フェノメナキネシス

みもり

第1話 遙かなる想い

563年3月


 一人の女性が天を見上げていた。地面が揺れ風がざわめく光を放ち炎が舞い上がる。雷雨が激しさを増し民は祈りを捧げる。


「どうか・・我々に力を・・伊織姫王いおりひめのおおきみよ」

「あのお方がいればこの自然の災害は止められる・・そうよな?らい

「・・確かにあのお方は自然を操れるお方ですがこのまま力を使い続ければ伊織姫王は消滅してしまいます」

「しかし、このままではこの国は滅びるぞよ」

「妾は大丈夫だ心配しなくともよい」


 神々しいエネルギーを纏い現れたのは伊織姫王。民の群衆から騒めきが起きる


「伊織姫王様、いけませぬ。今、力を使えばあなたが消滅してしまいます」


 頼が止めに入る。だが、伊織姫王はその手を包みこう伝える。


「頼よ、妾の力不足ですまぬ。この力さえ抑える事が困難なのだ。それは壮大な力な上の事」

「伊織姫王・・何をするのです!」


 頼の言葉に伊織姫王は微笑む。天に伸ばす手やがてそこから放たれ光が伊織姫王を包む。


「頼よ・・よく聞いておくれ。この力はまもなく途切れる事になる。いづれ遙か遠い時代に囲まれるであろう」

「おやめください!姫」

「力はそれぞれに分散されまた希望となる」


 伊織姫王が頼の頬に手を添える。そして、彼を包み込むように抱きしめ


「そなたとはもっと分かち合える存在でありたかったぞ・・頼、また会おう」


 その言葉に頼の目から溢れる涙、伊織姫王は優しく微笑んで


「その涙はやがて地に潤いを与える」


 拭った涙に触れそこから落ちるていく雫が地面に染み渡る。地から這い出る命のエネルギー


〝我が与える力はここまでか・・〟


 伊織姫王は青く広がる空を見上げた。その目に映るものは何を与えるものか・・そしてそのエネルギーが放たれ姫は消滅していく


〝その未来のお前に託そう〟


「姫ーーーーー!!!!」


 やがて、姫が亡き後自然は力強く生命が再び宿る。解き放たれた力はどこかに眠る・・遙か時代を目指して・・



2023年3月


 ・・つむぎ・・紬


「誰?・・」


 この世界は紬にとって、どういう世界なのだろうか?

それは、とても残酷な世界なのかもしれない。

特殊な能力が備わったと感じ始めた紬


 少女の名前は安藤紬あんどうつむぎ


 肩までの長さ少し茶色かかった髪、透き通る肌、最近は母親に似てきたと祖母に言われるようになり美しく育った。


 15歳になった冬、ある不思議な現象が起きていてた。


 それは喉が渇いた為飲み物をグラスに注いだ時だ。紬は少し違和感を覚えた。その感覚は今始まった事ではなかった。


 グラスを手に持った瞬間、中に入ってた飲み物が一瞬で消えた。蒸発するという形だ。


「まただ・・」


 何度かそういう現象が起きたということ。何故そのような事が起きたのかもわからない。紬は祖母にも相談出来なかった。それまでも偶然なのだと思い意識はしなかった。今思えばそうしないように言い聞かせてたのかもしれない。


 だが、少しずつ可能になるようにした。紬は意識を集中してもう一度飲み物を注いだグラスを手に持った。今度は何も起きない。飲み物はグラスに入ったままだ。少し安堵した。


 しかし、コントロールをしなければ先程の現象が起きてしまう。意識をしないでもグラスを持てるようにしないと今後の生活に支障が出る


 今年の春は祖母の家から離れて合格し、一人暮らしも決まっている。そこは学生マンションのようなところで管理もしっかりしている。


 紬には両親がいない。幼い時に母親が亡くなり、父親の顔は見た事がない。変わりに祖母に育てられた。厳しくも優しく見守ってくれた祖母の為自立して恩返しがしたいと思った。勉強も頑張り、学年トップになってこの学校に入学をする事になった。


 雲一つない空が広がっている。一人の少女が遠くを見ていた。天気予報では快晴だと言っていたが・・


「今日もいい天気だよね・・もうすぐ、桜も咲くんだ」


 空を眺めてこう呟く。自分の部屋の窓から覗く青い空が広がる。


「雨なんて降らないよね・・ううん、降らしてみる・・」


———ドゥーン


———ザーザザー


 雨が降り出した。紬はため息をついた。自分の手を見つめ、やっぱりそうなのか・・と呟く


———この能力ちからは何なのか?———


✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎


〝次のニュースです・・昨夜未明・・〟


「また、未成年者が行方不明・・この地に何か起きている」


 テレビで流れるニュースを黙って見ている青年。その背中を眺め話しかけるもう一人の青年


「明日・・こちらに現れるかもしれないぞ」

「そうか・・いよいよだね」


2023年4月


 桜の花びらがひらひらと舞う。優しい風が彼女の美しい黒髪を揺らす。新しい制服をまとい校門をくぐる。周りでは友達同士談笑しながら校舎に向かっている。


 紬は一人でゆっくりと歩いている。彼女が住んでいた場所は遠いところ。祖母の家から離れこの学校に通う事になる。


〝おはよう!〟

〝おはようー〟


 靴箱で上靴に履き替え周りが挨拶している。入学してから2週間。自分の教室に入ると少しずつだが、周りは仲良くなっていくのがわかる。


 紬は自ら話しかけるタイプではない。友達がいないわけではないが、親しくなるのには少し時間がかかる。自分の席に着き、次の授業の準備をする。


———トントン


 後ろを振り返ると嬉しそうに笑っている女の子がいた。


「安藤紬ちゃんだよね?」

「えっと・・」

美玲みれい・・宇野・・宇野美玲うのみれいだよ」


 彼女はとても可愛らしい子だ。屈託のない笑顔をみて紬は少しホッとする。


「本当、会えなかったらどうしようかと思ちゃったよ」

「え?」


 美玲はそういうと何かを取り出す


「はい!これ」


 紬に渡された物は


「消しゴム?」

「そう!覚えてないか?」


 美玲は長い髪を二つくくりにして微笑む


「あ・・あの時の」

「そっ!消しゴム忘れちゃって、もうダメだって思ってたら消しゴム貸してくれたよね。二つ持ってるからって。まあ、最終的には渡しそびれてしまって」


 紬にありがとうが言えなかったともし、この学校で再会出来たらお礼を言わなきゃって思ったと嬉しそうに話をする。


「あの時はありがとう。そして、また会えて嬉しいよ」


 一人で遠い所から来た紬にとって美玲の言葉は不安を消し去る魔法の言葉のようだ。緊張であまり、笑わなかったが紬は笑みを浮かべる。


「わあ、笑うと可愛いね。あ、これからもよろしくね。紬」


 差し出された手、紬もその手に触れる。紬に新しい友達が出来た瞬間だった。


 紬と美玲は仲良く屋上で昼食を取る事にする。二人で階段を上がり扉を開けると


「あ・・」

「どうしたの?」


 美玲が向こう側を見ているので紬は後ろから覗き込む。


「・・誰かいるね」


 その人物もまた、こちらの方を見る。スラリとしてショートヘアの女の子。


「確かあの子って同じクラスの子だよね?」


 美玲が誰だったか?と考えている。紬は少し違和感を感じる。


「あ、思い出した!佐渡さわたりマリア」


 その異様なエネルギーに戸惑ってしまう紬


「紬、どうしたの?」

「紬?」


———ドクンッ


「・・・ぁ」


 マリアがこちらに近づいてく。紬の中で危険を感じている。


「おっと!」

「え!?」


 それは突然、紬と佐渡マリアの間からひょこっと顔を出す一人の男子生徒。少し警戒するマリアだがお構いなしの男の子。紬に向かってこう話す。


「君達って新入生だよね?」

「え?あ・・はい」


 この人は先輩なんだろうか?紬は不思議に思う。何故ならその人はとても可愛らしく少し女の子っぽくみえる。身長も小柄だ。


 大きな目でこちら見てニコニコしている。そのやり取りを怪訝そうに見るマリア。


「いい加減にしろよ。郁夢いくむ


 また、もう一人男子生徒がやってきた。今度はとても身長が高く180cmはあるだろうか?また、違うタイプのイケメンが紬達の前に現る。


「おおー!泰元たいげん


 小柄な人は大きく手を振る。こちらの男の子は恥ずかしそうにしている。


「やめろよ・・恥ずかしい」


 そんなやり取りをしている間、マリアはいなくなっていた。


「あれ?佐渡さんは?」


 紬がマリアを探しているのを見ている泰元


「今はまだだな・・」


小柄な人、郁夢がボソッと伝える。


「どうするんだ?郁夢」

「まだ、動かないよ。彼女は特別だからね」


 意味深な言葉を言って微笑む


「じゃあね!紬ちゃん」


 郁夢と泰元が去っていく


「何?何?紬の知り合いなの?」

「ううん、知らないよ。でも、何で私の名前を知ってるのだろう?」


 紬は不思議な感じがした。何故だろう・・

懐かしい感じだ。


 帰り際のHRで担任の先生がこう話す。


「いいか?最近、物騒な事件が起きている。下校の時は必ず気をつけて帰るんだぞ」


 全国で女子高生が次々と行方不明になる事件が続いていた。共通点もなく不可解な出来事でみんな少し怖がっている。


「親御さんが迎えに来てる子も多いよね」


 美玲と一緒に階段を下りながらそう話す


「美玲は大丈夫なの?」

「私はすぐそこだから問題ないよー」


 高校の先に小さな商店街がある。しかし、ここはとても活気ついていて賑やかであった。


「あたし、あそこの店の娘なの」


 美玲のお店はパン屋さん。目の前に見える。


「紬は電車だよね?大丈夫?一緒に行こうか?」

「ううん、ありがとう。駅から降りてすぐだしそれまでは学校の人が何人かいるから大丈夫だよ」

「それならいいけど・・でも最寄り駅まで一緒に行く!」

 

 美玲の優しさと明るさに紬も安心する。友達が出来るか不安だったけど彼女のおかげで楽しくなりそうだと紬は思った。


 楽しく帰っていく後ろ姿を3階の窓から見ているマリア。その周りのエネルギーは黒く染まっていく。


 最寄り駅まで美玲が送ってくれて紬は電車に乗り自分の家に帰る。先生が言ってた事が不安だが今日は大丈夫だと思っていた。駅を出て自宅に向かい歩いてると前から女子高生が歩いてきた。何気ない風景だが紬がまた違和感を感じる。佐渡さんの時とは違う違和感。段々と近づいてくる・・


「こっちの方が・・」

 

 周りの雰囲気が・・ハッと気づく紬。いや・・紬が感じとる


———風が変化した


 その瞬間、紬の周りが響めく。


「お願い・・助けて」

「・・っ!?」


 女子高生が紬に助けを求める。その背後に渦巻く黒い影空間が広がる。


「いやーーー!!助けてーー!!」


 何が起きてるというのか、目の前で助けを求める女子高生。


「これって・・行方不明とかの事件?」


 

 女子高生の体が浮き謎の空間に吸い込まれそうになる。


「きゃあーーー!!」


 紬は彼女の手を掴む。しかし、その力は絶大で紬の力で


「何!!これ!?」


物凄い力に吸い込まれそうになる。自分の力ではやられてしまい、次第に吸い込む力が強くなっていく。


「ダメ!行かせない!!」


 腕の力が弱くなっていく。何か遮るもの・・壁のような硬い物があれば


———ザーザザーザー


「え?」


 何か紬の頭の中に残像入ってくる。目の前に放たれた何万本の矢をある女性を襲うとしている。彼女の服装は貫頭衣を纏い位は高いであろうか。その堂々とした出立ちは明らかに気品で高貴なもの。そのエネルギーが凄まじい。


 彼女の手から黄金の光が放たれ大地から動きだした壁が矢を防ぐ


 その映像を捉えた瞬間紬は・・


「Mercenaries of the earth」


———ゴゴーゴーゴー


 大地が揺れ出し紬の前に現れたのは光輝く壁

地を這うように一面に紬達を囲む。


「へぇ・・アースキネシス」


遠くから眺めている一人の少年。その壁が防ぎ女子高生を救う。だが・・


「・・逃げて!早く!」


 紬が女子高生に促す。女子高生は走り出す。あちら側に走れば大丈夫だと確信する紬。


「なっ!?」


———パキンッ


 しかし、防いだ壁は破壊され再び紬を襲う。渦の中から藁の人形が出てきた。奇妙な動き


〝ギシャガシャ〟


 音を立てながらこちらに向かってくる。何とも不気味悪い。


「逃げなきゃ・・」


 それでもここにいてはいけない。そう思った紬は女子高生と反対方向に走ら出す。


「お願い!」


 紬の方に来てくれればあの子は助かる。必死だった。息を切らしながら全力で走る。どれくらい走っただろうか。少し小高い丘までやってきたここまできたらあの子大丈夫だと紬は安堵するがつかの間・・


〝ギシャガシャ〟


 藁人形が襲ってくる。紬は後退りするが後ろは急な斜面になっている。


「このままじゃダメだ」


〝ギシャガシャ〟


 目を瞑る紬、しばらくしても音がしない。ゆっくりと目を開けると目の前には・・


〝ガルルル〟


 身動きが取れない藁人形。


「黒のライオン・・」


 その出立ちは普段見るライオンではなく、黒色の毛をしたライオンだった。黒のライオンは紬を見る。その眼光は鋭く冷たい。だが、黒のライオン前を向き藁人形に向かって攻撃をする。藁人形はそのまま塵となり空を舞う。


「何・・何なの?」


 そして、再び黒のライオンがこちらへ向かってくる。震える紬、身体が動かない。黄金の目が鋭く睨みつけながらゆっくり紬に近づいてくる。紬は心の中で叫ぶ


〝助けて・・〟


「おっと、彼女に手を出したら許さないよ」


 紬は驚き、黒のライオンはこの男を見ている。この人は確かお昼にいた人だと紬は思う。


「大丈夫だよ。紬ちゃん」


 そう言うと彼は両手を合わせ


「確かここにいたよね」


 地面に押し当て、その地からの残像を捉えるそのエネルギーが青い炎になって彼の周辺を包見込む。


「あ・・」


 彼の姿が黒のライオンに見えた。向こうの黒のライオンは声をあげ唸る。そして、互いがぶつかり合い、その激しさが衝撃波となり紬を襲う。


「嘘でしょ!?」


 避けるすべもなく、風圧で周りの木々が吹っ飛んでいく。あまりの衝撃に自分を守る事しか出来なくなっていた。



「きゃあああ」


———ガシャッーン!!


「無茶苦茶だな!郁夢!!」


 紬の前に立っているのは同じく昼休みに屋上にいたもう一人の男の子


 先程の衝撃波を防いでいる。紬はその背中を見ている。男の子は見えない何かで壁で紬を守っている。


「もっと、力を抑えろよ!郁夢」


 郁夢という男の子は聞いているのかいないのか黒のライオンに夢中だ。


 防いだとはいえ、あまりにも大きい力に抑えきれない。


「ちっ!?あのバカが!!」


 もう一人の男の子の前に大きな石があり、その石は浮かび上がる。そして、その石は小さく砕け散り黒のライオンに向かって飛んでいく。


「わっ!?泰元!!危なっ!!」


 黒のライオンは危険を感じたのか後ろに下がり足早に去っていく。


「泰元!危ないだろ!?俺にも当たるところだったぞ!」

「お前の方が危ないだろ!彼女に何かあったらどうするんだ!」

「あっ・・」


 泰元にそう言われ郁夢はハッとする。そして紬の方を見るとしゃがみ込んで震えていた。


「ごめんな・・怪我はないか?」

「はい・・」


 怪我はないが何が起きたのか?あの黒ライオンは聞きたい事が沢山あるそう思った紬。


「郁夢・・」

「ああ、そうか。まだ、確定ではないからな」


 そう言うと郁夢は膝をつき、紬に向かってこう話す。


「今は夢の中の出来事だ」


 そう言うと郁夢は紬の頬をそっと撫でる。


「おやすみ・・紬」


 紬の瞼がゆっくり閉じていく。


 次の朝、眠りから覚める。自分の部屋にいた紬。不思議な感覚だ。昨日の帰り・・


「何をしてたっけ?」


 頭がボーッとしている紬。学校の出来事は鮮明に覚えている。しかし、昨日どうやってここに帰ってきたのか覚えておらず、きちんとパジャマを着て眠っていたとなると自分の足で帰ってきたんだろう。


 制服はハンガーにかけられ、洗濯や昨日の夕食も食べている。


「昨日はハンバーグを食べた・・」


 わからないまま、制服に着替え学校に向かう。駅に着いた時振り返る。


 学校の下駄箱で上靴を履き替えていると、美玲がやってきた。


「おはよう!昨日無事に帰れた?」


 その言葉に紬は考える


「紬?」

「美玲・・先に教室に行ってて」

「え?紬?ちょっと!」


 後ろから美玲が叫んでいたが紬は階段を一人で上っていく。そして、扉を開く


「やっぱり来た」


 屋上で見かけた二人・・違う


「あなた達は何者なの?何故、あの丘で黒のライオンと戦ってたの?」


 紬はそう話す。彼らは真っ直ぐこちらを見ている。紬は思った。













〝私は昨日の事覚えている〟


 








 




 


 






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