泣けないロボットと泣かない人間
宇宙(非公式)
ハカセとジョシュ
そういえば、僕は泣かなくなったな。目の前の、憂鬱な、今にも泣きそうな顔をした女性を眺めながら、そんなことを考える。道路の凹凸で車体が揺れ、彼女の長い髪が小さく
この女性は、なぜこんなにも涙を堪えているんだろう。辛いなら、泣けばいいのに。
「めでたし、めでたし」
「何もめでたくないですよ。そんな話、愛でたくないですし」
「そうかなあ」
僕は首を傾げながら、エクレアを一口食む。先ほど行った喫茶店の一番人気なだけあって、流石に美味い。
「そもそも、主人公が追い込んだのに、『なぜこんなにも涙を堪えているんだろう』じゃないですよ」
「君は否定が好きだね」
そう言って、僕はスルメを噛んだ。しょっぱい香りと、確かな歯応えが心地よかった。
「そういうハカセは、いつも何かを食べてますよね」
「いや、そんなことないと思うけどなあ」
そんなことありますって。速水は、そう口を尖らせた。
「相手がアンドロイドとは言え、泣かせていい理由にはなりませんよ」
「話の中では、まだ泣いていないんだけどね」
目的地に着いた。そこには僕たちの身長より少し高いくらいの扉があり、普通、ドアノブがあるあたりにチャイムがついている。
僕は目の前にあるチャイムに触れる。そのあと、横のディスプレイに触れ、体内のチップが埋めてあるあたりをかざした。手の振動で、解錠が示される。一歩踏み出し、閉じている扉を、そのまま通る。まるでそこには、元々何もなかったように、通れた。最新式のものだ。
戸を潜ると、豪華な家の中にいた。すでに支配人のような、深い皺の目立つ男が目の前にいる。
「小生の名はハンと申します。
言葉遣いが丁寧なのと、その割に、公共の場で自分の名前を名乗るのに驚いた。一昔前は、普通に名乗るのがマナーだったらしいが、今はあまり主流じゃない。
役職を名乗った方が合理的だから、ということらしい。こちらも合わせた方がいいのだろうか。ごにょごにょと考えていると、隣に立つ速水がうでて僕を小突く。まあいいや。
「はい。僕がハカセで」
「私がそのジョシュです」
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