第5話 カウンセラー

 リザは、精神科医としてカウンセリングをしている。

 ほとんどの患者は紹介者がいて、完全な予約制だ。

 月に一回は親の虐待で、心に傷を持つ子供達の施設にもいっている。

 リザが精神科医になったのは父親の二度の離婚が原因だ。

 リザには弟が二人いた。

 父のジョンの再婚相手の連れ子カイと、二度目の母と父の間にできたラリーだ。

 離婚によって家族はバラバラになり、リザの心も傷ついた。

 リザはその後大学で心理学を専攻した。

 卒業後は医学を学び精神科の医師になった。

 今日は、知人の紹介で『秘密の花園』を訪ねてきた。

 今回の患者は、30歳の東洋系の女性だった。

 怪しい場所なのは、聞いていたので変には思わなかった。

 それよりも、患者の幼さが気になった。

 年齢の割には、考え方が稚拙過ぎた。

 初めは警戒して、話をしなかったが、週に一回カウンセリングをすると徐々に話をするようになっていった。

 彼女は以前働いていた博物館で度々癇癪を起こしカウンセリングを受けるまで、出勤を止められた。

 とてもショックだったが、どのカウンセラーがいいかわからなく受けなかったら仕事を解雇された。

 淡々と話をしているが、興奮すると癇癪を起こして手がつけられない事もあった。

 リザは思い切って、生い立ちを聞いてみることにした。

 最初は話さなかったが、何回か回数を重ねると高貴な生まれだと話し始めた。

 リコと言う女性は今までの経緯を話し、病気ならば早く直して欲しいと頼んできた。

「大丈夫よ、きっと直るわ」

 リコは目を潤ませて、頷(うなづ)いた。


『自己愛性パーソナルティー障害』それと『セックス依存症』

 リコの病名は、この二つだ。

 自己愛性パーソナリティー障害は、本人は気が付かない。

 職場などで周りの人間に迷惑をかけても認めないので、無理やり病院に連れて行かれるのがほとんどだ。

 彼女自身が気づいても、性格的なものだと周りが諦める立場だった。

 この病気は、長い期間カウンセリングを受ければ治る。

 セックス依存症は『何かに耐えられず不安や孤独感を和らげるためにセックスを用いる』

 彼女はまさにこのタイプだ。

 本来患者に対しては守秘義務があるが、今回は不可解な事が多すぎた。

 リザは父のジョンにメールで相談をしてみることにした。

 ジョンは民間の警備会社のエージェントをしていて、行方不明者を捜す仕事も多く受けている。

 失踪者に東洋の高貴な身分の30歳前後の女性はいないかと。

 程なくメールの返信が届き、写真が添付してあった。

 リザは添付された写真を開いて見た。

 やはり思っていた通りだった。

 その晩、携帯にカイから電話がかかってきた。

 カイはジョンの組織で働いている。

 リザはカイに詳細を伝えた。

「リザ、貴重な情報をありがとう。助かったよ。これは事件の解決に大きく役立つよ」

「カイ、役に立てて嬉しいわ。あなたの力になりたいの、これからもずっと」

「頼りにしているよ、リザ」

「子供の頃のあなたを深く傷つけてしまって、許すことはできないかもしれないけど」

「もういいって、何回も言っただろう。僕たちはかつて姉弟だった。これからも同じだよ」

「カイ、ありがとう」

 リザは、メールを閉じた。

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