今度は我慢せずやりたいこと、やってみます!
まあく いと
第1話 病院のベッドの上で
もう、無理かもしれない。
抗がん剤治療で何度そう思ったかわからない。
これを超えれば、きっと大丈夫。
そう思って、何度裏切られただろう。
白血病だと診断されたのが3ヶ月前。
なんとなく体調が悪いと思っていたとき、たまたま年に一回の時期で行くことになった、職場の健康診断がきっかけだった。
数値の悪さに直ぐに連絡が来て、かかりつけ医に行っても直ぐに紹介状を持たされた。
20年近くお世話になっている医者からここでは無理だと言われたときに、初めての死ぬのかもしれないと思った。
大病院に行ったら検査検査検査。
即日入院となり、身よりもなく、一人暮らしの私では荷物を持ってくることすらできなかった。
病名を聞いて、助かるかもしれないが、死ぬ確率も高いことを理解してからは死ぬ準備と、生きる目標を立てて毎日毎日過ごしていた。
貯めに貯めたお金は治療費に消えるだろう。
20歳で両親を亡くし、祖父母も兄弟もいない私は天涯孤独となった。
大学に行っていたが、親の遺産では学費すら払えなかったので、退学。
直ぐに当時アルバイトをしていた塾に頼み込んで講師をしながら他の会社で事務の仕事もするようになった。
ダブルワークの状態で、有名進学塾の講師として結果を出し続けなければならない生活は、私を蝕んでいたのだろう。5年持たずに塾講師を退職、事務の仕事をメインに在宅ワークを始め、そろそろ事務の仕事をやめてもやっていけるんじゃないかと思い始めたときの出来事だった。
幼い頃からお金に困っていた両親を見て、お金が稼げる医療系の大学に行きたいと願うことすらできずに。
見栄を張る両親のために就職に有利そうな工業系の大学に行った。
なんとか学費は工面してくれていたが、私がアルバイトを始めると全て家にいれるように言われ、お小遣いは月に一万円。
着飾ることも、外食することもできずにいた二年間の大学生活から、なにかに怯えるようにひたすらに貯金をしまくった。
それで治療費を気にすることがないのだから人生何が起こるかわからない。
使い切ってしまおうと、思っていた。
でも少しだけ残ったら
近所にあって少しだけ交流した乳児院に寄付してほしいと、仕事で知り合った弁護士の人に頼んだ。
ただの偽善者だろうけど、少しでも幸せになる子供が増えてくれたらと思うのは、塾で裕福な子どもたちに触れ合い、乳児院で新たな価値観に出会ったからだろうか。
喋れなくなる前に弁護士の彼女に任せることができて良かった。
「も、むり、」
看取ってくれる家族もいなければ、友人にも伝えてない。
もし、生まれ変わることがあるなら、
「もう、すこ……し」
自由に、やりたいことやって生きたいな……
この後、立花 葵は意識を取り戻すことなく、亡くなった。
目が覚めた葵はよくあるテンプレのように白い空間で目を覚ますことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます