ボクっ娘で引っ込み思案な幼馴染が急に積極的に近づいてきてドキドキが止まらない
四百四十五郎
第一部:■■前
初動編
キミが積極的に近づくようになった日
「……ケイスケ。ボクの読み聞かせを聞いてほしいな」
ある日の放課後、部活動中に幼馴染の喜多村ナナが俺の15cm先まで顔を近づけてきた。
そして、それ以降ナナは積極的に俺に近づくようになった。
俺の名は
今、俺の目の前にいる茶髪で黄色い眼の少女の名は同級生で同じ部活の喜多村ナナ。
小1の時からの知り合いで、よく言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁のような関係になっている異性である。
「唐突だな。あと、近いな」
今、俺たちは希望部の部室にいる。
希望部は活動の内容の都合上、退部と入部が頻繁に起こっている上に幽霊部員もけっこう多い。
今日に至っては部長の俺とナナしかいない。
なんと、副部長である
そして、そんな状況下において机の前でイスに座っていた俺に対し、この急接近は起きたのだ。
「……今朝、悪夢を見たからね。仕方ないよ」
「答えになってないぞ」
ナナには少し天然なところがある。
この気質と引っ込み思案な性格のせいで、彼女は俺以上の友人ができたことがない。
でも、たとえ同級生の連中が何と言おうとも、俺はナナのことはとても魅力にあふれた異性だと思っている。
「そうだ、絵本のタイトルを教えてくれ」
「……ツブヤイター」
「『青い鳥』だな。あと、ツブヤイターは最近ゼックスになったぞ」
天然ボケにツッコミを入れる俺を横目に、ナナは絵本を持って俺の隣にイスを置いて座った。
なお、俺のイスとナナのイスの間には0cmの隙間が開いており、そこにナナが座った結果、俺たちは先ほどよりも近づいてしまった。
「昔むかし、あるところにチルチルとミチルという兄妹が居ました。チルチルとミチルはとても不幸でした。ある日、妖精が……」
ゼロ距離のまま、ナナの読み聞かせが始まる。
腐れ縁とはいえ異性が左隣にいるという状況のせいで、俺は青い鳥のストーリーが頭の中に入ってこなかった。
しかし、左腕にほんのりと伝わる温もりは冷めきった俺の心に少しだけ安らぎを与えてくれた。
俺は自分がこの先の人生で愛され、温もりを与えられることはないと考えている。
なぜなら、俺はあまりイケメンではない上、現代人として致命的な欠陥を抱えており、ついでに心も冷め切っているからである。
だから、今日のぬくもりはきっと死ぬまで思い出に残る気がしたのだ。
「……二人は気付きました。幸せはすぐ近くにあったのだと。そして、二人は不幸ではなくなりました。おしまい」
そうこうしているうちに、ナナの読み聞かせは終わった。
「……どうだった?」
ナナが座ったまま僕に顔を向ける。
「青い鳥がゼックスに侵食されていくシーンで泣いた」
俺は適当に感想をでっちあげた。
「……さては聞いてなかったね。まあ、キミの表情が少し安らいでいたからこれでいいや」
そう言いつつ、ナナも自分の表情に安らぎをくわえて微笑んだ。
「へくしゅっ」
高校からの帰り道、一緒に下校していたナナがくしゃみをし始めた。
無理もない。
今は10月後半、人類の業の象徴たる地球温暖化が進行したことから、ここ数年はこの時期でもけっこう寒いのだ。
「これ、いいぞ」
俺は自分が巻いていたネックウォーマーをためらいなく渡した。
別に下心などない。
ただ、親しい人が寒そうだったからそれをなんとかしたかったのだ。
「……ありがとう。明日、ちゃんと返すね。でも、キミは大丈夫?寒くない?」
「大丈夫!もしもこれで翌日風邪になっても、嫌いな学校休めるからむしろOK!」
ちょっとブラックなジョークを俺が言った直後、俺の左手が急に温もりに包まれた。
「……キミが風邪ひいたらボクは寂しい。だから、暖めるね」
不本意にも、俺の鼓動の音量が高まる中、俺は脳内でナナに関する考察を始めた。
やっぱり、今日のナナは距離が近い気がする。
昨日までのナナには、もう少しパーソナルスペースへの配慮があったはずだ。
本人が言う通り、悪夢を見たことで積極的になったのだとしたら、いったいどんな悪夢を見たのだろうか。
まあ、不快ではないしむしろ心地いいくらいなので、注意も詮索もしないでこのままにしておこう。
俺は決意というにはあまりにも消極的な決意をしつつ、隣で手をつなぐナナと共に帰り道を歩いて行った。
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