、問題は上空に広がっている黒い雲だ。消える気配がなく、このままではずっと魔物を呼び続けるのではないか?
そのとき、城から強烈な力を持った存在の気配がした。
それは段々と姿を見せる。
「ド、ドラゴンだ! 聖竜様が目覚めになられた!」
巨大な白いドラゴンは翼を広げゆっくりと飛び始め、上空にある黒い雲に向かった。
すぐに周りから歓声が飛び交う。
ミガンシエル王国に伝わる古い童話がある。
その昔、聖者と呼ばれた男はその徳から聖竜と契約をしたという。聖者は民を守るためにその地に王国を築き、名をミガンシエルと付けたという。
一見するとただのおとぎ話に思えるかもしれないが、テミス教がこの地を本拠地としている理由は、ミガンシエル王家が聖竜と繋がりを持った血筋であるからと言われている。
最初はおとぎ話だと思っていたが、聖女からこの地に聖竜が眠っていると聞かされていたのだ。
聖竜が黒い雲に近付いて神々しい光のブレスを吐き出し、黒い雲を消し去っていく。
少しずつ空から眩い光が降り注ぎ、狂っていた魔物達も少しずつ落ち着きを見せ始めた。
「魔物の勢いが減ったぞ! 今が好機だ!」
「「「「うおおおおお!」」」」
より士気が上がった兵達が魔物を蹴散らし始める。
黒い雲の正体まではわからないが、王都に聖竜が眠っていたとは知らなかったのか……? いや、それにしてはあまりにも大々的にことを起こしている。王都内でもギンを暴れさせたくらいだ。
だが却ってそれが不気味でもある。闇ギルドが関与しているなら、どうしてギンだけを暴れさせた? 前回のような死体使いや逃げた女研究者は?
神風の包囲網を潜り抜けて王都内に侵入するのは不可能だ。それこそ、俺のように転移魔法でも使わない限り。
となると……その目的はやはり王か?
王城の侵入者は二人だと言っていた。
一人は王、もう一人は別の場所に向かったとイヴは言っていたな。
聖竜が呼び起されたタイミングも非常に遅い。
真犯人は一体何を狙って……? 王都崩壊や王の命ではない……? なら何を……?
戦いは王国側の圧勝で終わる方向に向かっている。
だが……どうしてか全ての事が後手後手に回っている気がしてならなかった。
◆
アダムやソフィアが王都最前線で魔物と対峙していた頃。
王城の謁見間ではエンペラーナイト一人と男一人が対峙していた。
周囲は激しい戦いを物語っているかのようにボロボロとすぐにでも崩れそうになっていた。
「お前達の思い通りにはいかなかったな! 闇ギルド!」
「…………そうみたいだな」
「お前もここから逃げることはできない」
「…………舐められたものだ。我らは死など恐ろしくない。頭領に命じられたまま任務を遂行するのみ……! 俺はここで貴様の足止めが目的だからな!」
「っ!?」
二人の戦いはまた始まった。
男はギザギザした刃を持つ大剣を振り回してエンペラーナイトに襲い掛かるが、二人の実力は僅かながらエンペラーナイトに軍配が上がっている。
戦いはより激しくなるが、膠着状態のまま時間だけが過ぎていった。
◆
その頃、王城地下。
隠されたその通路は、国でもごく少数だけである。
そんな道を歩くのは――――細身の青年だった。
「えっと……本当にここで合ってるのかな……」
暗い通路をランタン一つで恐る恐る進む。
どこまでも続くと思われた通路だったが、青年の前に扉が現れた。
「扉……えっと、ここにこの宝石をはめ込めばいいんだよね」
懐から大事そうに取り出した三角の形をした白い宝石を、扉の窪みにはめ込んだ。
宝石はちょうど合うサイズで、嵌めた瞬間に赤い光を放って、扉に無数の赤い線が広がった。
そして、扉は重い音を響かせてゆっくりと開いた。
「本当に開いた……先生が言っていた通りだね。次は、中にある『カーディナル』のために封印された剣をアダムくんに届ければいいんだよね……!」
青年は部屋に入り、天井や地面から伸びた白い鎖に巻き付かれた禍々しい剣に触れた。
青年と剣の間に黒い雷がバチバチと音を立てると、白い鎖が反発し始めた。
「えっ!?」
青年が驚く間に、禍々しい剣は激しく揺れ黒いオーラを放ち、白い鎖を全て浸食すると燃えた灰のように崩れていった。
そして、剣からどす黒い靄が青年の手にしがみつく。
「な、何これ!? ま、待っ」
黒い靄は鋭い触手のようになり、青年の腕の中に入り込んだ。
「あああああああああ!」
青年は激痛に耐えられず、叫びながら腕を掻きむしるが、闇の靄は止まることなく、彼の全身に広がった。
「どうしてっ……アダムくん……」
青年は薄れていく意識の中、自分の唯一の友人の顔を思い出していた。
――【お願い】――
いつも元暗殺者を楽しんでいただきありがとうございます。
当作品は最初の目的は達成できなかったため、次の目的に移行しました。
というのも、現在なろうで開かれているネット小説大賞12への参加です。
もしここまで楽しめた方は、なろうの方でも連載を始めたので、ぜひブクマと★を入れていただけたら嬉しいです。
サイトをまたぐお願いになりますが、どうかよろしくお願いいたします。
カクヨムでの連載を止める&なろう先行配信はございませんのでご安心ください。
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