狂い夢見

あんちゅー

遠い所に

一本の線が引かれている。


どこまでも伸びた、まるで地平線や水平線みたいな線だ。


真っ直ぐであると思っていたが、それはどうやら微妙に揺らいでいた。


小さな小さな波が打つ。


それは小さく広く伝わっていく。


海の波は立てば次第に大きくなったが、その線の上では、歪なリズムで様々な小さな波が伝わっていく。


果てはなくどこまでも広がっていく。


小さな小さな波だけが、どこまでもどこまでも広がっていく。


終わりについて考えた。


その果てについて考えた。


どこまで続いていくのだろうかと、近くに寄って見ようとした。


けれどそれはどこまでも、遠くに見えているだけだった。


もう疲れたから歩きたくない。


私はその場で腰を下ろした。


膝を抱え、また線を眺めた。


何故だか波は消えていて、線はどこまでも続いていた。


いつまでもどこまでも、ただ一直線に伸びた線だ。


面白くない。


そう思った。


私は足元に転がる石を思い切り投げつけた。


勿論それは線には届かなかった。


多少の揺れだって産まなかった。


けれど、それは飲み込まれるように、音を立てず、ま白な地面に溶けていった。


次の頃には、壁や天井でも同じように、石が転がり溶けていった。


線はどこまでも広がっていく。


時折、波を立てて広がっていく。


小さな小さなその波は、どこまでも小さいままで広がっている。


溶けた石はどこへ行ったのだろう。


私の興味はそちらに移っていたから、その広がりの果てはやっぱり分からなかった。


線はいつも同じだと思った。


けれど石はどこかにいった。


私はもう一度もう一度と石を投げた。


今度は派手な飛沫を上げながら飛び散った。


石は簡単に飛沫になった。


辺りには、澱んだ白の破片が転がった。


私は面白くって次々投げた。


次から次に飛沫が上がり、それは1粒1粒の破片になって転がった。


線はいつまでも続いていた。


私は気が付いていないけど。


天井にも飛び散った破片が散らばって、壁にも同じように散らばった。


澱んでくすんで濁った白色の破片が一面に広がった。


私はなんだか急に怖くなった。


ま白な部屋にいたはずなのに、それは消えない模様になった。


気持ち悪くて、怖かった。


だから私は頭を抱え、倒れるように横になった。


地面に転がる破片が肌に食い込んで、凄く痛いと泣き始めた。


それを一つ一つ剥がそうと思って爪を立てたが、剥がれず爪がめくれてしまう。


私はまた痛くて、今度は声を上げた。


爪がポロポロ落ちていく。


床が別の色で染まっていった。


痛くて痛くてそれどころじゃないのに、部屋はどんどん染まっていく。


けれど、澱んでくすんで濁った白色よりも、とっても綺麗な色だった。


淡くて深くて薄くて濃くて甘い、綺麗な色。


とろっとしたものが滴った。


ぽちゃんと可愛い音が鳴った。


私は少しだけ嬉しくなって、手を思いっきり握りしめ、もっともっとと色を出した。


すっかり染まった部屋を見て、私はうっとり口に出した。


綺麗だなって。


線はいつの間にか消えていた。


波打つことも無くなって、どこか心が落ち着かない。


ぐるっと部屋を見回してみれば、急に目の前に線が浮かんだ。


なんだ、綺麗な色で見えなかっただけだったんだ。


瞬間、世界は傾きはじめた。


上は左に、下はそのまま。


線の上下で分かたれた。


私は途切れる夢の中。


線がプツンと切れた音が、いつまでもこびりついている。




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狂い夢見 あんちゅー @hisack

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