第6話【百面相】の正体と【鑑定】
「とりゃああぁ!」
「ふっ、おっと!」
私の袈裟切りは、父の下から掬い上げた剣に絡めとられ空を切る。
それを理解した私は、空を切った勢いそのままに体を半回転させ、そのままの勢いを乗せて平行に剣を片手で振るう。
その勢いの乗った剣も、父は読んでいたのか少し後ずさるだけで簡単に避けられてしまう。
勢いをつけすぎてしまい、私はそのま一回転してそのまま尻もちをついてしまった。
「ははは、今のはなかなかよかったぞ!まだその剣はお前には少し重かったか?」
「いてて・・ううん、そんなことないよ!父さん、もう一回!」
負けず嫌いの私は、直ぐに再戦を要求する。
剣の修行を始めて二年が経った。
しかし未だに父に黒星をつけることはできていなかった。
その事実が私のプライドを刺激する。
「あぁこい!」
「・・・行くよ!」
その後も私の挑戦は日が暮れるまで続いた。
体が泥だらけになるのも厭わず、ただ愚直に立ち向かう。
「あぁぁー!くっそー!!結局今日も一回も当てられなかったー!」
「ははは、師範としてまだまだ一太刀も浴びせられる気はないな」
「次は絶対に一太刀浴びせてみせるよ!」
「それは楽しみだ!」
二人で軽口を言い合いながら家の中へと入っていく。
「またこんなに汚して・・二人とも、先にお風呂に入ってきなさい!」
母が私たちの、主に私の格好を見て眉を下げる。
毎度汚れた服を洗濯してくれる母には感謝しかない。
前世ではすべての家事は自分でやっていたため、洗濯も最初自分でやろうとしたのだが、母の魔法が便利すぎて私の出る幕はなかった。
私がやろうとすれば一からこすって汚れを落とさなければいけないが、母にかかれば魔法ですぐに済んでしまうのだ。
「気持ちだけで充分よ」と母に言われれば、それ以上強くは言えなかった。
◇
「なぁクラウン・・将来は何になりたいのかは決めたのか?」
父が湯舟につかりながら頭を洗っている私に話しかけてくる。
「んー、特にないかな・・僕も父さんみたいに冒険者になろうかな」
そう言った私に、父は真剣な顔をして説いてくる。
「冒険者は危険な仕事だぞ。魔物との戦闘はもちろん、護衛や場合によっては戦争に駆り出されることだってあるんだ。お前は神子にも選ばれたんだ、仕事は何だって選べるんだぞ?それでも、冒険者を選ぶのか?」
私は今まで一度も言ったことのない旨の内に秘めていた思いをぶつける。
「僕は・・・僕は世界を見て回りたいんだ。そこで色々な物を見て回ってみたいと思ってる」
私の本音を聞いて父が考え込むように黙る。
果たして今何を考えているのかはわからなかったが、真剣な面持ちで黙っている。
やがて私が頭を洗い終わり、父の隣へと浸かって息を吐いていると父がやっと口を開く。
「・・・お前の人生だ。口を出すつもりはないが、これだけは言わせてくれ。お前が神子に選ばれて嫌がっているのはわかっているが、人を癒すというのも立派な仕事だ、人に感謝されるしな。十五歳までまだ八年もある、それまでに一回魔物の討伐にも連れて行ってやる。だからよく考えて決めるんだ、それで意見が変わらなければもう俺からは何も言わないから・・」
「・・・わかった」
真剣に私のために考えてくれているのが分かるため、父のことを邪険に扱うことはできなかった。
それに今まで育ててくれた恩もある。
たまたまとは言え、私はこの両親のもとで育つことができてよかった。
暖かい家庭に立派な家、私が前世で密かに憧れていた家庭がここにはある。
はっきり言って居心地がいいのだ、大事にしたいと本気で思ってもいる。
毎晩寝るとき、起きたらこの時間は終わってしまうのではないかと不安になる。
朝起きれば現実に戻っているんじゃないかとも思う。
そんなわけないと頭ではわかっているのだが、拭いきれない不安があった。
どうか現実であってくれ、この世界にいたいと思う気持ちが日に日に大きくなっていく。
気に入ったから、だからいい子でいようと頑張った。
だが、前世と同じ轍は踏まない。
いい人間は演じるが、自分とその大切な者を厳選し、その他のどうでもいい人間が私の周りを傷つけようとする場合は、私は容赦しない。
誰にでも愛想を振りまいてすべての人間に気に入られなくてもいいのだ。
自分と対等に接し、自分が相手を愛した分だけ、向こうも自分を愛してくれるような人間を大事にすればいい。
それが、一度の失敗で学んだことだ。
もう失敗はしない。具体的にどう変わるというのはないが、その信念だけは曲げないこととする。
「どうかしたのか?」
私が自分の中で今一度決意を新たにしていると、父が話しかけてくる。
黙っている私を見て、心配に思ったのだろうか。
そんな父に安心させるように微笑みながら返す。
「大丈夫だよ、それよりお腹空いたからもう出ようよ!」
「あぁそうだなっマリーも待っているだろうし出るとするか!」
私の様子を見て杞憂だとでも感じたのだろう、父はそれ以上聞いてこず先に湯船から出ていった。
私もそのあとを追ってついていった。
◇
「ふぅー、疲れた。体バキバキだわ」
部屋に戻った私は、演技をするのをやめ、前の自分のような口調で独り言を吐き出す。
ちなみに、七年たった私は自分でいうのもなんだが美少年に育っており、これが自分の顔ということが信じられなかった。
髪は母譲りのプラチナブロンドで、眼は父と一緒で緑みがかったサファイアのように透き通っている。
一体どこのモデルだといいたいところだが、これがまぎれもない今の私の顔だった。
そんな美少年が溜息を吐きながら肩をもみ、疲れた表情であぐらをかいている所を他人が見ると、酷くがっかりするだろう。
だから普段は目をしっかりと開き、笑顔を絶やさないいい子でいようと頑張っているのだ。
だが、前世でもなかなかすることのない表情にやはりしんどさはあるわけで、こうして一人でいるときは素の自分に戻っている。
この前うっかり素でいるときに母が私の部屋に突撃してきたときは焦ったものだ。
どうにかその一瞬でクラウンを演じることで難を逃れたが、もう少し気づくのが遅ければ今までの苦労が水の泡になっていただろう。
「それもこれも、やっぱりこのスキルのおかげだなぁ・・・」
私はステータスを頭に浮かべて見る。
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クラウン 7歳 男 属性 炎 太陽
筋力:23
耐久:31
敏捷:16
魔力:113
加護:【太陽神の加護】
スキル:【百面相】lv.2【速読】lv.4【魔力循環】lv9【魔力纏】lv.1【料理】lv.2【鑑定】lv.1【異世界言語】
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ステータスを流し見し、その上昇値に月日の流れを見る。
「こう見ると、上がったもんだよなぁ」
平均がどれほどかが分からないので何とも言えないが、確実に上がっているのが分かるのは、自分が成長したんだと認められている気がして嬉しかった。
新たに増えたスキルを横目に、私は【百面相】をじっと見る。
すると、頭の中に謎の説明が浮かんでくる。
これはある日図鑑を読んでいるときに獲得した【鑑定】というスキルの効果だ。
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【百面相】
あなたが望むのなら・・・私はゴブリンにだってなりましょう。
それがあなたのためになるのならば。
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最初は全く意味が分からなかったが、私はある仮説を立てた。
それは・・・
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後書き
まだもう少し続きますのでお付き合いくだされば幸いです。
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