第2話 平民の生活体験!


「………こ、これが家ですの??」


 アンジェラがアルに連れていかれた場所は、まるで、王城の馬小屋………。

 いや、…大きさはそれよりも少し小さい建物だった。


「………はい。王女様には少し手狭いかと思いますが、我が家です。今は僕しか住んでいません。

………すみません、こんな汚い家で………。」



 アンジェラは愕然とした………。


 (家って………どういうことですの?てっきり、夏の別荘くらいのものを想像してましたわ…。)


 アンジェラが想像している夏の別荘とは、王族専用の高級な別荘のことである。当然ながら、平民がそんな家に住んでいるわけもなく…。


「………民は、みなこのようなところに住んでいますの?」


「………僕はまだマシな方なんです。王城での仕事があるので。………家がない人だっていることを考えれば、僕は恵まれている方です。」


(………い、…家がない人??そんな………そんなことってありますの……???!)


 アンジェラはここで初めて、平民の暮らしというものについて知ったのだった。16歳にもなるというのに、どうしようもないほどの無知具合である。


 冷たい風が吹いてきたので、アルがアンジェラに家に入るようにと促した。


 家の中を見て、アンジェラがさらに驚愕したのは言うまでもないだろう。


 アンジェラは、平民として生きていくことに不安しかなかった。



 ――――――――――――――――


「夕食、これだけですの?」


「豆のスープと黒パンだけど、少なかったですか…?

あ、…そういえば、かぼちゃの種を干してたんだった…。」


(かぼちゃ……の種???)


「干したら、とっても美味しいんだ。一つどうですか?」


 アルの口調もだんだんと砕けたものになってきた。しかし、アンジェラの方はそれどころではない。


(わたくし、こんなにも最小限の食事………初めてですわ………いつも好きなものを少しずつ取って、あとは要らないとメイドに言っていましたのに………。)


「口に合うといいんだけど………。」


スープに、王城のシチューのような彩りはない。

恐る恐るアンジェラはスープを一口飲んでみた。


「………お、…美味しいわ。あっさりしていて、けど、豆の食感も豊富で………。こんなの、初めてよ。」


「良かった〜!僕が作ったんですよ。王女様のために、張り切って作ったんです。」


 普段なら、『もっと高級なものを用意しなさい!』と言ってしまうアンジェラだが、目の前のアルの笑顔を見ていると、何も言えなかった。


 それどころか、自分のために張り切ったというアルの言葉がむず痒かった。



 「………あ、ありがと………。わ、悪くないわ。」


 アルは目の前でニコニコするばかりだった。



 そして夜も更け、そろそろ寝る時間が近づいてきた。

 お風呂が大好きなアンジェラだったが、平民はお風呂なんていう贅沢なものに毎日入ったりしないそうだ。

 明日、町中の銭湯に行くとアルが言っていたので、それまでは我慢しなければならない。


 それもアンジェラにとっては大問題なのだが、何より、目下の問題は……。


(この家………ベッドが一つしかありませんわ……。どう、どうしましょう…!!!)


 結婚した…といっても、実質今日知り合ったようなもの。それに、王女としての彼女のプライドが、平民と一緒に寝るということが許せなかった。


「………あ、…………アル、これはどうしたら??ベッドって一つしかありませんわよね?

まさか、その…………ありえませんよね??」



「………??」

 

その後、アルがにこやかに笑って言った言葉のせいで、アンジェラの悲鳴が、その家に響き渡った。


 


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