第16話  新しい恋人

 レイが、ユネスコで働き始めて半年が過ぎた。

 職場は快適で、仕事内容も覚えてきて生活は充実していた。

 三ヶ月後にはパリに転勤が決まっていた。

 レイは赴任の日が近づいたら、リコに別れを切り出そうと考えていた。

 家でのリコとのいさかいがなければ、ニューヨークでの生活は十分に楽しかったが、パリでの生活は魅力的だ。

 つい最近、アシスタントにアンナという若い女の子が付いた。

 アンナはアニメの大ファンで、ラパンに行ったことがあると話しかけてきた。

 休み時間になると、決まってレイの側に来てラパンのことを聞きたがる。

 今度ラパンに帰るときは、連れていって欲しいと言ってきた。

 レイは結婚しているからと断ると、奥さんと友達になるから紹介して欲しいと引き下がらなかった。

「僕の奥さんは、元プリンセスから、友達にはなれないよ」

「それは素晴らしい、尚更会ってみたいわ!」

「だめだよ、彼女が嫌がる」

「元プリンセスでしょ、国際交流だからと話してみて。そうだレイの家でスイス料理を作るのはどう?私が作るから」

「ああ、わかった。聞いてみるよ」

 レイはアンナに適当に答えて、お茶を濁した。

 アンナは明るく気が利いて、小まめに動いて皆に可愛がられていた。

 最初は妹のような感情だったが、徐々にレイの気持ちが変わっていった。

 アンナは今まで付き合った、上から目線のお嬢さんたちとは一線を画していた。

 レイと同じで一般的な庶民の出身なので、一緒にいると肩の力が抜けて楽だった。

 素直で料理上手で綺麗好き、リコとは多違いだ。

 何よりも、下僕を演じなくてもよく、アンナの前では一人の男になれた。

 ただ外国人なので、少し価値観の違いはあるが我慢できないほどではなかった。

 いつしか、二人きりで食事をしたりバーにいったりしている内に、週末はアンナの部屋で一緒に過ごすようになった。

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