死滅回遊

夏に還る

退屈だ。


代わり映えしない風景。


どこまでも続くようで、すぐに途切れる青。


何度同じところを通ったのだろうか。


行き交う同胞も、死んだ目をして泡を吐く。


目の前で、同胞が攫われた。


あいつは体が小さくて鈍臭いから、逃げられなかった。


可哀想に。


俺は大丈夫だ。


何度も狙われたが、その度奴らに穴を残して逃げてきた。


次も必ず逃げ切ってみせるさ。


また奴らの気配がして、俺は逃げた。


遅れたチビが、攫われた。


ごめんな。


チビの行方を尻目に、切り取られた青の中進む。


その時、目の前に鬼が現れた。


逃げれない。


世界から酸素が消え、歪む視界で必死に藻掻く。


遂に俺の番がやってきたのだ。


体が玩具のように流され、大量の泡が俺を撫でる。


確かに、これは、苦しい。


泡が消えた時、見たことの無い景色が俺を囲った。


眩しく燃えるライト。


ズラリと並ぶ出店。


俺を見つめて嬉しそうに笑う人間の子供。


見下ろすと、大きな青い箱。


光を受けて水面が輝き、不規則に同胞が泳いでいる。


美しかった。


俺の知る世界は、あまりにも狭かったようだ。


俺を取り巻く温度は、夏に晒されて生ぬるい。


俺を隔離する透明は、不安定に揺れる。


それすらも、心地よく感じた。


なんでもっと早く来なかったのだろう。


なんであんなに逃げていたんだろう。


数分前の自分が馬鹿みたいだ。


この世界は広い。


きっと新たな出会いが待っていることだろう!


ふと、俺を連れる人間の動きが止まった。


なんだよ。


仕方なくそのままでいると、視界の片隅に何かが写った。


あぁ、そうか。


俺はこれが怖かったんだ。


揺れる視界で目が合った。


数分前まで、一緒にいたはずの仲間。


お前の主に攫われてから、何があったのだろう。


砂利道の上に潰れる無残な姿。


体は砂に黒く汚れ、生臭い水が血溜まりのようにお前の周りを丸く陰らせている。


そうだった。


俺たちは、人間の遊戯の道具。


俺たちの命なんて、所詮玩具同然だ。


掬われた後、救いがあるかは運次第。


俺にできる足掻きはせめて、死ぬまで水の元生きれることを祈るのみ。


お前は最後に、何を思ったのだろう。


遠くで轟音がし、閃光が死んだお前の目玉を照らす。


まだ艶やかな赤い鱗が煌めく。


また夏に、儚く命が散らされる。


時が再び動き出し、俺を取り巻く温度がぬるむ。


遠ざかるかつての友に別れを告げて。



この感情も、どうせ強者のエゴか

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