第86話 暗殺者、時間を有効活用し従業員を労う。
セカンドステージを越えた黒光魔法『堕天使』は、力を具現化することで黒い天使の羽が
カドゥケウスの羽を使えば、さらに
不思議なことに、黒光魔法の羽とカドゥケウスの羽は――――同類の力を持っていた。
カドゥケウスは大地を維持するという俺の問いに笑みで答えていたが、黒光魔法と何らかの親和性があるように感じる。
少なくともカドゥケウスの羽から何らかの攻撃ができるわけはなく、空を飛べるようになり、身体能力が向上した。そこから見ても同属性と見ていいだろう。
カドゥケウスが俺の中から深淵の隷属と相対する気配を感じ取ったのも、黒光魔法のおかげかもしれない。
さて、肝心なリゼ達だが、森から渓谷に沿って街の方に走っていた。
渓谷の深さを考えれば、山脈の奥を目指すより、入口を目指した方がいいと判断したからだと思われる。
それにしても、上空からでもわかる程にリゼの顔色が普通ではない。
仲間を大事にする彼女だからこそ、俺の生死に不安を抱いているのだろう。
このペースだと、今日明日に落ち合うことは難しそうだ。
一度彼女達と落ち合いそうな場所を確認して、転移魔法でガブリエンデ領へと飛んだ。
父が治めているシャリアン街のナンバーズ商会総帥室に到着し、そこから速やかに空を飛び東に向かう。
遥か上空からでは人の姿など一切見えないのだが、美しい黄金色の畑が一面に広がっている。
転移魔法を見られないように総帥室にしか飛べなくなったが、これからは上空に転移すればこの問題は解決できそうだ。
上空から一気に降下すると、すぐに神風の一員が俺の前にやってきて跪いた。
「ダーク様?」
「ああ。視察にきた。作業の進捗は?」
「はっ。現在、王都から集めたスラム住民達全員の移送が終わり、仕事に取り組んでおります。ですが全員が素人ゆえ……まだ予定通りの作業量はこなせない状態でございます」
「構わない。急ぐ必要も無理に働かせる必要もない。全員それぞれのペースで取り組むようにお前達も心掛けておけ」
「「「かしこまりました!」」」
「何か必要な物があれば遠慮せずに念話を飛ばしなさい」
「ありがとうございます……!」
「お前達も適度な休息を心掛けなさい。上の者に余裕がなければ、下の者がどれだけいい仕事をしても意味を成さない」
「「「はっ!」」」
それから畑を回りながら、王都スラム街から連れて来た住民達を労う。
これからはナンバーズ商会で雇われた正式な従業員となっており、衣食住の担保は約束されており、それぞれが労働力として雇われるが、今まで貴族がやっていた無理難題はせず、全員がマイペースに働ける環境を整えている。
さらに引退冒険者を雇い、魔物や山賊からの護衛としてここ一帯に住んでもらった。魔物が森の外を出ることはないが、戦いの心得のある護衛が常に目を光らせているというのは、従業員達も安心して働けるというものだ。それに払う経費など……これから回収する分に対して微々たるものだ。
「あ! ダーク様だぁ~!」
畑を歩いていると、いつの間にか居住区の近くに着くと、まだ年端も行かない子供達が俺を見つけて、波のように雪崩れてくる。
「「「「「ダーク様! いつもありがとうございます!」」」」」
少年少女は俺に向かって声を揃えて感謝を伝える。
穀倉地帯で働くもう一つのメリットは――――子への教育と衣食住の支援だ。
異世界では子供は畑仕事の労働力として使われる。だが、畑仕事も全員があるわけではなく、子供ができても生きるのが難しい層が多かった。それが集まってスラム街を形成する理由にもなったが……。
ここに集まった子供達は孤児もいれば、両親はいるが仕事がない子供ばかり。そんな彼らは将来ナンバーズ商会系列の会社で働くという条件に、大人になるまでの衣食住をナンバーズ商会が全て負担。さらに平民は受けることが難しい教育すらも施す。
これは何も子供達だけではなく、大人達も仕事が終わった後の夜や休日を利用して勉強会などに参加できる仕組みを作っている。
賢い者はそのまま多くの知識を覚えて教師となり、また彼らが子供に教える。そんなサイクルを作ろうとしている。
意外にもスラム街にいた者の中には賢い者も多く、聞けば上司に嵌められ
こうしてガブリエンデ領の東の大穀倉地帯は、人手が足りなくて開発ができなかった範囲まで全てをカバーできるようになり、最大効率で作物を育てることができるようになった。
これだけの人数を投入しても、ナンバーズ商会に莫大な利益が出るのは言うまでもなく、今まで王国の貴族達がどれだけ私利私欲を肥やしていたのかがよくわかった。
視察を終えてやってきたのは、王都の東にある元スラム街。
こちらは王都の外に当たるが、すっかりと土地として機能していた。
そこを姉が盗賊一斉討伐とスラム街住民達全員を引き取った功績で、元スラム街の土地は全てガブリエンデ子爵家の物となり、ナンバーズ商会が総力を挙げて王都を作り変えている。
王都を囲う城壁と同じ材質を使い、元スラム街を囲ってしまい、下層を安全な地として使用するように作る。
王にはすでに許可を取っており、東門で行き来できる作りにし、完成した下層の東に新しい門ができる形になった。
「ダークさま」
「
「はい。全てが順調です。ナンバーズ商会の値下げによる相場暴落によって、多くの失業者が生まれました。彼らには今までの待遇よりも良い条件で働いてもらい、作業がかなり効率よく進んでおります」
「うむ。全ては
「王都付近を第六騎士団が担当することで多くの神風が動けるようになりました。物流は全て彼らの手によって問題なく進行しております」
神風全員には『俊敏上昇Ⅳ』と『影収納Ⅲ』を付与している。
『影収納Ⅲ』は今まで馬車で運んでいた量よりも多く、神風が『俊敏上昇Ⅳ』による速度と体力があれば、速度も圧倒的なものだ。
それに神風達を襲える者など、騎士団でも出動させなければ難しい。物資のロストもなく、迅速に物流が回っているようでひと安心だ。
「他の派閥の動きは?」
「そちらは
「あれだけの富を占めていたのだ。それくらいは当然か」
「ですが、それも全て手を打っております。ソフィアさまにお願いして、アリサさまを抱き込み、教会から表彰する手はずになっております。多くの信者がよりガブリエンデ子爵家を応援すれば貴族といえど、手出しや口出しなどできないと思います。ただ……ガブリエンデ子爵家に連なる寄子や親睦がある貴族はパーティーなどには呼ばれなくなるでしょう」
「ふむ……なら、貴族の件は別プランを遂行せよ」
「別プランでございますか……?」
「ああ。今までのパーティーは自己紹介が多く、貴族の習わしではそれが当たり前だったが……これからはパーティー開催に司会を置き、イベントを開いてそれを通じて親睦を深めるようにする。自分からアピールせずともイベントをこなしていくことで自然と親睦を深められる」
「!? なるほど……今まではお互いの本心は知らず、上辺だけの親睦会が……より絆を強くするものですね?」
「ああ。イベントに関してはいくつか俺から提案をしておくが、全従業員にアンケートを取り、採用された者には特別ボーナスを出すと告知し、常に新しい考えを取り入れる」
「かしこまりました……! とても魅力的な提案です。すぐに実行致します」
「ああ。頼むぞ」
「はいっ!」
そして俺はその足でビラシオ街に向かった。
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