王宮にて(後)


「お前を虐げた者たちだが…全員処刑となるだろう。」


「……。え?」








お父様の衝撃的な一言に一瞬頭が真っ白になりました。



…そうですよね。そうでした。


厳しい身分社会!



…つい、侯爵家がなくなったという事で終わりだと思ってしまいました。


驚く私をよそにお父様は話を進めます。




「一応、お前の希望を聞こうと思い、まだ処分は待っている状態だが…何かあるか?


…もし、ゆっくり考えたいようならば、それまで生かしておくが…」



…あの、その希望っていうのは殺し方の希望って事であっているのでしょうか…?




ふと周りを見渡すと、皆さん同じような氷点下の微笑みを浮かべています。(あの優しいお母様まで)


微笑む瞳の奥にゆらりと炎が見えそうです。


貴族の怖さを忘れておりました。


そんな事を思う私は、やはり箱入り娘なのですね…。



…私の侯爵家への怒りの熱はお父様の言葉に一瞬でクールダウンしましたが、皆様の炎は鎮火しそうにありません。






「あの…お父様。


屋敷に居た者達全て処刑なさるのですか?」


「…いや。」




良かったです。流石に粗末なご飯が原因で処刑はちょっと…



「屋敷に勤める者の家族親族含めて、関係者すべての者を処刑する。」




わぁ。もっと酷い。




「今回の事は我が伯爵家だけの問題では無く、お前の母の血筋である王族をも侮辱した行為だ。


王族への不敬は高位貴族でも場合によっては極刑に処される事がある。


いくらお前が直系ではないとしても、今回は一度きりではなく2年越しで続く不敬だ。



そして、一応お前は(無いも同然の)王位継承権を持っている。




期間と内容、そして、王含め他の王族も大切にしていた存在だという事を踏まえるとこれは王族の意志に反した行為だ。


王、及び王家の血筋に対する悪質な犯罪は第一級国家犯罪に当たる。


高位貴族でも内容によっては一族郎党の処刑案件であるのだから、下級貴族や平民などは一族郎党まで処刑となるのは当然の事だ。」








…重い。






…罪に対する罰が重すぎます。(ここでは通常です)







お父様…。


貴族として学んで参りましたが、みんなな甘やかされた私と前世の私には、ここら辺の知識が薄かったようです。




……





…正直、覚悟が足りませんでした。


私には無関係の人々まで死に導いてのほほんと出来る神経を持ち合わせていませんでした。


52歳でも無理です。







…そして、苦肉の策を思い着いたのです。




「…お父様、私にその人達、…いただく事は出来ないですか?」


「…?」


お父様も周りの皆様もキョトンとしています。



「どういう事だ?自分の手で殺したいのか?」


(どこのサイコパスですか⁉︎)



「私、本を読みまして、



…道を作りたいのです!!」



「???」



みんな2度目のキョトンです。(笑)



そうですよね。わかります。



こんな時にこんなバカっぽい発言、いきなり何言ってるんだコイツ、空気読めよマヌケめ!って思ってますよね。(私なら思います)




私は、侯爵家にて呑気に不遇を楽しみつつお父様の手紙の返事を待つ間に沢山本を読みました。



その中に領地経営関係の本が混ざっていたのです。



老後を過ごす自分の領地に思いを馳せておりました所、ふと思ったのです。


お父様やお母様に会いに行きやすいように道だけは整備しておきたいな…と。(本の内容関係なし)


ほら、『なんとかの道は何とかに通じる』って言葉もありましたし。


…きっと道って大事なんだと思います。(適当)



しかし、調べてみると道の整備には結構な額のお金がかかります。


ただの私の思い付きにこんな金額を使うことは出来ません。(領地経営はお任せしているので)




…1番必要なのは人員。


基本的に現場は過酷で大変な作業なので、人が集まりにくいのです。


お給金を上げてしまうと経費が嵩みます。



タダで使える人員(ひどい)という形で引き受けたいです。


勿論、ある程度の知識ある方や管理する方なども必要ですしお金もある程度必要なのも知っていますが、それは要相談です。(知識不足なので)



お屋敷で働いていた方々はともかく、その親族の人達の中にはきっと掘り出し者の人材もいるのではないでしょうか。



…良い人材は宝です。



勿論、罪人を外に出す事なんて考えられない事はわかっております。


しかし、被害者であるわたしの為に働くという形でならギリギリダメでしょうか。


虐げた者を虐げる為に引き取る、世間にはそう思って頂けないですかね。


処刑にしても、私には何もプラスは無いのですから(むしろ精神的に負担でマイナス)死んで詫びるよりも生きて償って(タダで働いて)欲しいです。






こういった私の気持ちをお父様達になんとか説明したところ


「働かせるなら鉱山か開拓地の方が(死期が早まって)良いのではないか?」



と言われましたが、使い捨てる為に受け入れるわけではありません。




…それに、最低限の衣食住は用意する予定ですが、この事件の当事者達はきっとさらにひどい環境となるでしょう。


何故なら…犯罪者の烙印を押され、慣れない重労働と環境の上 無関係なのに道連れにされた親族関係者一同と一緒に働くのですから。





そして、作るべき道も沢山あります。(領地内出来る限り作りたい)




私の説得に、皆難しい顔をして黙り込みます。



「…っ。…あなたって子は…(なんて優しい子なの!)」



母はまた泣き出しました。


決して優しいわけではありません。


ただ、甘ったれているだけです。


 

ひとまず、この場では即決出来るような事柄ではないのと、それでは罰則が軽すぎるのではないかとのご意見もありこの場では保留扱いとなりました。


しかし、被害者本人の希望はなるべく考慮されるだろうとの言葉を頂けたので私が出来るのはここまでかなと思います。










なんと話し合いの翌日、さっそく国王陛下に謁見させて頂く事となりました。(王妃様もいるよ)



謁見という事は正式な形での挨拶となります。


きっと話し合いの内容が正式に決定したのでしょう。







謁見の間にて国王陛下は私に優しい目を向けます。


「今回の件、辛い思いをしたな…。


あんな侯爵をそのままにしていた私にも責任はあろう。


詫びに何か望みをひとつだけ聞く。


遠慮なく言うがよい。」




伯父様、本当に心の底から申し訳ないです。


こんなくだらない事件を自分の責任だなんて…叔父様の懐の大きさは計り知れません。


だからこそ余計こんな形となり申し訳ないです。


通常、国王陛下が詫びるような事はまずあり得ません。(特にこんな事件なんかで)


そんなことを、私なんかの為にさらりとやってのける伯父様は本当にすごいです。


今後足を向けて寝られません。


…これは、こういった(自分の非に対するお詫びの)形で例外的に私の希望を叶えようとしてくれているのでしょう。


私の甘ったれた我儘にお付き合いくださりありがとうございます。





「身に余るお言葉を頂き、感謝申し上げます。


恐れ多くも、もし叶うのならば、罪人達を我が領地の働き手として頂きたく存じます。」



伯父様が優しい眼差しで私を見つめます。




「了解した。…そなたの望み、出来る限り(あくまで出来る限り)叶える事を約束しよう。


元々、消える筈の命、好きに使え…。



細かい部分の取り決め等はまた後日改めて通達する。」



「感謝いたします…。」



伯父様は私と目線を合わせて頷きます。



私は感謝の気持ちが伝わるように、国王陛下にできる限り深いカーテシーを贈りました。




こうして、形式的な謁見も無事完了し、わたしは多くの人員を無事確保する事が出来たのです。(人員、人命ゲットです)



…しかし、さすがに第一級国家犯罪ですので、侯爵家当主様は今回の責任を取る形で残念な事となりました。


こればかりは、高位貴族としての責任な為、私に口を挟む事はできません。



そして、侯爵家一族の方々には大変申し訳ない事に、貴族的なアレコレの為、何やら処刑される方とお父様達が引き取る方と分けらる形で今回の処分が決定いたしました。(この辺りに関しては私には教えて頂けませんでした)



今回の事はとても大きな事件でありながら、前代未聞の事柄ゆえ、貴族達に大々的な発表はせずに詳しい事は書面にてお知らせを行うそうです。(つまり事後報告で済ますって事ですね。)




…着いたばかりの時は元気いっぱいピカピカだったのに僅か1日でグッタリとすっかり疲れ果ててしまいました。(自業自得)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る