『本日は都合により臨時休業です』
江戸川殺法
『本日は都合により臨時休業です』
まただ。またである。
ネットでおすすめの美味い飯が食いたいだけなのに、店が営業していない。ここのところ毎回である。だがとにかく店が開いてないんだから仕方がない。諦めて俺は帰り支度を始めた。悲しい。
次の瞬間、俺はなんか知らん場所に立っていた。え?空?浮いてる?じ、地面どこ?
「……転生者よ……聞こえますか……今、あなたの心に直接語り掛けています……」
俺は全てを察した。そういうことか。
「説明は聞いてください」
「心を読まれた」
「顔見たらわかりますよ」
謎の声の主はなんか不機嫌そうであった。すまん。空気読めなくて。
「あ、じゃあ説明お願いします」
「あなたは死にました」
「そこからなんだ」
「話聞いてくれます?」
怒られた。すまん、空気読めなくて。
「ところで死因は何だったんですか」
「私が殺しました」
「おめーが犯人なのかよ!」
今度は俺が怒った。そりゃ怒りますよ。
「ちょっとムシャクシャしてたから」
「快楽殺人犯でももう少しちゃんとした理由で殺してると思います」
「まあ私神様だから」
「邪神じゃねえか」
いくら神様でもスナック感覚で人を殺さないでほしい。
「流石にちょっとやりすぎたなって思ったから、せめて異世界に転生させてあげようかなって」
「元の世界に返してくださいよ」
「私、転生は出来るけど復活は出来ないんだよね」
「神の癖に出来ることが少ない!」
「あ?じゃあこのまま死ぬか?」
「すみませんでした」
ここは俺が空気を読んだ。えらいぞ俺。
「でね?せっかくだから貴方の魂にピッタリのスキルをあげるから、異世界を堪能してほしいなーってことなの」
「おっチートスキル来るんですかコレ。やったぜ。これで勝つる」
「だといいですねー。じゃ、行ってらっしゃい」
話は終わったらしい。視界がぐるんと回ってなんかまた知らん場所に立っていた。スキルの説明、してくれないんだ。情報量ゼロだったなさっきの会話……。
周りを見回す。ヨーロッパ風の街の広場であった。テンプレ通りだなあ。出店が立ち並んで、美味そうな匂いがプンプン漂ってくる。腹減ったなあ。カネがあったらなあと思って財布を見たら見知らぬ貨幣がジャラジャラ出てきた。神様が気を利かせてくれたのだろうか。すまんな……邪神とか思って。意外と気遣いしてくれるやつだったんだな……。俺は神に祈った。ありがとう……そしてありがとう……。さぁ!飯だ飯!
「あーごめんね、もう品切れなんだ」
「あ、今日はもう営業終わりなんす、すみません」
「これから出かけなきゃならないんだ、悪いね」
並んだ店全てが臨時休業。
俺は全てを理解した。これスキルだわ多分。
あの邪神、全てを理解してカネ渡しやがったな。
途方に暮れるしかなかった。
何に使うんだよこのスキルを
「君、転生者だよね?こんなところで座り込んで何してんの」
突然話しかけられたんで振り向くとプレートメイル着込んだ女騎士が立っていた。割とかわいい。そうか、ヒロイン枠ちゃんとあるんだな。これは期待できる。
「あ、わかりますか。そうなんです、転生者なんです」
「やっぱりね。服がダサいからすぐ分かったよ」
「は?」
「困るんだよねこんなとこで座り込まれると。君、ちゃんと転生者登録してる?違法滞在してないよね?ちょっと詰所まで来てもらおうか?」
即座に俺は逮捕された。
流石に俺の読んできた転生物小説でも転生直後に逮捕される奴は見たことがない。
「誤解です。悪い転生者じゃないんです」
「正規の転生者なら神からチートスキルを授かってるはずだよ?君、スキル持ってんの?悪いけど何も持ってないような密転生者は死刑なんだからね?」
「刑重すぎじゃないですか?!」
「次の世界に転生すればいいでしょ?」
「転生者の処置が雑すぎませんか!!!」
「それより君、スキルちゃんと持ってんの?今すぐ出してよ」
「それが、その」
「臨時休業……を……起こす能力……というか……」
女騎士は爆笑した。
「マジかよ超ウケるな!何に使うんすかそんなスキル!聞いたことないっすよそんなカスみたいな奴!単に君の服装がクソダサいから客扱いされてないだけなんじゃないの?言い訳ならもっと上手にしてくんないとー」
こいつ殺してえな。今すぐ。
しかし相手は完全武装の騎士である。この展開だと俺があっさり返り討ちにあってもおかしくはない。仕方ないので俺は下手に出ることにした。えらいぞ俺。
「嘘じゃないです!ホントなんです!何なら騎士様が一緒に来てくれてもいいですから」
「えーホントにィー?適当なこと言ってごまかそうとしたら拷問だよ?」
この国には人権という概念がないのかよ。俺は必死で無実を訴えた。何で異世界まで来てこんなことする羽目になってんだよ。おうちかえりたい。
「仕方ないなー。じゃあちょっと試してみようか」
決死の説得が通じた。頼んだぞ俺のチートスキル、俺の無実を証明してくれ!
結論が出るのは早かった。
5件回って営業してたところはなし。全て臨時休業である。俺は安心した。
でも、おかしいな……。なんで店がやってないことが嬉しいんだろう……。おかしいな……。遠い目で空を見上げる。おうちかえりたい。
「いやー!こんなカススキルあるんすね!ははは!いや!笑った!いいよ君!いいね!チートスキル(笑)」
こいつ殺してえな。今すぐ。
だがとにかく無実は明らかになった。人生はよかった探しが大事である。人生はだいたいクソなのでよかった探しが大事なのである。
「これで世界渡ろうとか無理ゲーすぎて同情しちゃいますわwwモンスターも魔王軍も倒せそうにないwww」
言ったなこの野郎。言ったな。
「じゃあこのスキルのスゲーとこ見つかったら土下座して謝ってくれます!?」
「ははは、そんなん起こるわけないすけど出来たらやってやりますよマジで」
「OK、いいじゃないすか。じゃあ今から伝える作戦をですね……」
数日後、魔王軍は壊滅した。
何も難しいことはしていない。
単に俺が魔王軍を訪問したら臨時休業だったのでそのスキに俺が王国騎士団を引き入れて無抵抗の魔王軍をボッコボコにしたのである。こんな手通るんだなあ。作戦立てといて何だけどまさか通るとは思っていなかった。トロイの木馬か?魔王軍に悪いことをしたような気がする。すまん。許してくれ(許されるのか?)
とにもかくにも、これで俺は魔王軍撃破の功労者である。
王様への謁見も許されたし、これはもう褒美に大金もらってスローライフコースだなって俺はニコニコしていた。俺は異世界スローライフ系小説も好きなのである。今日は王様との謁見。これはもう期待出来る奴ですよ。
「ほーん、君が噂の転生者か……。随分服のセンスがダサいんだな……」
王様はいきなり俺のファッションセンスから否定に入ってきた。うるせえよ。
俺が何着てようが自由だろ!全裸よりはマシだ!と言いたかったが褒賞をもらわないとな!と思ってグッとこらえた。えらいぞ俺。
「何?その、臨時休業を引き起こす能力?それで魔王軍が臨時休業?」
「はい。臨時休業です。お休みになった魔王軍を王国騎士団がボッコボコにしました」
「それ、魔王軍倒したの君じゃなくて王国騎士団じゃね?」
沈黙。まあ……それは……言われるかな……ってちょっと思ってた……。
「でも臨時休業だったから壊滅されられたわけじゃないすか」
「王国騎士団がいなかったら壊滅させられなかったわけじゃないですか」
くっこの王様意外と手強い。論破王か?そういえばタラコ唇していやがる。
「あのですねえ!でもほら、こういうのチームプレーじゃないですか!俺の働きに応じた褒賞はやっぱ頂きたいわけですよ!この世界でスローライフするために!」
「知らねえよ勝手にスローライフしてろよ。とにかくそんなよくわからんスキルの働きなんかに国庫からカネ出すとかありえねえわ。とっとと帰ってクソして寝ろ!!!」
「はああああああ?!!!!ふっざけんなこのクソ国王!!!!!!」
食って掛かった俺を完全武装の騎士たちが半笑いでつまみ出した。こっ、これが魔王軍撃破の功労者に対する仕打ちなのかよ!!!人権はどうなってんだよ!!!人権は!!!!!!というか何で謁見させたんだよ!!!!!見世物じゃねえんだぞ!!!!!!!!!!
「まあ命があるだけよかったと思いなよ。レッツスローライフ(笑)」
城門から叩き出される直前に例の女騎士がめっちゃいい笑顔で煽ってきた。てめえら覚えてろよ。誰に喧嘩を売ったのかわからせてやる絶対。
それから数日後、王国は滅びた。
再び極限まで発揮された俺のスキルにより、国家の機能は完全に麻痺。経済も軍事も臨時休業になった王国は、そこらへんのゴブリンの集団にあっさり征服されたのである。ざまぁ。魔王軍が臨時休業に出来るんだから王国ぐらいわけねーことぐらいわかれよバーカって思った。ざまぁ(二回目)
俺は自分の能力の使い方を理解しはじめていた。
どんな悪党どもでも臨時休業させてやれば一発である。
何なら世界の法則だって臨時休業させてやろう。
だが今日のところはここまでとしよう。
空は晴れて日差しは暖かい。
今日は俺も臨時休業して昼寝がしたい。
『本日は都合により臨時休業です』 江戸川殺法 @Werth
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