第2話

 吐いた声が浴室にこだまする。


 アイドルになって13回目のライブ。ついに私たちのファンはいなくなった。

 私が加入して初めてのライブ、私のメンバーカラーのブーケが手渡され、笑顔で集合写真を撮った。その時は、20人を超えるファンが写真に写った。

 次のライブでは初めての対バンライブだったこともあり、ファンは10人ほどだったが訳が分からないくらい盛り上がった。

 その次の事務所主催ライブでは、事務所の先輩のファンも含めて50人ほどの観覧があった。私の物販にも10人ほどのファンが来てくれた。

 それからは、ずっと右下がりにファンが減り続けた。ワンマンライブ15人、対バン5人、私の物販に来てくれるファンも減り続け、いつも来てくれるファンが2人。その2人のために一生懸命歌い続けた。アルバイトの前に毎日2時間は自主練を重ねた。SNSも動画も毎日更新した。フォロワーもコメント数も増えていった。でも、世界ってすごく残酷だった。


 リハーサルを終えて、開演前のミーティング。チケット予約者のリストがマネージャーさんから提示されることはなかった。リーダーのかすみが確認したが、やっぱり「無い」とのことだった。

 頭の中が空っぽになり、円陣も組まずに開始してしまったライブ。

 ペンライト一本も見えない闇に飛び出した瞬間、恐怖に襲われた。ポジションについた瞬間、かすみが駆け寄ってきて「当日券で来る人もいるから、全力で行くよ」って私の腰をぽんぽんと叩いた。同じく姫夏(ひめか)のいる上手(かみて)に駆けていく。

 涙で視界のない中で1曲目、2曲目を終えた瞬間、立っていられなくなった。ふたりが駆け寄ってくる。会場の照明がつけられる。人のいない客席が明るくなる。

 それから何を話したかは覚えていない。「がんばろう」とか「みんなで話し合おう」とか「たまたまファンの人たち、予定あっただけだよ」とか「次は大丈夫だよ」とか、言ってたような。


 でも、次は2人来たとして、その次は0人だったら?

 3カ月後も0人だったら。

 私ひとりが背負うものではないと思う。

 でも、私のパフォーマンスが一番低いのはよくわかっていた。

 がんばっても成長速度は上がらない。

 私がいなくなったところで、このグループのファンが増えることはないかもしれない。

 でも、私はもうここで頑張ることはできない。気持ちが擦り減りすぎてしまった。暗黒の客席を見た瞬間、折れてしまった。

 辞めればいいと思う。

 でも、もう周りの無責任な励ましに向かう気力も残っていなかった。だから、もう終わりにしようと思う。

 見回して、扉がガムテープで目張りしてあることを確認する。



 そして、空っぽの浴槽の中に置いた練炭に人を点けた。

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