七人の勇者たち
板倉恭司
プロローグ
その夜は、妖しいくらいに綺麗な月が出ていた。
神さまの気まぐれか、あるいは悪魔のいたずらだったのか。満月は、眩しいくらいに煌々と輝いている──
満月の光に照らされた、とある場所。
そこは、草木がほとんど生えていない荒れ果てた大地だ。地面は剥き出しの土と岩に覆われており、見ているだけで気が滅入ってきそうな風景である。
そんな土地に、ふたりの男がいた。
片方は、小柄な老人である。髪は真っ白で、顔は皺だらけだ。マントに包まれた体は痩せこけており、手足は棒のように細い。ただし、その瞳からは凄まじい意思が感じられる。
もう片方の男は、完全に真逆のタイプだった。身長は熊ほどあり、逞しい体つきだ。胸板は分厚く、二の腕は丸太のように太い。肌は白く、髪は金色だ。服は着ておらず、全裸で土の上に横たわっていた。目は閉じており、死んでいるかのように見える。
老人はしゃがみ込み、何やらブツブツと呪文らしきものを唱えている。その燃えるような瞳は、横たわる大男を見下ろしていた。
やがて、老人は両手を挙げる。同時に、口から叫び声を発した。
その時、一瞬のうちに天候が変わった。静かだった空が、突如として唸りだす。どうやら、雷の音らしい。
直後、夜空に稲妻が走る。雷は、大男を直撃した。しかも、一度だけではない。稲妻が闇を裂き、何度も大男の体へと落ちる──
どのくらいの時間が経ったのだろう。
横たわっていた大男が、むっくりと起き上がった。落雷の直撃を何度も受けたにもかかわらず、その体にダメージはないらしい。何事もなかったかのように立ち上がり、体をゆっくりと動かしていく。首、肩、腕、足……最初はぎこちなく壊れた人形のようだったが、徐々に本来の動きを取り戻していく。
やがて周囲を見回すと、大股で歩き始めた。早足で荒野を抜け、森の中へと入っていく。枝が当たるのも構わず、どんどん大きく歩いていった。
しばらく歩くと、前方に光が見えてきた。同時に、人の声も聞こえてくる。数人の男たちが、輪になって座り込んでいるのだ。中心にある焚き火を囲み、何やら話をしている。全員、いかにも訳ありな雰囲気だ。剣や斧といった武器を携えており、体つきも逞しい。いかにも、戦いを重ねてきた古強者という雰囲気を漂わせている面々だ。
そう、この男たちは山賊である。旅人や行商人、時には村ひとつを襲撃して、金や食料を奪う。男は殺すか奴隷商人に売り、女は犯すか奴隷商人に売る。それが、彼らの日常である。
そんな彼らであるが、いきなり闖入してきた全裸の大男には大いに戸惑っていた。
「おい、何なんだあいつは?」
ひとりが言うと、もうひとりがクスクス笑った。
「たぶん、ここがイカれてんだろうぜ」
言いながら、自らの頭を指差す。
しかし大男は、彼らの反応にはお構いなしだった。ずかずか歩いてきたかと思うと、山賊たちの数メートル手前で立ち止まった。
すると、山賊たちは立ち上がった。各々の武器を手に、大男を睨みつける。
「女ならともかく、男の裸なんか見たくねえんだよ。さっさと消えろ。でねえと殺すよ」
ひとりの男が、低い声で凄んだ。直後、斧を手に近づいていく。目の前にいる大男は、筋骨隆々で逞しい。素手の戦いなら手強いだろう。だが、こちらには武器がある。数も多いし、戦いにも慣れている。負けるはずがない……山賊たちは、そう思っていた。
しかし、その考えには大きな間違いがあった。
大男は、斧を持った男に視線を移す。直後、その手を振るった──
一瞬遅れて、男が吹っ飛ばされる。軽々と飛んでいき、山賊たちのそばに落ちた。同時に、グチャリという嫌な音をたてる。その顔は、拳の形に綺麗に陥没している。
山賊たちは、呆然となっていた。今、目の前で何が起きたのか把握できていないのだ。仲間が、たった一撃で吹っ飛ばされ、死体と化した。
しかし、混乱していたのは一瞬であった。山賊のリーダー格は、いち早く指示を降す。
「野郎! ぶっ殺せ!」
その声に、山賊たちは我に返った。直後、一斉に襲いかかる。
大男は、表情ひとつ変えずその場に突っ立っていた。逃げる素振りはなく、すっと両拳をあげる。
一方的な殺戮であった。
大男が拳を振るうと、飛びかかっていった山賊たちが次々と吹き飛ばされていく。その様は、荒れ狂う竜巻のようである。立ち向かっていった山賊たちは、虫けらのように一瞬で叩き潰されていった。両者の戦力には、大人と子供、いや虫けらと人間ほどの差があっただろう。
殺戮は、すぐに終わった。
ついさっきまでベラベラと喋っていた山賊たちは、今では全員が死体となっている。皆、たった一撃で殺されていた。血はほとんど流れていない。周囲には獣が来ていた。死体の匂いを嗅ぎつけ、おこぼれにあずかろうというつもりのようだ。
大男の方は、そんなものに構わずしゃがみ込んだ。倒れている山賊の持ち物をチェックし、着られそうな衣服を引き剥がして身につけていく。
やがて大男は立ち上がった。その口から、低い声がもれる。
「運命の
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