第233話 武闘大会が終わりました

 休み明け。王立学園の職員室にて。

 王都で開かれていた武闘大会が終わって、クラエルは通常通りに出勤してきていた。


「それにしても……驚きましたよね。決勝戦、見ましたか?」


 のほほんとした顔で訊ねてきたのは、同僚であるユリィ・カネスタである。


「準決勝で優勝候補だったガードリー君が負けてしまって、決勝戦はフレイム君と無名の剣士が戦ったんですよ?」


「そうなんですか? 意外な展開ですね」


 特に驚いた様子もなく、クラエルが答えた。

 全然、少しも意外ではない。

 ゲームのシナリオと同じ戦いのカードだ。

 決勝戦で戦ったのは、ヴィンセント・フレイムと十兵衛という名前のサムライ。どちらも『虹色に煌めく彼方』の攻略キャラだった。


「そうなんですよ! ガードリー君を倒したのは他国からやってきた剣士で、すごい強かったんですよ!? フレイム君とはすごい激しい戦いをしていて、すごいすごかったんですからねっ!」


「とにかくすごかったんですね。そんな見ごたえのある試合だったら、僕も見に行けば良かったですよ」


 決勝戦くらいは応援に行こうかと思っていたものの……大会期間中は仕事が忙しかったり、エリカやレイナに振り回されたりで忘れていた。


(まあ、俺にとってはほぼ関わりのない生徒だからな……レイナは結局、応援に行かなかったのか?)


 ゲームではレイナが応援に行き、ヴィンセントと十兵衛との間で板挟みになったりする場面もあったのだが……あまり興味がなさそうだったし、フラグを折ってしまったのかもしれない。


(ヴィンセントの攻略も進んでいる様子もないし、十兵衛のこともスルーかな? まあ、レイナがそれで良いのなら、俺が文句を言うことはないけれど)


「結局、最後はヴィンセント君が優勝したんですよ! ウチの学園の生徒が勝ってくれて、本当に良かったですよー」


「そうですね……流れ者の剣士に優勝をかっさらわれてしまったら、色々と面目もたたないですからね」


「ロック先生もきっと安心していますよ。すごい応援に熱が入っていましたからねー」


 学園の体育教師であるビッグ・ロックは剣術の指導員でもあるため、王立学園の生徒を絶対に勝たせたかったに違いない。

 準決勝でガードリーが十兵衛に敗れて、誰よりもハラハラしていたのは彼だろう。


「ともあれ……今日から通常授業。期末テストも終わりましたし、じきに冬休みですねー。クラエル先生は冬休みに用事はあるんですか?」


「うーん……特に決まってはいないんですよね。エッグベルに帰省をとも考えたんですけど……」


 クラエルが「うーん」と考え込む。

 帰省したとしても、やるべきことは特にない。

 町の人々とは手紙のやり取りをしているものの、新しい司祭が良くやってくれているらしく、クラエルが帰っても居場所はないだろう。


(レイナは……どうするんだろうな。大神殿で聖務に従事するのか、それとも冬休みイベントを消化するのか……)


 レイナの冬休みの過ごし方は、攻略キャラの進行具合によって変わる。

 エリックとのルートを進めていると、エリックと一緒に他国に外遊するイベントが起こる。

 ヴィンセントのルートであれば雪山で修行。ウィルのルートであれば温泉旅行。リューイのルートであれば一緒に妖精郷という場所に迷い込むイベントが生じる。


(だけど……あの四人のルートを進めている感じじゃないんだよな。そうだとしたら、共通ルートなのかな?)


「失礼します」


 ガラガラと職員室の扉が開いて……現れたのは、まさに思い浮かべていたレイナであった。

 レイナはクラエルを見つけるとニッコリと笑い、歩み寄ってくる。


「ごきげんよう、クラエル様」


「ああ、レイナ。どうかしましたか?」


「ちょっと、お願いしたいことがあるんですが……お時間は良いでしょうか?」


「ええ、構いませんけど……?」


 何の用事だろう。クラエルは首を傾げた。


(前にも、こんなことがあったような……まあ、良いか)


「それでは、ユリィ先生。また後で」


「はい、また」


 ユリィに挨拶してから、クラエルはレイナに連れられて職員室から出ていった。

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