第2話なんか赤ちゃんになっとるんやが?

何も見えない、ついに目までおかしくなってしまったのか。


だが不思議と苦しみはすでに感じず、心地よい鼻歌が耳に入ってくる。




背部には優しい衝撃を感じ、全身を暖かい毛布のようなもので包まれているのが分かる。


とうとう幻覚まで感じるようになったのだろうか、だとしたらもう永くはないのだろう。




ずっとこのままでいたいと本能が訴えてくるが、私は暗い視界の中に感じる違和感に煩わしさを感じ、恐る恐る目を開く。


どうやら何も見えなかったのは瞼を閉じていただけだったらしい、そのままゆっくりと開いていき、徐々に見えてくる光景に目を疑う。




「あら、起きちゃったの?お腹が空いたのかしら・・?」




私の目の前に映るのは、美しいプラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンのように透き通った色の目をした美人な女の人だった。


どうやらその女の人に抱きかかえられているみたいなのだが、サイズ感がどうもおかしい。


細い指先を私の顔に伸ばし、そっと頬を押される。


その指や腕はとても華奢で、とても私の体を持ち上げて抱えるだなんてできるとは思えなかった。




何が起こっているのか理解ができず、動揺して女の人の顔をまじまじと見つめる。


そんな私の様子にその女の人はくすくすと笑っていた。


笑って目が細くなった表情もどこか気品を感じ、改めて美人だと感じた。




「ふふふっ、クラウンったらおかしいわ・・お母さんの顔に何かついてるの?」




「・・・・?あうう?」




!? なんだ今の声は!!?


私は目を見開いて自分の手を顔の前に持ってくる。


そこにはとても小さな・・・まるで赤ん坊のような手が見える。


更に動揺する。は?意味が分からない。




この女の人は今、自分のことをお母さんといった。クラウンとも。


明らかに私の顔を見ながら・・・だ。


思わずクラウン?とこに出してしまったのだが、その声は全然違う言葉に変換された。


明らかに自分のものとは思えない手、上手くしゃべれない口。


そこから導き出されるありえない答え。


本当に理解できないが、意味が全く分からないが・・・




もしかして・・・私、赤ちゃんになっちゃった?????







私が目覚めて三週間が経った。


どうやら本当に赤ちゃんになってしまったらしい。


しかも異世界の赤ちゃんだ。要するに転生した。


なんで異世界だってわかるのかって?普通に魔法をこの目で見たからだよ・・・




別に前世にやり残したことも未練もないからいいんだけどさ。


しいて言うなら、もう好きな作家さんの作品が読めないことぐらいか。


復讐なんて全く考えていないし、むしろ転生させてくれてありがとうとも思ってる。




だがどうしても、どうしても納得できないことがある。


それは・・・私が男になったということだ。


なぜなのか・・・前世ではそういう作品も何作か読んだことがある。


そのどれもが生前の性別そのままだったものだから、自分もそうなのだと勝手に思っていた。




最初に感じた違和感は、排泄するとき。


なんかいつもより出るところが違うような?と違和感を感じた。


そして恥ずかしい話なのだが、当然今の私には自分で排泄物を処理することなんてできないので、この世界の母がすることになる。


その時に見たのだ、足を持ち上げて臀部を拭かれているときにぴょこんと生えた小さな突起を。




なんでなんだ・・・いや、別にどうしても女がよかったというわけではないんだけども。


ずっと女として生きてきたから凄い複雑な感情だった。


まぁもうお腹が痛くなることも血がでないこともないのだと思えば、幾分楽にはなったが。




そうやって考え事をしながら何をするでもなく天井を見ていると、大きな足音が聞こえてくる。


この大きな足音に聞き覚えがある私は、思わず寝たふりをしようかと考えたが、それよりも早くその足音の正体が扉を勢いよく開けて入ってくる。




「クラウン!おっ!起きてるな!たった今愛しの父さんが帰ってきたぞー!」




「あうう・・・・」




そう、今現在私を抱きかかえて頬ずりを行っているこの男がこの世界の父。


髭が刺さってかなり痛い、大声で泣いてやろうかとも思ったが我慢する。


生前では見たこともないワインレッドのような赤色の髪は、短めに揃えられ横は剃られている。


顔は整っており、髭さえなければもっと若々しく見えそうなのに残念な印象に見えた。




「ちょっとベル!クラウンが痛がってるじゃない!やめてあげなさい!」




「マリー!三日ぶりの再会なんだ、勘弁してくれよー!」




「ダメなものはダメ!まだ赤ちゃんなのよ!」




「分かってるさ!クラウン、お前は父さんが立派な剣士に育ててやるからな!」




そう言って元居た場所に私を下ろし、今度はマリーにキスをしていた。


少しだけ過去のことを思い出して複雑な感情になったが切り替える。


私の幼少期は、両親とも仲が悪くいつも言い合いをしている記憶しかなかったため、見慣れない光景に新鮮な気持ちになった。




もう会うこともないのだから考えても無駄か、そう思って考えるのをやめた。




それにしてもクラウンか。


確かピエロだとかそんな意味だったような気がするが・・・皮肉なもので、私にぴったりの名前だった。




死ぬ前にも言われた言葉だ。


とことん縁がある言葉にこれはもう呪われているなとも思った。


自嘲気味な笑みが漏れる。そうしていると眠気が襲ってきて、私はそれに抗うことはせず委ねる。


この体になってから眠たくて仕方ないな、そんなことを思いながら私の意識は落ちていった。




「見て、笑いながら眠ってるわ・・」




「あぁ、どんな夢を見てるんだろうな・・」




「きっと幸せな夢よ?あなたに会えて嬉しかったのかも」




「そうだといいな・・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


まだ投稿しますので、気に入っていただけましたら是非ブックマークをしてお待ちいただければ幸いです。

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