第26話 真理子とクラスメート

(真理子とクラスメート) 


 夏休みが終わって、最初の登校日……


 夏休みが終わったばかりだというのに、今日も日差しが照り付ける。


 もうすぐ学校という所で、雪子と真理子の前に、凍傷で入院していた三人が立ちはだかった。


「お前、雪女だろうー!」


 三人の中で、一番背の大きい、リーダー格の男が言った。


「そうよ、雪女よっ! それを知っていて、それでも私の前に現れるとは、死にたいの?」


 雪子は、真理子をかばうように、一歩前に出て、男たちに迫った。


「俺たちの話を聞いてくれた刑事は死んだぞっ! 部屋で凍死したそうだ。お前がやったんだろうー?」


「わたしじゃー、ないけどね。雪女の話を他の人に話すと凍りついて死ぬのよ。あの刑事さんは、雪女のことを誰かに話したのよっ!」


「俺たちだって、話したぞっ!」


「バカねっ! あんたたちは、真理子が殺すなって言ったから助けたのよっ! 真理子に感謝しなさい。でも、次は死んでもらうわよ……」


 雪子は、ゆっくりと腕を上げて人差し指を立てた。


 それをゆっくりと男たちに向けようとしたところで……


「ひーえー、化け物ー!」


 男たちは、慌てふためいて、逃げて行った。


「……、なに、あれ、何しに来たのかしら……?」

 真理子は、雪子の顔を見た。


「退院した報告じゃないの……、これで少しは雪女を信じてくれればいいけど……」


「でも、一人足りなかったわねー」と真理子。


 その一部始終を見ていた、クラスメートの琴美が二人の後ろから声をかけた。


「この町から引っ越して行ったわ。遠くにね……」


「……、雪女が怖くて逃げだしたかな……」

 雪子は、薄笑いを浮かべた。


「それもあるかもしれないけど、あの悪たちからも、逃げたかったのよっ!」

 琴美は、真理子の横に来て、並んで歩いた。


「それが、懸命よねー」と真理子。


「……、入院がいい切っ掛けになったんじゃないの……」と琴美。


「琴美、あたしたちと話をするって、珍しいねー」

 真理子は、琴美に視線の移した。


「あなたたち、いつも一緒だし、仲いいし、他の人が入り込む隙ないじゃないっ!」

 琴美は、不満げに言う。


「だって、私たち、転校生だし、他の人、よく知らないものねー」と、真理子は雪子に同意を求めた。


「でも、今や、あなたたち有名よ! あの悪四人組を撃退して、病院送りにしたって……」

 琴美は、二人の顔を見た。


「えー、私たち、何もしてないって……」と雪子は、手を横に振って否定した。


「そうねー、雪子ちゃんが、腕を上げただけで、血相を描いて逃げて言ったんだから、凄いわよー!」


 琴美は、雪子たちの前に出て、指で拳銃の形を作って、二人に向けて撃つ真似をした。


「だって、わたし、雪ん子だから……」と雪子は、笑った。


「さっきは、雪女って言ってなかった?」と琴美。


「同じようなものだけど、あいつらが、勝手にそう思っていたから、話を合わせただけよ……」と雪子。


「でも、どうして私たちがやったって、噂が広がったのかしら……?」

 真理子が琴美を睨んだ。


「わたしじゃないわよー!」と琴美は、慌てて否定した。


 それに付け加えて……

「あの時、保健室で三年生の女子が寝ていたのよー」


「……、気が付かなかったわ」と雪子。


「でも、噂が広がったわりには、みんな凍らづに元気よねー」と琴美は雪子を見た。


「その辺は、許してくれると思うわ。実際に遭ったわけでもないから、ただの噂として……」


「でも、あいつらの話だと、刑事は凍死したそうよ」

 琴美は、また弾むように雪子たちの前に出て二人の顔を見た。


「そうね、何かもっと悪いことをして、雪女の逆鱗に触れたみたいねー」と雪子。


「確かに、人に好かれそうな、いい男ではなかったわね」と真理子。


「そうね……」と真理子と雪子は顔を見合わせて、思い出したように、ほくそ笑んだ。


「でも、嬉しいわー! これで、少しはおとなしくなってくれると、ありがたいけど……、あいつらとは小学校から一緒で、いやな奴らなのよ!」


 琴美は、先を歩きながら、また真理子の横まで来て並んだ。


「いるわねー、どこにもそういうのって……」

 真理子は思い出したように話を合わせた。


「わたしなんか、コンビニに行くでしょう。あいつらが、入口の横で座って、たむろしていると、何かされるんじゃないかと思って、ヒヤヒヤだもの……」

 琴美は、引きつった顔を見せた。


「わかるわー、……、」と真理子は相づちを打った。


「それが、この一ヵ月いなかったじゃない。コンビニに行きやすくなったもの。みんなそう思っているわよー」

 琴美は、尚も嬉しそうに話した。


「でも、退院してきたんでしょうー。またコンビニに座っているわよー」と真理子。


「まー、そんなにコンビニ、行かないからいいけど、でも、いやな感じだよねー」と琴美の落胆した渋い顔。


「琴美、わたしが守ってあげるから、仲良くしましょうー」と雪子。


「ほんと、嬉しいわー! あなた達のこと、春から気になっていたのよー。雪子ちゃんなんか運動神経いいし、スタイルいいし、女優さんみたいに綺麗だから、みんな注目していたと思うよー」 

 琴美は、春からの思いが叶ったように嬉しそうに話した。


「それ、褒め過ぎよー!」と真理子も嬉しそう。


「じゃー、琴美も水泳部に入らない?」

 真理子も、弾むように琴美の前に出て言った。


「……、水泳部なんてないわよー! 水泳のできる人は、みんなスイミングクラブに入っているから!」と琴美。


「それが、あるんだなー!」と真理子は、もったいぶって言う。


「でも、だめよー! わたしオーケストラ部だから……」


「あんた、楽器できるの?」


「そうよー! バイオリン、小さいころからやっているの!」


「あたし、ピアノなら少しできるわよ……」と真理子。


「大丈夫よ! 水泳部は、昼休み限定だから……」と雪子。


「今日は授業ないから、明日、プールに入る支度してくるのよ!」と真理子は、更に嬉しそうに言う……


「明日、体育の授業ないわよ!」


「だから、お昼休みの水泳部のためよー! それと、給食を入れるタッパーも持ってくるのよ。給食はプールで食べるから……」


 熱く語っていた三人は、気がつくと学校の前まで来ていた。


 今日も暑くなりそうな、一日の始まり……


 陽気に話す彼女たち三人は、まだ夏休みの余韻を残しているようだった。

 


 

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