第7話【百面相】の仮設

【百面相】そのスキルの効果は、仮説だが自分がなりたい人格を演じれる能力。


分かりやすく言えば多重人格とでも言えばいいだろうか。


もちろん自分の意思なく人格が出てくるなんていうことはなく、あくまで任意でだ。




気づいたきっかけは、一年前の父との剣術修行をしていた時。


あまりにも歯が立たないため、いつも通りクラウンという男の子を私なりに解釈して演じていた私は、どうにか勝てないかと頭を働かせていた。


そこで、私は思った。もしも、父のようになれたらと。




そうすると、不思議なことが起こった。


私の中で何かが切り替わる感覚。カチッと何かがはまったのが自分の中で何となくわかった。




すると、急に父の考えていることが分かるようになった。


私が切りかかれば、父がどう返そうとしているかが漠然と頭の中に浮かんでくるようになる。


まるで父そのものになったような感覚。


あまりに突然情報が流れ込んできたため、私は気分が悪くなってその場で膝をついてしまう。


結局その場で修行は中止になり、私は数日寝込むことになった。




あれから私なりにこのスキルの検証を続けてきたのだが、わかったことは少ない。


もしくは、これがすべてなのかもしれないが。


分かったことは三つだけ。




.自分が想像イメージできる人格を憑依できること。


.頭の中で思うだけで割とすぐに切り替えられるということ。そこに回数制限などはなく、何回でも可能。


.自分の想像が足りないと、憑依はできないということ。この三つだった。




lvなんてのがあるくらいだし、これからレベルが上がればやれることは増えてくるのかもしれない。


ただ、今の段階ではこれしかわからなかった。


鑑定もlvが上がればもっと詳しく知ることができるのだろうか。




「疲れて頭回んないや・・・治癒ヒール」




私は考えることを放棄して、体に治癒をかけていく。


最初は神子なんてと思っていた私だが、この治癒魔法は素晴らしいものだった。


ケガをしたらすぐに直せるという利点があることもそうだが、何より肉体の疲労も回復してくれるのがよかった。


この魔法のおかげで筋肉痛とは無縁でいられている、治癒魔法さまさまだ。


筋肉痛を直したら筋力が伸びないのかとも思ったが、そんなこともなかったので最近はずっと治癒している。


太陽神様とやらに感謝しながら、私は眠りについた。







「・・ろ・・んか!・・・ええい、いい加減目を覚ませ!」




何やら聞き覚えのない声が耳に入り、私は徐々に意識を覚醒させていく。


目に映るのはどこまでも続いていそうな真っ白の空間。


上も下も分からず、自分が今立っているのが分からなければ、パニックになりそうだった。




「やっと起きよったか、神の前でうたた寝とはずいぶん肝が据わっているようじゃな」




声のした方に目を向けると、髪から髭までが真っ白な爺さんが玉座のような場所に腰を下ろしていた。


胸のあたりまで伸ばしている髭は、年の割にはたくましい毛量と雄々しい顔つきのせいでライオンかと見間違うほどだ。


向かい合うだけで次元が違うと分かるほどの存在感を放っており、握っている手の内側がじんわりと湿っていくのが分かる。




「ふんっ、我がどういう存在かは理解しているようだな」




私が緊張しているのを見破ったのか、自らを神と名乗る爺さんは椅子にふんぞり返っている。




「あなたが、神様・・?」




「左様・・我こそが下界の人間が崇める太陽神フレイバル・ドーンなり」




なんてこった。祝福されただけでは飽き足らず、まさか直接神と話す時が来るなんて・・


これは粗相なんてできないぞ、気を引き締めてかからなければ。


私はスイッチを切り替える。




「お初にお目にかかります。いつも私たちを救ってくださり、そして近くで見守っていてくださること感謝しています」




そう言って一礼すると、太陽神は顔を手で覆って顔を伏せる。


一体どうしたのだろうか、もしかして何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。




「かしこまらなくてもよい・・貴様が我を信仰していないことなどわかっておるわ。神の前では嘘はつけん、素のままでかまわぬ。貴様が異端のものであることもわかっておるわ」




そこまでわかっているのなら、お言葉に甘えるとしよう。


私は純粋な疑問を神にぶつける。




「わかりました。それで、本日はどういった用件で?」




「ふむっ、本当ならば祝福を授けたその時にこちらに呼びたかったのだ。だが、貴様の信仰心が足りぬせいで時間がかかってしまった。最近どういうわけか信仰心が芽生えたところで、今日呼び出したのだ」




そう言われれば思い当たる節はあった。


神へというより、治癒魔法に感謝していたのだが、それが信仰心にカウントされたのだろう。


複雑な気分になりながら、このことは最期まで黙っていようと心に決めた。




「本日呼び出したのは聞きたいことがあったからだ。貴様がこの世界の人間ではないことはわかっておる。そこでだ、こちらの世界に来るときにどこの神に連れてこられたか覚えているか?」




「いえ、そもそもこちらの世界で目覚めるまでに誰にも会っていません。気が付いたら転生してました」




私はありのままを話す。


てっきり偶然が重なって転生したのだと思っていたのだが、私の転生は誰か他の神がしてくれたってことだろうか?だとしたら、その神に感謝しなければならない。




「むっ、貴様の信仰心がわずかに減少したぞ?なにかよからぬことを考えているのではなかろうな?」




「め、滅相もないです!」




そう慌てて返すと、神は「まぁいいが」といって考え込むように顎に手を当てていた。


危ないところだった、相手は神だあれこれ考えるのは、まずここを乗り切ってからにしよう。


そう思った私は、思考を切り上げた。




「やはりわからぬか、まぁいい。心当たりはあるからな」




誰かの目星はついているらしい太陽神に、私は質問を投げかける。




「この世界に転生者が来るのって珍しいんですか?」




「ふむっ、珍しいな。最後に見たのはもう百年位前か?」




予想以上に時がたっていることに驚いた。


私のほかにも転生者がいることも考えていたのだが、どうやらそれは間違いらしかった。




「私を転生させてくれた人は神様なんですか?」




「十中八九な・・問題はどこの神かというところだが、まぁおそらく月の女神の仕業だろうな」




「月の女神様・・?」




新たに出てきた神の名前に、私の頭はパンク寸前だった。




「あぁ、子供のようなやつだ。とにかく楽しいことが大好きな奴でな、我も手を焼いておる」




「大変なんですね・・」




神々にも色々とあるんだろう、私はそれ以上深くは聞かなかった。




「普段はだらけておるくせに遊びには全力を出すようなやつなのだ。おぉそういえば、ステータスやスキルはあいつが作ったものだぞ?最初はまた勝手なものを作りおってと思ったもんだが、案外下界の人間からの評判が良くてな?以来そのままにしておる」




そうだったのか、月の女神とは案外気が合うかもしれないな。


ゲームはそんなに好きじゃないが、その手の小説は少なくない数読んできた。


ある程度話を膨らませることができるだろう。




「あやつに感謝しているようだが、気を付けた方がいいぞ?奴の行動理念は自分が楽しむことだからな。気を付けなければいつの間にか奴の盤上の駒になっておるやもしれん」




その言葉は妙に実感がこもっていて、説得力を感じるには充分だった。


過去に振り回されでもしたのだろうか。




「肝に銘じておきます・・」




神に振り回されるのなんてごめんなので、私は真剣に頷いた。




「ふむっ、今の貴様なら大丈夫だろう。さて、祝福を授けた人間の人となりも知れたことだしあまり時間もない。ここらでいったん終わっておくか?」




「えっ?本当にあの質問のためだけに呼んだのですか?」




「あぁ、厳密にはそれだけではないがな。代々神の祝福を授ける子供は神が自ら決めるのだが、貴様は特殊だからな。面倒なことになる前に我の監視下に置くことにしたのだ。貴様の性格や人となりを知るために今日は呼び出したのだ」




なるほど、私のこれからはすべて太陽神に見られていると思った方がいいということか。


面倒なことにならなければいいが・・




「そうですか、わかりました。えっと、どうすればここから帰れますか?」




「我が直々に帰してやるから安心するといい。では、達者でな。あまり問題は起こしてくれるなよ?」




「はい、そんなつもりはありません・・」




その言葉に頷いた神は、腕を振るう。


すると私の意識は徐々に薄れていき、直ぐに意識を失った。







来客が消えた白一色の空間で、男神は椅子の背もたれに深く倒れこむ。




「サテライトめ、今度は一体何を企んでいる・・?」




男神のつぶやきは、誰に聞かれることもなく虚空に消えていく。


一点を見つめて思案していた男神は、次に突然吹き出して口元を抑える。




「ふはっ、それにしても我より治癒魔法に感謝しているとは・・また随分と面白い人間が来たものだ」




男神は下界の人間の心が読める。


神には当たり前に備わっている、能力ともいえないような基本的なことなのだがここに来た少年(少女)は知らなかったらしい。


最期まで教えなかった男神も悪いのだが、代々神子の本当の心の内を知るために教えてはいけない決まりになっているため、それも仕方がないといえよう。




「一度話さなければならんな・・」




男神はこれからのことを考えて、頭を悩ませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る