第53話 暗殺者、お花畑を見つける。
確証があるわけではないが、“昔からの勘”が不気味な何かを感じている。
王国の汚れ仕事を請け負う盗賊ギルド【ゾルディック】。中でも王都内で暗躍しているのは知っていたが、実際の仕事というのは、そう大きくなかった。
というのも、そもそも貴族が権力を持ち、貴族の力で揉み消してしまうため、わざわざ盗賊ギルドに依頼を出す必要がなかった。それこそ、手を下すまでもない汚れ仕事くらいなものだ。
それが先日のナンバーズ商会を襲った荒くれ者たちを制圧したことで、彼らも手が足りなくなってしまった。そのため、次に白羽の矢が立ったのが盗賊ギルドというわけだ。
今まで細々と力を広げていた盗賊ギルドがここに来て大きく力を広げた。それと同時に、エンギロウ一族の全滅。俺が手を下さずとも、あの一族は全滅していた。さらにもう一つ気になるのは、一族の長でもあったゲンロウが見つからないこと。そして最後のもう一つのピース。
全ての答えがここにあるかもしれないと思った。
一本道はゆっくりと下り坂になっていて、遠くから水が流れる音が聞こえ始めた。
王都からはだいぶ離れた場所まで続いているんだな。
ようやく最後の場所だと思われるところに辿り着いた。
広い場所の中央には泉のような水溜まりがあり、上部から水が落ちてきている。泉を囲うように黒い花が無数に咲いていた。
「こんなところに来るなとあれだけ言ったのに……ビルグマは部下の教育もまともにできないの!?」
呆れた口調でやれやれと頭を左右に揺らす女と、彼女を守るように立ち尽くす執事服の男性が一人。
「何か緊急の用か? …………いや、お前のような人は見たことがない。お前は誰だ」
「俺はダーク。お前たちこそ、こんなところで何をしている」
そう答えた瞬間、執事の体が揺らいで俺の真後ろに現れては、手刀で俺の首を狙って突き刺してきた。
彼らからより遠くに飛んで避ける。
「何だ。敵なのかよ~ビルグマも大したことないじゃんね。それにしても、こちらの扉にどうやって気付けたのかしら?」
「偽装術を見破れる者がいたのだろう。またはこいつが当人か」
「ふう~ん。どうする~? 手伝う~?」
「くだらない冗談を」
「はいはい。間違ってもブラックローズは傷つけないでよね」
男は不思議な構えをして俺を睨みつける。
ふと彼の後ろに見える机やベッドなどを見た。どうやら彼らはここで生活をしているようだ。さらに後ろに見えるのは、何かを研究しているような液体が入った瓶が小さい物から大きい物まで並んでいる。
こんなところで研究……? いったい何を……?
男が一気に距離を詰めてくる。当然のようにブラックローズから距離を取らせるためなのか、花畑に背を向けて攻撃を仕掛けてくる。
スピードが速いのもありが、手を伸ばすときに加速させることで、攻撃のモーション前後の緩急がうまれずいぶん速く感じる。
俺も前世では『暗殺拳』を奥の手にしているくらい体術には心得がある。彼が繰り出す体術は暗殺拳に通ずるものがあり、参考になる。
「ちっ……ここに着くだけのことはあるな」
クールな立ち振る舞いをしているが、ずいぶんとせっかちな性格をしているようだ。いや、後ろに花畑があるから余裕がないように見える。
俺は素早く魔法をブラックローズに向けて放つと、男は顔をしかめて魔法を蹴り飛ばす。それと同時に一瞬で俺の後ろに近付いてきた女が刀身が細い剣を振り下ろした。
ギリギリで避けて二人の前後からの猛攻を耐え凌ぐ。
「こいつ……思ったより強いじゃん!」
「不満をいうな。花全部燃やされるぞ」
「殺す」
女が何やら不思議な煙が出る小さな箱を手に取り、攻撃を仕掛けてきた。
攻撃とともに煙が洞窟内に充満していく。
次の瞬間、視界が霞む、体が鉛のように重くなった。
あの煙……なるほど。毒煙だったんだな。
「貴重なデススコーピオンの毒粉塵まで使わせるなんて、なんでこんなやつがここに来るんだよ」
「さあ。ゾルディックのやつらに聞けよ。それより、トドメを刺すぞ」
「放っておいても死ぬから問題ないと思うけど、念のためね」
二人が俺に近付く気配がする。
黒光魔法で全ての状態異常を回復して反撃に出る。
「「!?」」
油断していたからか、俺の拳を避けることができず、二人の腹部を叩き込んだ。
後方に大きく吹き飛んだ二人。
花畑に叩き付けられ、花を踏み潰した。
女が怒ると思ったら、そんな素振り一つ見せずに立ち上がり、攻撃の構えを解かない。
「そういえば、ギンから黒い仮面を被った冒険者に邪魔されたって言わなかったっけ?」
「こいつがそいつか。殺せなかったって悔しがってたしな」
「デリックから死体持って来いってうるさく言われてるから、持っていくよ」
「おう」
二人の身体からオーラが立ち上る。
異世界の戦いというのは、通常時を『ファーストステージ』とし、本人の能力による戦いである。前世と比べればスキルや魔法がある分、これだけでも凄まじい戦いになるが、もう一つ先に進んだ世界がある。
神が世界に設けた『
そもそも『セカンドステージ』は誰でも届くわけではない。レメ曰く、これは選ばれし者だけがたどり着ける領域だという。
長い間修練を重ねて、世界に真理に触れた者が開く悟り。世界に設けられた肉体の限界を越え、全ての法則を無視した強さを発揮することができる。
このままでは分が悪い。『ファーストステージ』で『セカンドステージ』を勝つことはどれだけ才能の差があっても、
だから、俺も本気を出そう。
俺の体から、全てを呑み尽くすかのような暗いオーラが立ち上った。
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