第66話 暗殺者、姉と茶を飲む。
姉が帰ってきたこともあり、ナンバーズ商会に顔を出せず、全てはルナに任せっぱなしになっている。
『ダークさま。下層の件が片付きました』
『ああ』
姉と王都にある喫茶店で紅茶を飲みながら、念話を通して報告を聞く。が、その前に姉との話し合いも進める。
「アダム~? 私の考えはどう?」
目を輝かせて身を乗り出す勢いで俺を食い入るように見つめる姉。
「ええ。とても素晴らしい提案だと思います」
「本当!? やった! じゃあ、これからすぐに――――」
「姉上」
「うん?」
「確かに姉上の提案は素晴らしいと思います。ですが、まだ少し早いです」
「そう……なの?」
残念そうに少し眉が下がる姉。
「ガブリエンデ家だけで子爵位が三つ。当然、姉上か僕に子爵位を引き継ぐ権利があり、いずれは二重子爵位を持つことになるでしょう。正式な権利は僕にあるから僕を主軸にガブリエンデ家の派閥を作るという案……とても理にかなったものだと思います」
「でしょう? なのにどうしてまだ早いの?」
「……姉上。姉上はこの先、どうなさる予定ですか? 王国の貴族となり、剣神という才能があります。エンペラーナイトから逃げることは厳しいでしょう」
姉は肯定するかのように首を縦に振った。
「となると、エンペラーナイトとなる姉上の方が父上の子爵位を引き継いだ方がいいと思います」
「!? ダ、ダメ! それはダメ!」
「姉上?」
そもそもエンペラーナイトとなれば、特別伯爵を叙爵することになる。それ以外に子爵をさらに二つ持つことで、姉の権力は大きく飛躍することになるのだ。
「私はアダムがなるべきだと思うの!」
「姉上……それはありません。それに……かのナンバーズ商会がガブリエンデ家に近付いた一番の理由は、おそらく姉上の存在でしょう。ガブリエンデ家という田舎の男爵に好条件で御用達にまでなり、その後も援助を止めないナンバーズ商会とガブリエンデ家はもう離れられません。彼らも姉上に権力が集中することを望んでいるはずです」
「そ、それは……で、でも! ガブリエンデ家の本家の子爵は、長男であるアダムがもらうべきなの! これは決定事項なの!」
「姉上。男尊女卑の時代はもう終わります。姉上が剣神を覚醒させ、エンペラーナイトとなる。アリサさまが聖女として本格的に動くようになれば、王国の全ての者がお二人を支持するはずです。僕では力不足です」
「アダム……」
今でも王国は貴族が全ての権力を握っていて、当然のように男尊女卑の考えが浸透している。だが、姉上の登場はそれを大きく塗り替えると思われる。聖女の存在も追い打ちとなり、王国でブームを巻き起こすと考えている。
そうなったとき、ガブリエンデ派閥があるとするなら、それは俺ではなく姉が主軸にいるべきだろう。
「それにガブリエンデ派閥を作るとしても、姉上と僕しかいない以上、まだ時期尚早だと思います。もう少し派閥に参加してくれる仲間を探しましょう」
「……ひとまずはわかったわ。でも私はまだアダムが派閥の会長の座についてほしいのは諦めてないからね」
「ええ」
「そうと決まれば、最初は――――アリサちゃんとイヴちゃんを引き入れないとね!」
「姉上……アリサさまは教会所属ですから、難しいと思います」
「そう? 一応聞いてみるだけ聞いてみるよ」
それから姉は引き入れたい人を何人か口にした。
俺が知らない姉の同級生も何人かいるようだ。
『
『はいっ。下層の土地を国から買い取ることに成功しました。そこに住まう貧民たちも全員強制労働力として受け入れることも決定しました』
『王の判断か?』
『いえ――――シグムンド伯爵の意向です。王国商会連合会との戦いの手切れ金だと考えられます』
『ふむ。いいだろう。下層の貧民の労働力は全て
『お任せくださいませ。以前お伝えした作戦を開始致します』
『わかった』
『ダ~クさま~ぁ~!』
『
『私も一つ報告がありますわ~!』
『聞かせてくれ』
『は~い♡ 王国商会連合会に雇われていた例の騎士団を覚えてますか?』
『ああ。
『はい!』
ナンバーズ商会が王都支店を出して、初めて襲撃された時に、盗賊に扮した者たち。
そのあと、
理由はわからないが、王国商会連合会に使われて多くの商会の荷物を奪い取ったようだ。
ナンバーズ商会にやられてからは、王国商会連合会に見捨てられている。
『現在、第六騎士団の全ての権威は奪われているんですけど、私から直接王国商会連合会の会長に買い取りに行こうかなと思ってるんです。どうでしょう~?』
『いいだろう。神風も同行していいぞ』
『は~い♡ ダークさま? 上手く行ったら、一日デートしてくださいね!』
「アダム~そういえば、リゼたんがナンバーズ商会で売ってる紅茶クッキーが欲しいって言ってたけど、ナンバーズ商会にお願いできないかな?」
「問題ないと思います」
「お願いしてもいい?」
「僕がですか?」
「うん! できれば、リゼたんに直接渡してほしいな~」
「わかりました」
何故だか姉はニヤニヤと笑みを浮かべて、俺を見つめた。
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