第12話 蛭女

 父親のヒロは、レイが11歳の時に自殺をしている。

 原因は過労とも、家庭内の不破とも言われている。

 公務員だったヒロは、妻のトヨの浪費に悩んでいた。

 レイを音大の付属小学校に入れて近くに住み、夫とは別居生活をしていた。

 音大の付属小学校は、レッスン代や発表会の前のお披露目会など、出費が嵩むことで有名だ。

 ヒロの両親が地主で地代収入があったので、足りない分のお金を常に無心していた。

 それが原因で両親と妻が不仲になった。

 ヒロは板挟みになり、体調も壊し仕事も休みがちになった。

 最後は、鬱状態になり自殺した。

 トヨは亡くなったヒロが相続する筈だった遺産の分割を、息子のレイを相続人として要求した。

 その後に、レイの父方の祖父母は相次いで自殺した。

 ヒロの死により保険金で弁済されたマンションと、多額の保険金がトヨの手元に残った。

 それでも、ベーカリーショップでの収入と遺族年金だけでは、浪費家のトヨには足りない。

 セレブ生活を維持するためには、お金が必要だ。

 未亡人となったトヨは、手段を選ばなかった。

 やり方は不特定多数の愛人を作り、そこから生活費を調達する。

 狙いは、独り身の初老の紳士だった。

 妻のいない男の心と体の隙間に、トヨはアメーバーのように入り込んた。

 そして、蛭が血を吸うように、男のお金をとことんまで吸い取るのがトヨの手口だった。

 そんなトヨが、本当のセレブのリコを見逃すはずがなかった。

 トヨはレイに強烈な援護射撃をして、リコを射落とすように息子を支援した。

 思惑通りに、レイはリコを射止めトヨはスーパーセレブの姑になった。

 トヨの高笑いが聞こえてきそうだが、まだこれはオムロン劇場の第一幕が終わったに過ぎない。

 蛭女ひるおんなトヨは息子を使ってリコを底なしの沼に引き寄せたところだ。

まもなく、第二幕の緞帳どんちょうが上る。


トヨは、ターゲットにぴったりなやもめ男が同じマンションに住んでいることに気づいた。

 男は初老の離婚歴のある男で、小金持だ。

 トヨはこの男から、結婚を盾にレイの教育費を借りた。

 それは男の老齢な母親からも寸借も含み、数10回にも及んだ。

 その男とは金を借りるだけの関係だけで、数年経ってもトヨは結婚を承諾しなかった。

 それどころか、保険金欲しさにトヨが受取人になることを提案してきた。

 トヨと彼との関係はプラトニックなものだった。

 ところがトヨは、いつまでも結婚を伸ばしていた為に、金づるだった男に婚約を破棄され、さらに借した金の返済を求められた。

 開き直ったトヨは、お金は貰ったものだと突っぱねた。

 これが泥試合の始まりで、このことが息子レイの結婚に大きな汚点を残すことになった。

 マスコミは、レイとトヨ親子の醜聞を大々的にに報道した。



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