異世界転生したら国王暗殺事件の犯人を捜すことになった件

麻立朗

第1話 転生

佳祐とは、仲が良かった。いつの頃だっただろうか。あれは小学校の時に、俺が引っ越してきた時だったか。その時からの付き合いとなる。


 あだ名で呼び合うこともなかったと思う。『雄二』『佳祐』という呼び方でしかなかった。中学校に入っても、その関係は変わらなかった。


 時には、誰が好きだとか誰それが可愛いだとかそんな他愛もない話をしていたと思う。しかし、佳祐の家は常に暗かった。家族がいた様子もなく、毎日何をしていたのかわからない。

 

 単身赴任……。


 佳祐の父親は不動産の仕事をしていると話していた。そして、海外にいかなければならず、母親もそれに同行していると。すなわち、佳祐は一人であの不夜城に暮らしているということになる。


しかし、ほぼ一人暮らしというのは、俺と変わらない。なのに俺は佳祐の家に行くことは全くなかった。



 そして、俺は今日。


 佳祐にある場所に連れて来られた。


「どうだ、ここ」


「なんだよ、一体。もうそろそろ大学受験だって近いんだぜ? 佳祐。お前は賢いから良いかも知れないが、俺はそう簡単にはいかない」


 学校が終わると、自転車を走らせて「ついてきてくれ」と、それだけ言われた。


 俺たちの家とは真逆。


 平原が広がるようで、草木の手入れはされていない野山だった。


 外部からは俺たちの様子は見えないだろう。


「この祠、お前に見えるか?」


 佳祐は自転車を止めて、ずいと奥へと掻き分けて歩いていく。


「なんだよ」


 佳祐の後をついていく。背中越しに、木製の何かが目に入った。


 ようやく佳祐の歩みが止まるかと思うと、その木製の祠を指差す。


 祠はすでに朽ちかけており、観音開きになっているその中には仏像や地蔵があるわけでもなかった。空っぽである。


「これ、お前にはわかるよな?」


「なんのことだ。この祠がなんだってんだ? お前はいつのまにホラーが好きになったんだ?」


 この地域には、道祖神信仰があるとか聞いたことがある。その昔、郷土史家とかいう爺さんが学校にきて、講義をしていったことを思い出す。


 そういえば、その話を佳祐は熱心に聞いていた。


「なぁ、お前には見えるよな? この祠が」


 もう一度、念を押すように俺に確認してくる。


「薄汚いそれな。ああ、わかるよ。中には何にもないみたいだが……」


 佳祐の肩越しに、そのブツを眺める。


 よく見ると、その祠の両側には模様が彫られていた。


 なんだろうか、これは。


 波のような……。更には房のついた刀……だろうか。それ以上はボロボロで分からなかった。


「そうか、そうだよな。雄二には見えるよな。ああ、良かったよ」


 一体、何を言っているのか分からなかった。


「大丈夫だ。そんな汚い祠、誰にでも見える。安心しろ。変なもんじゃねえよ。きっと、前に郷土史家の爺さんが話してたような……」


 と言って、佳祐の顔を見ると、奴は泣いていた。


「ごめんな。雄二。でも、やっぱり雄二しかいないんだ。頼むよ。信じてくれ、俺のことを。そして、雄二に託した」


「お、おい、何のことだよ、どうした」


 祠の方から、鈴の鳴る音がする。


 鳥が羽ばたく音、そしてカラスの声。


 祠の中は光っていた。それはもう眩いほどに。


「なんだよこれ! 佳祐!」


「あとを頼む。雄二は賢い。俺のことも、国も、全部救ってくれるさ。待ってるぞ、雄二!」


 そういうと、光は俺たちを包み込んだ。


ーーーーー


ーーー



「あんた……よく食べるわね……」


「おう! 仕方ねえだろ! こちとら二日間も寝たきりだったみたいなんだからな!」


「本当いい加減にしてくれる? ただでさえ忙しいんだから今は!」


「ああ? 俺だって大変忙しいんだよ!」


 俺は、見知らぬ地の見知らぬ場所で、肉料理を食らっていた。


「しっかし、本当にびっくりしたわよ」


「そうだそうだ。俺が見つかった? とかいう時の状況を教えてくれないか」


「分かったわよ。あれは、二日前の夜中よ。今、この国は色々あってね。それで、自警団の『龍牙』(りゅうが)の構成員の人が、この店の裏山の見廻りに行ってたの。そしたら、あんたがぶっ倒れてたってこと。誰に聞いても身元も分からないし、て。それでこの酒場の主人のロクスさんが引き取ってくれたのよ。もう少しでロクスさんも帰ってくるから、大人しく待ってるのよ。あんたが目覚めたって知ってきっと驚くわよ」


 俺は変な光に包まれた後、二日間も眠っていたらしい。そして、この店の人間に引き取られたと。で、目が覚めたら、腹が減って仕方なく。ここの店で働いている、リンナとかいうやつに肉料理を振る舞われているということだ。


「なるほど。で、ここはどこだ?」


 俺は、骨付き肉を貪りながらリンナに尋ねる。


「あんた記憶喪失なの? ここは、ホウデンカ国よ。きっと私生活で何か嫌なことがあったのね、うんうん」


 リンナは勝手にそう言い聞かせて、頷いている。


 小さい身体ながら、エプロンを締めている様子はサマになっている。


「ホウデンカ国……。そんな国、世界にあったか? ええと……つかぬことを聞くが、日本ってのはどこだ?」


「日本? 知らないわよ。そんな国」


「ほうー……それはあれだな。その。俺……いわゆる、、異世界転生ってやつだな!!!」

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