夢とは現実の延長である
夢遊追放
──酷い夢を見た。
電車に乗っていて、人が轢かれてバラバラになる瞬間の夢だ。
目玉が飛び出て、夢とは思えないほど鮮明に、骨が砕かれる音が聞こえた。
窓ガラスに粘度の高い血液がべっとりと。
状況を理解した乗客の混沌。
隣に座っていた女が私に縋った。
腕に伝わる柔い恐怖心。
微かに遠くで踏切の音がした。
そこで夢から覚めたのだ。
「さいあくだ」
すっきりしない目覚め。当たり前だ。見たことなどないくせに、嫌に鮮明だった死。溢れ出た愚痴は寝起きの不快感と混ざりあって腹に溜まった。
夢の内容を記憶しておけるような人間ではない。記憶に残らないから、それは見ていないと同義の事象。ただこの夢は、どうしてか鍋底の焦げのように頭にこべりついて離れなかった。人の死ぬ夢など、一般的に見ればさほど珍しくもないはずであるのに。
その日一日何も手につかず、私は死んだように眠った。
──酷い夢を見た。
昨夜の夢と同じ夢だ。
電車に乗っていて、人が轢かれて、恐怖した女が私に縋る。踏切の、不吉な音。
ただ昨夜と一つ違う点があった。
夢の始まりが違った。昨夜は既に電車に乗っていたが、今回は乗る瞬間から始まった。それだけ、他に変わったところはなく、私はまた最悪の目覚めを迎えた。
その日も夢が気になって、何も手につかなかった。
──また酷い夢を見た。
人が轢かれて死ぬ夢だ。もう何度も見たその瞬間。
でもまた昨夜と何かが違う。今日はホームに電車が滑り込んでくるシーンから始まった。
そこで私は初めて気がついた。電車に反射し映った私の姿は、全くの別人だったのだ。顔は見えなかった。だがその姿は子どもの形をしていた。なるほど確かに、夢中で立つ私の目線は低かった。私の片手は、隣に立つ女と繋がれている。初日感じた恐怖心はそしたら私のものだったのか。縋った女はそしたら母親だったのか。
暴きたいと思った。この夢の真相を。毎回同じ死を迎える者は何者なのかを。
私は夢を期待して眠った。だが夢は見れなかった。
踏切の音が近くで鳴った。
酷い衝撃と共に硬い何かが砕かれる音が身体に響いた。
私の目が最期に捉えたのは、血塗れたガラスの奥で固まる子どもと、青い顔をした母親らしき女の姿だった。
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