伯爵家当主

娘の詳しい状況を確認し、愕然とした。



急ぎ手配した現状報告は王宮で王族の者と共に聞く事となったが、その報告に誰も言葉を発する事が出来なかった。



今まで報告として上辺だけをさらりと聞いていた情報。(詳しく聞くのがイヤでさらりと上辺だけだった)


よく報告に挙がっていた侯爵家の嫡男と仲睦まじく過ごしている娘。


そもそもそれが私の娘の事では無かったのだ。



侯爵家の嫡男が近くの町でよく2人仲良く買い物や食事をしている事は聞いていた。


いつも仲良く手を繋ぎ、仲睦まじい様子で過ごしている事も聞いていた。



そう、私は聞いていたのに…。




娘の様子を知っていると思っていたのだ。




何故そのままその話を鵜呑みにしてしまったのか…。(詳しく聞きたい話ではなかったから)




こんな状況に気付く事が出来なかったとは心底情けない…




まさか、我が娘を差し置いて他の女性とそんなに堂々と過ごすとは全く予想もしていなかった。


きっとそれは一緒に報告を受けた者達も同じ気持ちだったのだろう、皆驚愕の表情を浮かべている。



なぜこれに気が付けなかったのか。




…そして、なぜ侯爵家はこれを許容していたのか。


まさか、何か我々にも気付かせぬような陰謀でもあるのかと構えていたが、更なる報告を聞き泣きたくなった。






…まさか、侯爵家がこれほど無能であったとは…。



聞けば聞くほど酷い。


常識では計り知れない報告の数々に報告者さえも無となっている。


どこから指摘し、どこから咎めたら良いのかこれほど悩む事態など今までにはなかった。


元々、どんなに優秀な侯爵家(あくまで仮の話)でもどんなに止められようとも潰してやるつもりだったのだか、…これは寧ろ潰す事を推奨される案件だ。




侯爵夫妻は、ほどほどに身の程を弁えている普通の無能だと思っていた。


だから、こちらの掌で転がしておくつもりであった。


周りさえ固めておけば、飾りとしては問題ないと思っていたのだ。


しかし、自覚の無い無能は時に常人が思い付かない無能っぷりを発揮する。




娘の相手として調べた時、侯爵家には、それなりに優秀な補佐官が務めていた。領地や家内の事もその補佐官の采配により下の者達に指示を出し可もなく不可もなく回っていた。


しかし侯爵家当主の無能っぷりはそれなりに優秀な補佐官である彼の容量を超えていたようだ。


そして不運にもその容量が超えたきっかけが娘達の結婚であったのだ。


我が伯爵家との縁により降って湧いた上手い話に補佐官の確認なく次々とサインをしている。


今はまだ気付いていないがほぼ詐欺であろう。


補佐官の気づかぬ内に私の融通していたお金が湯水のように消えている。




…夫人は夫人で真っ昼間に平民の花屋の襲撃を依頼したという噂が静かに広がっている。


どうも依頼料をケチったか何かで依頼先を怒らせたらしい。(せめて上手くやってくれ)


しかも肝心な部分を失敗している…。(なぜ娘が残ってるのだ!)




嫡男も特筆すべき点はなかったが、多少驕った部分はあるものの今まで問題を起こした事もなく、それなりの顔と侯爵家という家格しか特徴のない若者だと思っていた。


女性遍歴もキレイなもので、侯爵家嫡男という肩書きを持ちながら、女っ気のなさに多少驚いた記憶もある。


だからこそ信用してしまった。



それこそが落とし穴であったのに。


女性との経験の薄さが、恋に幻想を抱きあのような娘に引っかかり恋に踊らされ周りを見えなくさせた一因でもあるだろう。



どこにでもいそうな若者。


貴族の常識ぐらいは弁えた普通の貴族らしい若者だと思っていたのだ。



娘には不釣り合いだが、都合の良い存在にはなりそうだった。


娘が幸せに過ごせるのならば、あとは自分達がすべてどうにかすれば良いと思っていた。


いや、どうにか出来ると驕っていた。




…侯爵家においての今までの評価はすべて大きな間違いであったのだ。




私は自分を過信し過ぎた。



彼らは私の手にも余る無能達だ。





…残す価値などない。









「私に迎えに行かせて頂けませんか?」


第二王子の言葉に皆の視線が集まる。



切実な目で訴えてくる彼に目をやり、思わず少し後ろめたい気持ちが浮かび彼から視線を逸らす。


第二王子である彼は昔から娘に好意を寄せていたのだ。


しかし、私は彼が気に入らなかった。


なんでも簡単にこなし、見た目も頭も良く…何より妻からも可愛がられ娘にも懐かれていた。


我が家に来ると私よりも優先され2人を取られた気持ちになるのが許せなかった。(王族なので当たり前の対応)



無論、婿として最優良物件なのは理解していたのだが、彼は優秀すぎる。


王太子の補佐役として外交を務める予定の彼と結婚すれば、一緒に国外へと行く事が多くなる。



出来れば娘には、いつまでも私達の手の届く所にいていて欲しかった。(物理的に)



そういった葛藤の中、悪足掻きのつもりだった。



彼の事を娘には『兄のような存在』だと刷り込んでみた。


素直な娘はその言葉をそのまま受け取り彼を男として認識しなくなった。


更に私は彼との接触も出来る限り避けるように画策した。


それでも、本気ならば娘を奪ってみよと思っていたのだ。



勿論、彼は受けて立ち…私達は水面下での攻防を娘の知らぬ部分で繰り広げていた。







…結果、その間に娘は侯爵家嫡男という不良債権に引っかかってしまったのだ。



そして、私もこれで娘が幸せなまま手の中に置いておけると勘違いしてしまった。



後悔しても後悔し足りない。





…まだ、彼の方がマシだった。






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