雨の聖女として召喚された私、追放されたので隣国で雨を降らせます
ぽりぷろぴれん、
プロローグ
プロローグ
――雨よ降れ
この乾いた大地に恵みの雨を
生きる人々の心に癒しの雨を
雨よ降れ、雨よ降れ……――
乾ききった街の真ん中で、黒く美しい髪を持った少女が跪き神に祈りを捧げていた。
少女が纏う真っ白に見える裾の長い服は、光の当たる加減によって緑や青、黄にほんのり色を変え、神秘さを放っていた。
そんな少女を取り囲むのは希望に満ち溢れた目をする住人たちと、守るように立ちはだかる騎士服を着た屈強な男たちと、そして風にさらさらと舞う砂ぼこり。
目の前にある噴水の真ん中には、美しい女を象った石像があるが、本来それを取り囲んでいるはずの水はどこにも見当たらない。
――雨よ、降れ
やつれた住人たちに心を痛めた少女が今一度強く願うと、少女の右手の甲に浮かび上がる紋章が青色に光り出す。
その光はあっという間に大きくなり、やがて少女包み込み、そして天へと力強く伸びて行った。
体からふっと力が抜けるのを感じた少女は、握りしめていた両手をそっと解き、空へと視線を向ける。
――そこからぽたぽたと、数秒もしないうちに地面へと叩きつけるように降ってきたのは雨だった。
「雨だ……!」
「すごい!本当に雨が降ってきた!!」
「これでなんとか生きていける……!」
びしゃびしゃと叩きつける雨をものともせず、住人同士で肩を組み、抱き合い、中にはなきくずれる者までいた。
その様子をしばし眺めていた少女だったが、次の場所に向かわなければ、と重い腰をなんとか上げる。
――自分の力で、こんなに喜んでもらえるなんて。
雨なんて嫌いだった。
鬱陶しかった。
それでも、必要としてくれる人がいるならば。
少女はいくらでも頑張ろうと思えるのだった。
なぜなら、少女は……。
「ありがとう聖女さま!!」
"聖女"と呼ばれる、人々の希望なのだから。
―――――――――――――――――――
「――ヒカリ・オーカド……君には失望したよ」
いくつものシャンデリアに照らされ、色とりどりのドレスと豪華な食事で飾り付けられた王城のホール。
今日はその中心で呆然と立ち尽くしている少女、大門おおかど 耀ひかりの誕生日パーティー……のはずだったのだが。
先程までの楽しい雰囲気とは違い、混乱と少しの好奇心で溢れかえっていた。
「僕たちには生きる上で雨が必要だ、だから君をここに呼んだ。そして、何一つ不自由のないように、力を尽くしてきたつもりだ……だというのに……!」
「……レ、レナード、様……?」
今まで優しげに微笑みかけてくれていた青の瞳には今や、ヒカリに対する憎悪しか浮かんでいなかった。
男の名前はレナード・フェルセベス。
雨が降ることの無い太陽の国――フェルセベス王国の第一王子で、ヒカリの婚約者でもある。
「ヒカリ、君はマリアーヌに嫉妬し、悪意のある嫌がらせをしていたようだね」
「そ、そんなっ!違います、そんなことしてません!」
「言い訳をしても無駄だ、マリアーヌだけじゃない、他にもメイドや騎士からの証言もある」
「私じゃありません……!レナード様、信じてください!」
「すまないが君の言葉を信じることはできない。証拠だってあるんだ。……さぁ、マリアーヌ、何があったのか教えてくれるね?」
ヒカリの言葉を一切受け取ることなくレナードが呼び寄せたのは、糸のように細い銀の髪とエメラルドのような瞳を持つ美しい女だった。
ヒカリは直接関わったことは無かったが、マリアーヌと呼ばれた女のことを知っている。
「ヒカリ様は……わたくしのことが許せなかったのだと思いますわ……」
ほろほろと涙を流すマリアーヌの、なんと美しい事か。
シャンデリアの光を反射し、角度によって見える色の違うドレスと、水色の宝石を使ったアクセサリー……それらが全て、マリアーヌという女を最大限に引き立たせていた。
マリアーヌ・レイエイド……レイエイド侯爵家の長女で、ヒカリが現れるまではレナードの婚約者候補筆頭だったという。
しかし、ヒカリが現れたことでレナードの婚約者はヒカリに決まり、マリアーヌのほうも有名な貴族子息との婚約が決まっていたはず。
そんなマリアーヌが、なぜレナードの隣に……?
そして、ヒカリがマリアーヌを虐めていたというのは一体なんの事だろうか。
(マリアーヌ様……レナード様……なんで、こんなことに……)
ほろほろと涙を流すマリアーヌを呆然と眺めながら、ヒカリは何故こうなってしまったのかを思い出す――。
雨の聖女として召喚された私、追放されたので隣国で雨を降らせます ぽりぷろぴれん、 @poriporipiren
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